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22.好事魔多し

「んんっ……」


眠った雫からそっと離れ、ベッドに寝かせて布団をかけてからしばらく。

くぐもった声が漏れ、色々な意味で目が覚めた雫が起床。


「……? ここ……?」

「おはよう、雫」

「っ!? お、おはよう……?」


流石に雫といえども、起きたばかりでは頭が働かないか。

寝起きの悪さは俺もよく知るところだし、体を起こせただけ上等だろ。


「……あ、そっか。寝ちゃってた?」

「それはもうぐっすりと」

「あはは……えっと、今何時?」

「7時前。勿論、午後の方」

「夜……だね」


とっぷりと日は暮れ、辺りは暗くなっている。

これもまた色々な意味で寝た子を起こす訳にはいかないので、

自然に起きるまで寝かせようと思っていたらこうなった。


「ごめんね、まさかこんなに寝ちゃうなんて……」

「大丈夫だって。それより、頭とか痛かったりしないか?」

「えっと……少し。寝過ぎたのかな……?」

「とりあえず水飲んどけ」


コップに入れた水を渡し、アルコールが抜けるのを促す。

今回は本当に危なかった。自制心は強い方であると自負していたが、

ノーガードかつリミッターが外れた雫の破壊力は高過ぎた。

あんな甘えん坊に、そして肉食女子になるとはな……


「んっ……ありがとう。……ねぇ、怜二君」

「何だ?」

「その……怜二君の家に来て、部屋に入ったのは覚えてるけど、

 そこからの記憶が無くて……何かあった?」


よかった。あの惨事の記憶は消し飛んだらしい。

それならそういうことにしよう。


「いや、そのまま寝ただけ」

「……本当に?」

「本当に」

「……じゃあ、何で目を逸らしてるの?」

「……その」


……直視できる訳ねぇだろ! とんでもねぇことがあったんだよ!

下手したら俺と雫の関係が壊れかねない大事件が起こりかけたよ!


「ねぇ、教えて。怜二君に迷惑かけちゃったかもしれないし……」

「……何も無かったから」

「むー……なんとなくだけどさ、ウソついてない?」


渚さんのエスパー能力は、娘である雫にも受け継がれている。

だから、雫相手にウソはほぼ無意味だ。

俺を疑っていることを責め、追求から逃れるという手もあるが、

そういうやり方で押さえつけることはしたくない。

となれば……選択肢は、一つしかない。


「先に言っておくが、俺は迷惑とは思ってない。

 だから、なるべく落ち着いて聞いてくれ」

「うん、分かった」


これもまた、共有することだ。

例えお互いに死ぬ程恥ずかしい思いをすることになるとしても。




「で、その間に俺は抜け出した」

「……本当に?」

「本当だ」


雫は俺のウソを見抜くことができる。

そして、俺がウソをついていないことを見抜くこともできる。

この辺は遺伝であると同時に、雫の頭の良さの表れと言える。


「……夢じゃなかったんだ」

「夢だと思ってたのか?」

「うん……実は、断片的には覚えてる」


流石にあんなハチャメチャなことをしておいて、全て忘れたとはならんか。

どこからどこまでを覚えてるのかは分からんが。


「怜二君にもの凄くベタベタしてたことは覚えてるんだけど、

 ボク、そんなはしたないことまでしてたの……?」

「……眠ってくれなかったら、大変なことになってた」

「あう……」


俺が雫に告白した時以来で、その時よりもヤバかった。

雫が十分に睡眠をとっていたらと思うと、真冬なのに冷や汗が止まらない。


「ごめんな。俺がもっとしっかりしてればよかった」

「ううん、ボクこそごめん。……うぅ」


これはからかっていいものではないな。本気で凹んでる。

でも、一人にしておくよりは傍にいた方がいいはず。


(かける言葉は、持ち合わせてないけど……)


互いに沈黙すること暫く。

部屋が静寂に包まれる中、雫がポツリと話し出した。


「……その、さ」

「ん?」

「ボク、怜二君にだったら何されてもいいよ。……ううん、違うな。

 怜二君に……何もかも、して欲しい」


ゆっくりとベッドに寝転び、両手を広げる。

まだ酔ってると言い張るには、時間が経過し過ぎている。


(……分かってる。とても分かってるが)


こちとら健全な男子高校生。当然、性欲はある。

自室でわがままボディの彼女と二人きりで、この言葉に加え、

完全服従のポーズまで。……据え膳が過ぎる。

愛する彼女にここまでされて、何もしない男がいるだろうか。

いたとしても、そいつは優しいんじゃない。ただの臆病者だ。

俺のやることは、もう決まっている。


「雫」

「……うん」

「……悪いけど、一回起きてくれねぇか?」

「え?」


静まり返った部屋の中では、小さな音でもよく響く。そして気配もある。

だから、俺は気づくことができた。

黙って、部屋の入り口へと指をさす。




「……やあ」




薄く開かれた、扉の先。

ニヤつきと苦笑が入り混じった、何とも形容しがたい表情の姉貴がいた。




「いやそろそろ夕ご飯だから雫ちゃんも一緒にどうかなと思ったものでして

 決して二人の行為を覗きたかったとかそういう気持ちはなくてですね

 ゆっくりと覗くことでイチャつく二人が見られるかなと思った次第で

 そしたら予想外の光景が広がっていたことで思わず目が離せ……」

「言い訳の前に言うべきことがあるよな?」

「本ッ当にすいませんでしたッ!」


銃弾のような速度で土下座する姉貴を見て、色々とどうでもよくなった。

部屋に鍵をかけてなかったから、誰でも入れる状況ではあったが、

意図的に気づかれないようにしようとしていた時点でもう、ね。


「……夕ご飯の用意ができたってのは事実だし、雫ちゃんの分もあるよ。

 なんなら泊まってもらってもいいし」

「その雫がどうなってるのか見えんのか?」

「……本当にごめんなさい」


俺のベッドの上には、こんもりと膨らんだ掛け布団。

どこから見られていたのか、或いは聞かれていたのかは分からないが、

俺以外に見られたくも聞かれたくもなかったのは間違いない。

……俺もタイミングを選ぶべきだっただろうか。

放置する訳にもいかないから、結局はこうしたが……


「雫ー。姉貴は後でシバいとくから」

「……ボク、もうここに住む」

(……当分無理っぽいな)


この中身は間違いなく、羞恥MAXで真っ赤になっていることだろう。

無理に引き剥がす訳にもいかないし、どうしたものか。


「姉貴。メシはこっちで食うことにするわ。

 俺の分と雫の分運んでくれ」

「うん。……雫ちゃん、本当にごめんね?」


この状態の雫を一人にはしておけない。

大変なことが起こると思ったら、全くもって別の問題になるとは。

姉貴も大変なことしてくれやがったよ。……ただ。


(……正直、助かった)


俺は臆病者だ。事が突然すぎるし、覚悟も決まってない。

……でも、雫にここまで言わせたんだ。

となれば、俺も男にならなければならない。


(覚悟決めなきゃな)


身勝手な欲望で、雫を傷つけてはならない。

だが、臆病故に何もしないことも、結局は傷つけることになる。

本質的にはどちらもダメだということを、しっかりと認識しよう。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 雫ちゃん可愛い過ぎです。 独り身の男を殺す気ですか? [気になる点] ☆の六個目以降を押したいです。 どうにかなりませんかね。 [一言] 更新お疲れ様です(^_^ゞ 怜二くん、とても悩むと…
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