第8話:イブと町へ
あれから3日経っての成果だった。
「…………」
早朝の小屋の前だった。僕がしゃがみこんで見つめる先には、犬座りで僕を見つめ返してくるイブがいる。
そのままだった。
十秒が経ち、二十秒が経ち……そろそろか。イブがそわそわし始めたしね。
「よし! いい子だ、イブ! いい子だ!」
合図と共にイブがかけ寄ってきて、僕はそのノドの裏をワシワシと撫でてやる。ぶっちゃけウロコが刺さって非常に痛い。でも、これは我慢だ。こういうのはご褒美を上げることが何よりも大事だし。
ということで、イブは待てが出来るようになったのだった。
薬草取りの合間をぬって待ての訓練を続けてきて、その成果が出たわけだ。
あっという間の成果だったけど、これはイブが甘えんぼうだったことが幸いしたかな。コイツは遊ぶのが大好きであれば、褒めてもらうのも大好きだ。効果の大きなご褒美を簡単に用意出来たことが、この結果を生んだんだろうね。
まぁ、おかげで僕の両手は生傷でズタボロだけど。これは仕方のない必要経費ということで。
しかし、さて。
待てが出来るようになった。となれば、そろそろねぇ。
「山……下りよっかね」
本当は、もうちょっと調教を進めたかったのだ。
山を下りて町に向かえばね、どこでゲイルの一派と顔を会わせるとも分からないし。それで危険な目に会うかもしれなかったし。
ある程度、一緒に逃げるぐらいは間違いなく出来るようにはしておきたかったのだけど。
もう、食料が無いからなぁ。
麦も塩も底を尽きかけていれば、山菜だけで生きていくのも厳しい。イブにも、もうちょっと肉っ気を取らせてあげたくもあるし。
どうしても町には下りる必要があるのだ。それで最低限待てが出来ればってね。人に飛びつくようなことはふせげるし、イブを連れてでも何とか町を歩けるかなぁ、と。
よって準備の時間だった。
荷物をまとめて、後はイブにもひと手間だった。首ヒモをつけるのだ。これはテイマーの礼儀みたいなもので、魔獣を連れて町に踏み入れるからね。ちゃんと人に従いますと周囲に知らせるためのものだったりする。
まぁ、ただの鉄の鎖ぐらいじゃ、たいがいの魔獣は簡単に引きちぎるものだけど。
これもアピール的な意味が強いかなぁ。僕は皮のマントを裂いてヒモ状にし、それをイブの首に巻いていく。こんなのちょっと本気になって噛めばイチコロだろうね。だからこそ、イブが嫌がりはしないか、噛みちぎりやしないかとそれが心配だったけど。
どうやら嫌というほどのものでは無いらしい。
待てを命じてあったイブは大人しく首にヒモを巻かせてくれた。ただ、気になることには気になるらしい。イブはじっと僕の持ち手側にあるヒモを眺めていて。なんだろう? 邪魔者として評価しているわけでは無いらしいけど。
「よし」
とにかくと待てを終えた途端だった。
イブは勢いよく自分を縛る首ヒモに飛びつき始めた。飛びついて、からまって。興奮してるのかな? グーグー喉を鳴らしながらに、ヒモと友達になっているけど。
「……良いねぇ、君は。楽しそうで」
思わずそうもらしてしまう様子だった。しかし、この子、本当にドラゴン? イメージと全然違うよなぁ。でも、それはそれでけっこうだけど。こうして変だからこそ、僕はクレシャ奪還の夢を見られるわけだ。
ただ……イブのふるまいは妙にペットじみていて、そこに少しばかりの不安はあったけど。
「君、ドラゴンなんだよね? 強いんだよね?」
イブは一瞬だけ僕の顔を見つめてきて、
そして、再びヒモ遊びに熱中していくのだった。