21.食肉目ネコ科
「ほら、入れ」
「うん。……おぉ、綺麗な部屋」
「年末に大掃除したからな」
普段からちょくちょく片付けてはいるけども。
機能性と値段重視でまとめた部屋は、飾りっ気皆無。
よく言えば素朴、悪く言えばつまらない部屋。
「とりあえず寝とく?」
「んー……」
ふらふらしながら、俺のベッドに倒れこむ。
そして、そのまま顔面をぐりぐりとしながら。
「えへへぇ……怜二君の匂い……♪」
体もよじるようにして、敷布団にこすりつける。
やるとは思ったけども、マーキングされてるな。
(まぁ、好きなようにさせるか)
寝るにしろ寝ないにしろ、疲れはあるだろうしな。
正月は休みが基本だ。ゆっくりしとけ。
「ぬー……」
パソコンを立ち上げて動画を見ていたら、
ベッドに横になっていた雫の声が後ろから。
唸りとも呻きともとれず、よく分からんがどうした?
「怜二くーん」
「どした?」
椅子から立ち上がり、振り向くとそこには。
「かまえー」
俺から見ると顔が反対向きに見える体勢で、
諸手をこっちに向けて伸ばし、可愛いおねだりをする可愛い生き物がいた。
「かーまーえー」
「はいはい」
足をバタバタさせながら構われたがってる彼女の元へ。
眠くなっているせいか、いつになく子供っぽくなってるのがまた可愛い。
「で、どうすればいいんだ?」
「えへへー……ぎゅーっ♪」
ベッドの縁に腰掛けると、横からのしかかるようにして抱きつかれた。
この動物チックな愛情表現、久しぶりな気がする。
人前じゃ出来ないから、こういう時にしたかったのかも。
「よしよし」
「えへへぇ~……♪」
頭を撫でながら、そっと背中に手を回す。
雫に尻尾があったら全力でブンブン振り回してるだろうな。
なんなら一瞬空目した。……で、だが。
(何か……気になるな)
ここまでゆるゆるになって甘えてくる雫は珍しい。
どう振舞おうが可愛いから、俺にとっては何の問題もないが、
どこかいつもと違う気が……ん? あれ、まさか……?
「雫、一つ聞きたい」
「んぅ~?」
「……お屠蘇、変な味しなかったか?」
「ぽーっとはしたけど、おいしかったよ~?」
「そうか……」
この紅潮した顔、気持ちや感情に由来するものではない。
恐らくは……これ、酔ってる。
(アルコール飛ばしきってなかったのか……?)
いや、俺も口にしたけど変な味はしなかった。
同じ物を飲んだから、親父用のを飲み間違えたということもない。
……ここに来て、雫の弱点が見つかった。
雫はノンアルのお屠蘇で酔うぐらいに、酒に弱い。
一応、みりんにはアルコールが入っているから、
その影響なのかもしれないが……こんなことになるとは。
「怜二君大好きぃ~♪」
「うん、俺も雫が大好きだ」
「えへへぇ~♪」
ふにゃふにゃというか、ぐでんぐでん。
いつもの凛とした雫はどこかに消し飛び、甘えん坊に。
本能的に感じる。この雫は危険だ。
(どう取り扱ったらいいんだ……?)
下手に刺激を与えると何をするか分からん。
ここはなるべく雫がやりたいようにさせつつ、寝かすべきか。
「んぅー」
色々と思案していたら、雫が目を閉じて唇を突き出していた。
考えるまでもなく、キスの要求か。
「ん」
「んっ……」
人前じゃなきゃ、キスぐらいいくらでもしてやる。
というか、むしろ俺がした……んんっ!?」
「んっ!」
「うぉっ!?」
「あっ……逃げられたぁ」
舌! 舌が! 今思いっきり舌入れようとしてきたぞ!?
やっぱりこの雫は危険だ! 完全に箍が外れてる!
「いきなり何すんだよ!?」
「怜二君が美味しそうだったからぁ、食べたくなったの~♪」
このままだと俺喰われる! この甘えん坊な酔いどれ娘に喰われる!
どうすりゃいいんだ!? こんな形で一線越えたくねぇぞ俺は!
「ほーら、逃げないのー♪」
「ちょっと待……んぐっ!?」
「んー♪」
この体勢はまずい! 足まで使って組み付かれたら引き剥がせん!
しかもいつの間にか押し倒されてるし、雫は全力で俺の口をこじ開けに来てる!
「んあー♪」
(んんんっ!?)
めちゃくちゃ唇舐められてる! 一瞬でも気ぃ抜いたら入れられる!
そうなったら多分俺も理性吹っ飛ぶし、お互いに無事じゃ済まない!
とにかく耐えるしかない。一時の気の迷いで過ちを犯しては……っ!?
「んー♪ あむー♪」
(あ……)
……何だろ、この俺の口内にある肉厚なモノ。
俺も同じのを持ってるはずなんだが、何故か俺の意志と関係なく動いてる。
そしてこの粘ついた水音は何だ? 耳じゃなくて脳にキてるんだけど。
いや、分かってはいる。全て分かってるが……無理、もう頭回んない。
(雫……ごめん……)
彼女とはいえ、酔ってる相手にこんなことをするのは最低だ。
だけど、どうやら俺はここまでされたら獣になってしまうらしい。
酔いが醒めたら殴ってくれ。なんなら別れを告げていい。
最愛の彼女を傷つけるような男に、彼氏でいる資格なんて……
(……あれ?)
気づいたら、俺を貪るようにしていた雫の舌が止まっていた。
脳を直接舐めるかのような水音も消え、代わりに聞こえたのは。
「すぅ……すぅ……」
とても可愛らしい、寝息。
(……助かった)
どうやら三大欲求の内二つのせめぎ合いの結果、睡眠欲が勝ったらしい。
酒って本質的には眠くなるものと聞くし、弱いなら尚更だろ。
いずれにしても、雫を傷つけることにならなくてよかった……




