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16.そんな気はしていた

じゃがバタを食べ終えた後は順路通りに進み、賽銭を投げ入れる。

俺はこういう時の賽銭は5円と決めている。所謂『ご縁』との掛け詞。

……おいそこの。お前はパーカーのフードを両手で広げて何を期待している。


「それじゃ、おみくじ引きに行こっか」

「だな」


小学生の頃から、初詣では必ずおみくじを引いている。

そして……全体的にいいものを引いたことがない。


「今年も大吉出るといいな」

「ということは、去年は大吉だったのか」

「5年ぐらい連続かな。他は吉か中吉」

「何たる強運」


学校の(元)女神様は幸運の女神でもあった訳か。

今となってはラッキーガールと言った方が近そうだが。


「さて、出るかなー……出た!」

「俺も……あ、すぐ出たわ」


カシャカシャと振って出た番号は16番。雫は42番が出てきた。

それじゃ、早速開けて……




「だーれだっ!」




この無駄に快活だけど、八乙女とは違う女の声を俺は知っている。

恋人が出来た時に憧れる行為の一つが発生したが、

高揚感などは全くない。


「……おい、ズラすんじゃなかったのか?」

「やー、折角だし?」

「とりあえず手をどけろ」


俺と雫の初詣デートに何で割り込んでくるかね、姉貴よ。

しかも普通に声をかけるとかでもなく、こんなやり方で。


「えっ……」


視界が塞がれたまま、聞こえてくるのは雫の声。

嫌な所を見せてしまったな。謝らないと。


「雫、ごめ……」

「あ、れーくんのお友達? 初めまして! れーくんの彼女でーす!」

「ハァ!?」


お前は何をほざいとんじゃ!? こんな悪ふざけしてんじゃねぇよ!

だから嫌だったんだよ! 姉貴とタイミングがかぶるの!


「……えーっと、怜二君のお姉さん?」

「正解。彼女でも何でもねぇバカ姉貴だ」

「むー、動じないな」


……よかった。ただでさえ雫にとってはいい思いしないだろうし、

ここで誤解が生まれたらなおのことだ。

ということで姉貴よ、さっさとこの汚ぇ手をどけろ。


「ボクは怜二君のことを信じてますし、怜二君はボクのことが大好きなんで」

「Oh……ラヴカッポゥ……」


視界が戻ったと同時に、雫からとても強い信頼と愛を感じる言葉。

非常に嬉しいけど、本当にこの姉貴は何をしやがる。


「ところで弟くんや。君も何だかんだ二次元に染まってません?」

「何で?」

「いやいや、いくら二次元めいた美少女だからってボクっ娘にします?

 君も中々に……」

「あ、これ普段からです。怜二君の彼女になるずっと前から」

「ウソォん!? え、君からなの!? しかも天然モノ!?」

「痛いっていうのは分かるんですけど、クセが抜けなくて……」


今となっては願掛けでもなくなったから、ただの変わった一人称なだけ。

俺が一番よく知ってる雫の一人称はコレだから、今となってはむしろ自然。

何より、ボクだろうが私だろうが可愛いから問題ない。


「うっはー。もう本当に二次元じゃん。めちゃくちゃ羨ましい。

 アレか、男兄弟たくさんいたり?」

「お兄ちゃんはいますけど、一人だけです」

「ド直球のお兄ちゃん呼び! それだよそれでいいんだよ!」

「うるせぇよ。一人で盛り上がるな」


現実においてまでお前の二次元的判断基準を持ってくるな。

その辺の区別をつけんと捕まりかねんぞ。


「これはやっぱり生で見て正解だったわ。ねぇねぇ、お名前は?」

「水橋雫です」

「雫ちゃんかー。弟くんを宜しくね!

 あと私の呼び方は『一葉おねえちゃん』で頼んだ!」

「雫を勝手に妹にするな」

「えぇっと……『お姉さん』じゃダメですか?」

「んー、まぁ妥協点はそこか」

「お前なぁ……ごめんな、雫」

「ううん。それに将来はお義姉(ねえ)さんになるし」

「ちょっ!?」

「おっ!?」


雫!? お前何言ってるんだ!?

いや間違ってはいなんだが、こいつを前にして言うのか!?


「おいおいおいおい弟くーん! そこまでしてんのかーい?」

「近寄んな暑苦しい!」

「こんな可憐な美少女と将来を約束してるなんて、このこのー!」

「囃し立てんな! こっちは真剣なんだよ!」


正直、面倒とかどうとかいうよりは純粋に不愉快だ。

俺は半端な気持ちで雫と将来を誓ってない。

だからこそ、こうして遊びに使われるのは非常にムカつく。


「……なんか、ごめん」

「分かればいい。ったく……」


流石に姉貴も俺の表情から察したらしく、引き下がった。

……いっそのことだ。ここでも表明しよう。


「俺は、本気で雫と一生涯を共にすると決めたんだ。

 適当なちょっかい出すんじゃねぇよ」

「いや、本当にごめん。雫ちゃんもごめんね?」

「ボクも怜二君も本気なんで。今後は気をつけて下さいね」


爆弾を投下したのは雫だが、不愉快に感じていたのは同じらしい。

それだけ強固なんだよ、俺と雫の約束は。


「じゃ、おみくじ見ようぜ。姉貴は?」

「さっき引いたけどまだ見てないんだよね。二人見かけたから。

 三人で一緒に見よっか」


包み紙を開き、まずは全体の運勢を確認。

さて、今年の運勢は如何に。


「……末吉ねぇ」

「あっ、大吉!」

「…………………………」


微妙な運勢でリアクションに困る俺。

自然に、かつ見事に最高の結果となった雫。

開けた瞬間に固まり、押し黙っている姉貴。

どういうことだろうと思って、後ろに回ってみたところ。


「ご愁傷様」

「いや……これどうしよ……」


書かれていたのは『第二十八 凶』。

文句なしの、最悪の運勢だった。


「……ま、まぁ、こんなのただの紙切れよ!

 結びに行ってきまーす!」

「行ってら」

「凶のおみくじって本当にあるんだね。

 あまり当たらないといいけど……」

「大丈夫。うちの姉貴はこの程度じゃ何ともない」


たぶん、戻ってくる頃にはどうでもよくなってるだろ。

うちの姉貴はとても切り替え早いし。


「それで、雫はどうなんだ?」

「願望は叶うってあるけど、もう叶ってるんだよね。

 失くしたものも待人さんが見つけてくれたし」

「こっちには待人は来ないってあるわ。

 おみくじってアテにならんな」

「そうでもないよ。ボクはずっと怜二君の傍にいる。

 離れなければ行く必要ないから、来ないのは合ってる」

「また小っ恥ずかしいことを……事実だけど」

「そう考えると外れてるのはボクの方かも。

 怜二君が傍にいるのに、来るはずないもん」


待人は恋愛に限ったことではないが、お互いにもう来てる。

更に待つ相手なんて……


(待つというよりは、俺と雫で作……っておい!)


まずい。俺も大概色ボケしてる。変なことを考えるな。

今の年じゃ早過ぎるっての。


(ただ……)


大学を卒業した後は励みたいし、励むけども。

その為に必要な基盤を整えないとな。

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[良い点] 尊い… [気になる点] 尊い… [一言] 尊…… …これしか言葉が出てきませんね。 何度も好きなシーンを読み返して、 その度に心が洗われています。 続きも気になりますが、 先生も健…
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