19.ほぼ一家団欒
渚さんが持ってきた重箱に詰められたおせちは、予想以上に豪華だった。
たっぷりの数の子の他、伊達巻に紅白かまぼこに栗きんとん等々の祝い肴、
海老に鰤に鯛といった焼き物、レンコンとたけのこを使った煮物、
変わった所ではプチグラタンにカナッペと洋風のものまで。
チラシや広告でしか見たことのないものを現物で見ることになるとは。
「流石に全部は無理だけど、一応大体は手作り。
特に黒豆は雫に任せたから、怜君はたっぷり食べて頂戴♪」
「え、マジで!?」
「うん……がんばった」
しわは寄ってないし、ふっくらとしてツヤがある。
初デートの時の弁当から、料理上手ということは知っていたが……
「ボクと怜二君の家のどっちの味になるかはまだ分からないけど、
まずはボクの家の味を知ってもらおうかなと思って」
「雫……ありがとな。しっかり味わわせてもらうよ」
日々感じていることだが、俺は雫にこんなにも想われている。
本当に嬉しくて、幸せで……胸が一杯だ。
そして、そう感じているのは俺だけではないようで。
「……あぁ、尊い」
発音が綺麗になるぐらいには、姉貴も同じ感情であるらしい。
姉貴がこんなに浄化されてるのを見るの、生まれて初めてかもしれん。
『上は大水、下は大火事、これおーふろ?』
『言っちゃってるよ答え!』
年末年始の特番は色々とあるが、水橋家はお笑い番組を見るらしい。
ここは藤田家と同じだな。
「そうそう、忘れない内に渡しましょ」
「そうだな」
突然、源治さんと渚さんが席を立った。
渡すって何を……まさか。
「はい、怜君」
「え、いいんですか?」
「高校生は大人と子供の境目の時期とも言えるが、
こういう時ぐらい、都合の良い方を選んでおけ」
「では……頂戴します」
小さなのし袋には、よく知っている厚みと重量が。
お年玉、ありがとうございます。
「で、これは雫と海の分で、こっちははーちゃんの分ね」
「いやいや、あたしはもう貰える年じゃないですって!
どっちかと言えばあげなきゃいけない方で……」
「そこは貰っといてくれねぇかな。
同い年にそうされちゃ、俺も返さないといけねぇからさ」
「えーっと……本当にすいません。何かたかりに来たみたいで……」
「気にするな。大事に使ってもらえればそれでいい」
帰省して早々、弟にお年玉をたかった奴が何言ってんだとも思うが、
こうして驚くのも当然のことだろう。
学生ではあるが、きっちり成人している姉貴にまで渡されるとは。
これは本当に大切に使わないとな。具体的には……
「お父さんもお母さんもありがとう」
「いいのいいの。デート代にでも使ってちょうだい♪」
「……そうする♪」
(俺も、そのつもりだ)
お金が無くてもデートはできるが、あると選択肢が広がる。
こういう所に使わせて貰うか。
「姉のあたしが言うのもアレですけど、出来た弟なもので。
今後とも宜しくお願いしますね」
「っ!?」
姉貴どうした!? お屠蘇の飲みすぎ……ではないな。姉貴はザルだ。
(普段から酔っ払ってるみたいなもんだが)酔ったとこを見たことがない。
「あぁ、こちらこそ」
「雫の選んだ男の子だもの。それなら間違いないわ」
「愛する妹を預けるには、十分な男よ」
「ボクも怜二君を精一杯愛しますから」
案の定、水橋家からの集中砲火が。誕生日の時もこんなことあったぞ。
だが、それなら俺が言うべきことも同じだ。
「当然のことですが、俺は雫を一生愛し続けます。
ということで、今年も宜しくな」
「うん!」
もう、恥ずかしさもなくなってきた。これは俺の絶対的な決意だ。
愛する彼女を愛すると宣言することは、彼氏として当然のことだ。
「てぇてぇなぁ……」
発音がいつものに戻る辺り、若干は姉貴も酔ってはいたらしい。
もしかしたら酔ってる方がまともだから、気づいてなかっただけなのかも。
「ご馳走様でした」
楽しい会話と美味しいおせちを堪能し、時刻は午前9時。
来る度に思うんだが、豪華なもてなし受けてばっかだな。
ありがたさもあるが、申し訳なさも感じる。
「怜君。君はもう家族って言ったでしょ。だからそんなこと思わないの」
「……ありがとうございます」
出ました。新年一発目の渚さんのエスパー。
もしかしたら顔に出てたのかもしれないが、こうまで正確に読まれるとは。
「よろしい。勿論はーちゃんも家族だから、ゆっくりしてちょうだい。
あ、それともこれから怜君の家行ったりする?」
「雫、どうする?」
「ここまで豪華なことはできないけど、お姉ちゃん歓迎するよ?」
「それじゃ、この後に」
食事を頂いたから、こう言う面でのもてなしはできないが。
何気に親に会わせるのは初めてだし、来てもらうか。
「今年は楽しいお正月になったわね。ありがとう、怜君」
「こちらこそ。俺も今までで一番幸せな正月です」
「ご両親にも宜しく言っておいてくれ。……時に怜二君。
君のご両親は、強面の男に耐性がある方か?」
「どうでしょうかね。でもどっちも割かし大らかなんで、
そういった心配はいらないと思いますよ」
「そうか。俺も近い内に挨拶をしておきたいと思っていてな。
覚悟をしておくように言ってもらえると助かる」
「大丈夫ですって。な、姉貴?」
「うん。思ったよりずっといい人で……あ、ごめんなさい。
これ失礼な言い方ですよね……」
「いや、十分だ。この顔じゃそういった先入観を持つもの当然だし、
この短時間で分かってもらえる方が珍しい」
彼女の家から、俺の家へ。
今年の正月は賑やかになるな。




