12.恩報
「やあやあ奇遇だな! 体育祭以来かな!」
「多分そうだな」
「ボクも同じ」
クラスの連中に会うことになるとは思っていなかった。
橋田は運動好きだし、こういうこともあるんだろうけど。
「いやぁ、君のホームランボールは素晴らしかったな!」
「サンキュ。ホームランはお前だけど」
「何を言うか! 自分は君のホームランを奪った張本人だ!
この場で殴られても文句は言えん! さぁ来い!」
「ポーズをとるな。そして殴ったりとかしねぇよ」
「ならば水橋君よ!」
「……ボクも殴らないから」
透に対してとは違ったタイプのドン引きしてる。
こいつの暑苦しさは何とかならんのか。
「ふむ、しかしそれでは償いができないな。
自分の打球が当たっていなければ、ホームランは間違いなく君だ」
「運も実力の内って言うだろ?」
「実力で勝っていたのは君だ。そうだな、ここは自分の鍛錬法を……
いや、君はそれが必要な程貧弱な肉体はしていないか。
ならば……そうだ!」
巨人の行進と見紛うかのような、のっしのっしという足取りで受付へと進み、
ホームラン記録の申請書か何かを書いた後、俺と水橋を呼び寄せる橋田。
……もしかして。
「さぁ、景品を選びたまえ」
「え、いいのか?」
「元々は君のホームランだ。公式記録は自分になるが、
景品ぐらい貰っても当然だろう」
自分の力で手に入れるという部分は満たせなかったが、
景品自体は手に入れることができるとは……橋田、恩に着るよ。
「それじゃ……雫、アレだよな?」
「うん。橋田君、ありがとう」
「はっはっは。それは彼氏君に言うべき言葉ではないかな?
これは藤田君の力量と人徳が成し得たことだ。
では、逢瀬のお邪魔虫はここで退散しよう。さらばだ!」
スポーツバッグの角を強引に引っ掴み、そのまま走り去って行く。
相変わらず筋肉バカだな……それはそうと。
「ふかふか……♪」
「よかったな」
「うん……♪」
喜色満面。なおかつちょっとふにゃってる。
カッコいい彼氏になることはできなかったが、
愛する彼女が喜んでくれたのなら……及第点、か。
「怜二君、ありがとう」
「俺は何もしてねぇよ」
「橋田君が怜二君のこと信頼してなかったら、こうはならないよ。
文化祭と同じ」
「文化祭?」
「ほら、ミスターコンテストで副賞もらったでしょ?
怜二君の強さと優しさは、色々な形で返ってくるんだよ」
「あ……」
準ミスターだったから、俺に渡るはずのなかった焼肉チケット。
それはひょんなことから、俺に渡された。
……確かに、俺がしたことって何らかの形で返ってきてる。
今まではそういうことはなかったけども。
「そういう訳だから、これからはもっとたくさん返ってくるよ。
返さずにいたからバチが当たった人もいるけど」
「そっか……そうかもな、うん」
「ボクもいっぱい優しくしてもらったし、守ってもらえたから、
これからちゃんと返していくよ。……一生かけて、ね」
ほんのりと頬を染めて、俺を見つめる雫。
……さて、この位置だったら誰からも見られないな。
「じゃ、誓いを」
「うん」
物陰に隠れて、そっと口付け。
したくなったんだから、仕方ない。
冬は暗くなるのがとても早い。
そんなに遅い時間ではないが、もう真っ暗だ。
「楽しいクリスマスだったねー♪」
12月26日、俺と雫だけのクリスマス。
特殊なクリスマスデートになったが、成功と言っていいだろう。
「昨日だったら、ここにイルミネーションがあったんだけどな」
「ボクの隣にはイルミネーションより輝いてる彼氏がいる訳ですが」
「その隣にいる月光の美しさと太陽の煌きを併せ持つ彼女には敵わねぇよ」
お互いに褒めあう。俺と雫は高頻度で相手を褒めちぎる。
雫には褒められる所があり過ぎるから俺はラクだが、雫はどうだろ。
そう思いつつも、毎回何かしら褒めてくれるから嬉しい。
「じゃ、プレゼント交換するか」
「ボク、ねこまると合わせて二つ貰っちゃうけどいいの?」
「当然。ふにゃってる雫を見られたから十分だ」
「えへへ……」
今回はお互いにサプライズはせず、普通にプレゼント交換をすることにした。
事前に相手が欲しいと思うものを購入し、デートの終わり際で渡す。
さて、俺の予想は当たってるだろうか。
「じゃ、まずは俺からな。はい」
初デートでネックレス、誕生日にニット帽。
身につけるものが続いたから、部屋に飾るものを選んだ。
一個、予想外のことが起きてしまったけど。
「かぶっちまってごめんな」
「あーっ! 福岡限定ねこまる!」
唇が明太子になっている、ねこまるのぬいぐるみ。
クリスマス仕様のものはもう持ってると思ったから、ここを。
前に話した時に、九州方面のものが集められてないと聞いたから、
その一助に、ということで。
「今日でねこまるが二人も増えるなんて……幸せぇ……♪」
「その顔が見たくて選んだんだよ」
「ありがとう……じゃ、ボクからはこれを」
雫は俺のことをどう見たんだろうか。
全体的に特徴が無い男だから、ある意味難しい。
その上で何が……おっ、そう来たか。
「スマホでもできるけど、いつでも見られるように、ね。
これからのことだけじゃなくて、今までのことも」
「ありがとな。しっかり使わせてもらうよ」
来年の12月までの予定を書ける、黒い手帳。
普段の生活は勿論、俺と雫の歴史を綴ることができるアイテム。
ということは、期待してることは一緒か。
「秋辺りでバイトやめるから、来年はクリスマス当日にな」
「うん。ボクも空けとくね」
今日帰ったら、早速印をつけておくか。
それと、書ける分はこれまでにあったことも。
日々の幸せを綴っていこう。
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怜二君に送ってもらって、家の前に到着。
「次に会うのは来年か?」
「たぶん、そうなるかな。初詣行く?」
「雫が行くなら」
「それじゃ、一緒に行こっか」
となると早起きしないとな。
けど、年越しの時はずっと起きてるからなぁ。
少し眠るのと、完徹のどっちがいいんだろう。
「よろしくな。じゃ、よいお年を」
「うん。また来年」
来年といっても、ほんの数日後だけどね。
怜二君に会えないとすごく長く感じるけど。
(さて、ねこまるどこに飾ろっかな)
楽しいクリスマスになった。
ボクと怜二君の、二人占めクリスマス。
「ただいまー」
来年も、再来年も、ずっとよろしくね。怜二君。