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1.誰もが持ってるアニバーサリー

最高の形で成就した、俺の恋活。

だが、これはゴールであると同時にスタートでもある。

この関係を大切に育んでいかなければならない。


とはいえ、気負う必要はない。

今まで一人でやっていたことを、これからは二人でできる。

関係を育むことなんか、そもそも一人じゃ関係ができないし。


俺と雫の『関係』。

その中でやりたいことは、たくさんあって―――

初デートを終えた夜、自室で考え事をする。

目下の課題は、来週のこと。


(……どうするべきだろうか)


カレンダーにこれほどまで強く印をつけたのは初めて。

それだけ重要な日が、もうそこまで来ている。


俺の最愛の彼女、水橋雫の17歳の誕生日。

嬉しいことに、渚さんからお呼ばれされてる。

雫からの許可は取った……というか、呼びたがってたそうで。

それに行くのは当然なのだが。


(プレゼント、何がいいんだ?)


今日渡したネックレスは誕プレにするべきだっただろうか。

我ながら、割といい線行ってるプレゼントだったと自負している。

だが、誕生日はそれこそ特別も特別な日だ。

雫がこの世に生まれてきてくれた日なんだから、

相応のものを用意する必要がある。


雫が好きなものと言えば、少女漫画とスイーツに、ねこまる関連。

その他だと……まぁ、俺か。

未だに実感が湧かない。でも、俺は確かに雫の彼氏だ。


(……って、それもそうだけど)


今はまず、雫の誕生日に相応しいプレゼントを考えねば。

ここは……一つ、聞いてみるか。




「で、悩んでるから聞きに来たと」

「そうなんだよ」


誰かさんとは全く違う、典型的主人公タイプのイケメン、茅原陽司。

頼れる友人に相談してみる。


「お前らの仲なら、基本的に何でも喜ぶと思うんだが」

「だからこそ、厳選したいんだ。彼女いたんだから分かるだろ?」

「残念ながら、別れたのは誕生日の直前だ。

 俺からプレゼントしたことはないし、全く分からん」

「……すまん、悪いこと聞いた」


俺と雫が付き合うまでは、唯一の非『いない歴=年齢』だったのが陽司。

重すぎたからフったと聞いたが、色々あったのだろう。

同じ気持ちを持ったことがあると踏んでいたが、踏んだのは地雷か……


「過ぎたことだし、フったのは俺だし別にいい。

 というか一番大事なのは『怜二が考えた』物ってとこじゃね?

 何でも喜ぶってのはそこ前提だし、俺に聞く意味あるか?」

「それは勿論。だが、参考意見をくれないか?

 考えるのも最終的に決めるのも俺だが、客観的視点は欲しい」


人任せにしていいものではないというのは当然。

だが、自分で考えるにしても必要なものは色々とある。

そのヒントを得たい所。


「分かった。それじゃ聞くけど、何かしらの心当たりはないか?

 水橋の好きなものとか、全然知らないってことはないだろ?」

「えっと、甘い物に可愛いものだな」

「掛け算すると可愛いお菓子か。だが、誕生日ケーキと被るな」

「そう。喜んではくれるだろうけど、違うと思う。

 どこかに誕生日っぽい特別感は欲しい」

「だったら初デートのネックレスはここだったな」

「俺もそれはマジで思ってるわ……」


ああでもない、こうでもないと意見を交わす。

俺は当然だが、陽司も真剣だ。話を持ちかけたのは正解だった。

そうしていく内に、一つの結論に辿りつく。


「ピッタリ誕生日とか月じゃなくても、シーズンで考えたらどうだ?

 ほら、マフラーとか手袋とか、そういう防寒アイテム」

「なるほど。確かにその辺も選べばいいのがあるか」

「今渡しても3ヶ月そこらは使えるし、誰もが欲しい。

 あとは怜二のセンス次第だ」

「センスか……苦手分野なんだよな」

「誕生石絡めたアクセとか、オシャンティなプレゼントしたのに?」

「アクセというか、ラピスラズリのネックレスにそこまでの種類はない。

 だが、防寒アイテムだと一気に多いだろ?

