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11.ラブパワーヒッター

食休みついでに程よくダベり、店を後にする。

次に向かう場所は、俺もあまり経験がないスポーツ系施設の一つ。

とはいえ、事前の下調べはしたけども。


「一度行ってみたかったんだよね」


ストレス解消にもってこい、バッティングセンター。

男子連中とも1、2回行ったことがある程度。

で、それはそうとして。


「ということは、未経験?」

「うん。1回もやったことない」

(……もしかして)


ここに来て、可能性ができた。

流石に未経験のスポーツとなれば、条件はほぼ一緒。

身体能力に差があれど、パワーなら俺の方が上。

そして、この種目なら……


(ミートさえ合えば!)


初めて、こういったことで勝ち星を上げられるかもしれない。

よし決めた。男、藤田怜二、ここが勝負どころだ!

愛する彼女に最高に男らしく、カッコいいところを見せる!

そうと決まれば、Let's フルスイングだ!




「はぁっ!」

(……分かっていたよ、フラグだったということは)


当たった時の当たりは悪くないが、当たらない。

そこまで速いマシンのところには入っていないんだが、芯に当たらない。

でもって雫はうまく芯に当てて、綺麗に流し打ちをしている。

どれもこれもライナーだが、ヒット性の打球。

野球で言うならアベレージヒッター型。1番か3番打者で活躍しそう。


「結構気持ちいいね。ストレス解消によさそう」

「よかった。それなら何よりだ」


楽しんでくれて何より。もうそれで十分ということにしよう。

諦めるつもりはないが、こういう時の合言葉は決まっている。


(雫なら仕方ない)


天才はいるんだよ、悔しいけど。

だが……今回は、諦められない理由がもう一つある。


「けど、やっぱりアレに当てるのは無理だな……」


打った球が外に飛ばないように、高く張られたネットの上部。

野球ボールを模した円形のパネルには『ホームラン』の文字。

飛距離が制限されるバッセンにおいて、本塁打の基準となる看板。

そこに打球を当てることのできた打者には賞品が出たりもする。

そして、ここにあったその賞品とは。


「ヒットたくさん打っても仕方ないんだよね。

 欲しかったけどなぁ……」


雫が集めているグッズの一つ、『ねこまる』の大きなぬいぐるみ。

他にもぬいぐるみの類はあるが、欲しがっているのはこれだろう。

打率はあれど、やはりパワーの問題でホームランは難しそう。

となると……俺がやるしかない。


「じゃ、もう一回やるから見とけ。

 それと、帰りにどうやって持ち帰るか考えとけよ」

「え……それって」

「そういうこと」


後日に送付、ということもできるかもしれんが、関係ない。

今この場で、あのムカつくぶさかわ猫に抱きつかせてやるよ。


「さて、勝負だ」

「頑張って、怜二君!」


来る玉の速度と軌道は決まっている。

そこ目掛けて、全力のスイングをかますだけだ。

当たるかどうかは……運に任せる。


(さぁ来い!)


物言わぬピッチングマシンを睨み、プレイボール。

引っ張り気味に打って、豪快にかっ飛ばす!




バットに当たったのが4球目、芯を捉えたのが7球目、

ホームランプレートのあるネットに届いたのが15球目。

残る球は、わずかに5球。


(このまま終わってたまるかよ……!)


チラっと見た雫の瞳は、期待に溢れている。

この想いに応えられずして、彼氏が務まるか!

ここで打てなきゃ……男じゃねぇ!


「ふんっ!」


16球目、ホームランプレートのやや下。

パワーは十分となれば、あとは軌道。


「せいっ!」


17球目、今度は左。

引っ張り意識を少しだけ弱めれば、直撃のはず。


「うらっ!」


18球目、右に流し過ぎた。

それなら、さっきのと今の中間に合わせて。


「だぁっ!」


19球目、真っ直ぐに向かって……プレートを超えてしまった。

だが、これで上下左右はコンプリート。


(次でラスト……)


ここまでの4球を全て合わせて、最適なスイングをイメージ。

そして、そのタイミングは……


「ここだーっ!!!」


魂込めた、20球目。

手応えは完璧。打球はホームランプレートへと一直線。

よし、これなら……!?


「あっ……」


ある意味、ホームランよりもレアなケースが起きた。

いや、ホームラン賞は獲得できたんだ。球が当たったんだから。

だが……それは、俺の球ではない。


「おぉっ!」


唸り声の主は、隣の打席のホームラン賞獲得者。

そいつの打球と俺の球が空中で激突した結果、俺の球は右に弾かれ、

左に弾かれた誰かの球が、見事にプレートに命中した。




「……ごめんな、ねこまる獲れなくて」

「ううん。すごくカッコよかったよ」


結局、雫の想いに応えることはできなかった。

どうやら俺は、やっぱり神様には嫌われているらしい。

あんな事故でホームラン賞を逃すなんて、力技が過ぎるだろ。


「正直もう一回やれって言われても無理だわ。手首がしんどくて」

「無理しないで。ねこまるより怜二君の方が大事だし、

 ボクの為に頑張ってくれたってことが嬉しい。

 それだけでボク、もういっぱいいっぱいだから」


ぎゅっと、俺を抱きしめる雫。

やっぱり……女神でもあるんだよな。俺にこんなにも優しくしてくれる。

なのに、俺は何も返せずに……




「ふーっ、いい汗を……おや?」




落ち込んでいた所、隣の打席から誰かが出てきた。

……そういえば、さっきの唸り声も聞いた覚えが。


「おお! 藤田君に水橋君じゃないか!」

「お前……」


俺のホームランになるはずだった打球にぶつかり、

運よくホームラン賞を獲得した打球の主は、俺以上の筋力の持ち主。

ミスターゴリマッチョ、橋田優だった。

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