 雫のことだから何つけてもめちゃくちゃ可愛いだろうけど」

「お惚気(のろけ)どうも。とりあえず、その辺で考えてみろ」


プレゼントの方向性は決まったが、新たな問題にぶつかった。

無難さを重視している俺のセンスじゃ、雫の魅力を活かしきれない。

……まだまだ釣り合う男じゃないな。自分の無能さが恨めしい。


「分かった。色々と探してみるわ」

「よし、それじゃ決まったな。後は頑張れ」


だが、頼れる友人の存在は本当にありがたい。

彼女といい友人といい、唯一つの例外を除き、人間関係には恵まれたな。




「おーい、怜二ー!」

「何ですか先生?」

「なぁ、頼むから透のこと……」

「知りません。あなたの仕事でしょうが」

「いや、そうすると俺の査定が……」

(……例外もうちょっとあったわ)


担任に関しては全く恵まれてない。

何度言ったら分かるんだよ。透のことは一切関知しないって。

お前の評価なんて知ったこっちゃねぇよ。




雫の誕生日当日。

週末ということもあり、午前中は軽く街中デートと洒落込む。


「お待たせ。待った?」

「今来たとこ。雫、誕生日おめでとう」

「ありがとう。それにしても、寒くなってきたね」

「な。息とか白いし」


師走を迎え、はっきり寒さを感じる冬到来。

互いにコート・マフラー・手袋フル装備。

普段だったら、俺はこの季節は防風手袋を使っているが……


「左手はとっても温かいけどね」

「俺は右手が温かい」


E:指抜き手袋。

普段の手袋の防寒性能を10とするなら、これは2ぐらい。

スマホの操作に困らないという利点はあるものの、

肝心の末端が無防備な為、使うとしても屋内専用。

しかし、雫とのデートなら話は変わってくる。


「怜二君、指先大丈夫?」

「薄手の手袋はこれしかなかったからな。

 だが、鍛えてるから問題ない」

「流石。おかげさまでぽっかぽかだよ」


寒さは凌ぎたいが、手を繋いでいる感触は大事にしたい。

ということでこれを選んだ。


「二人用の手袋ってあったよね? 中で手繋げるの」

「あったな。いいとは思うんだが、危ない気もする」

「ボクもそう思う。それに、そうじゃなくてもこうすれば」


繋いでいた手をスッと離したと思ったら、腕を組んできた。

……成程。繋がる場所は手に限らなくてもいいのか。


「今度はいつもの手袋で大丈夫だよ。

 こうすればもっと温かいし」

「ん。それじゃそうする」


身体的には勿論、心もぽかぽかと温まる。

むしろそっちは、温まりすぎて熱いぐらいだ。


「そういや、イベントある所調べたんだけど、

 どっか行きたいとことかある?」


誕生日絡みのサービスをやっているところもあるにはある。

だが、デートの目的及び本質は『お互いが楽しむ』ということ。


「誕生日は確定でケーキが食べられる日としか思ってないから、

 特に希望はないかな」

「了解。……雫らしいな」


そういうことなら、無理に行く必要はない。

素直にふらっと歩いて、二人の時間を過ごすとするか。


「ボクのスイーツ好きは知ってるでしょ?」

「当然。雫の可愛いポイントの一つだからな」

「あう……本当によく真顔で言えるよね……」

「可愛い彼女に可愛いって言うことの何が難しいんだ?」

「そっ、そんなに可愛い可愛い言わないでよ!」


だが、ただ歩いていくだけじゃつまらない。

こうして雫をからかってみるのが最近のマイブーム。

言ってることに関しては、何一つとして嘘じゃないがな。


「『美人』って言った方よかったか?」

「そういうことじゃなくて! 分かってて言ってるよね!?」

「おかげ様で、我慢しないって決めたからな」


この間、雫から「怜二君もわがまま言ってよ」という要求があった。

ということで、最近はこうして軽率に雫を困らせたりしている。


「……迂闊だったなぁ。怜二君がこんなに意地悪だったなんて」

「言ったろ。俺は雫が思ってる程、綺麗な人間じゃないって」


ある種、俺も自覚の無いままに仮面をかぶってたのかもな。

でも、困らせるのは程々にしておこう。


「まぁ、仕方ないか。怜二君も人間だしね。

 そういうとこ含めて世界一大好きだし」

「……ありがとな」


やり過ぎて嫌われるのは怖いし、こうしてカウンターも来るしね。

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