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第6話:薬草取りと出会い(2)

 おそらく子ドラゴンの死体だろう。ドラゴンは魔術士に大人気の素材らしいのだ。うろこも目も血も骨も。テイマーの僕にはさっぱりだが、何かしらの利用価値があるそうだ。


 ただ、成体は凶悪過ぎて、素材にするリスクが高くて。狩りやすい子ドラゴンが、素材として高値で市場に出回っているとか何とか。


 荷馬車の積荷はおそらくコレだったのだろう。そして幸運なことに、一体がここに取り残されてくれていたわけだ。


 これはうれしいな。


 僕は満面の笑みで、死体の尻尾に手を伸ばす。これは間違いなく売れる。扱ったことが無いために、どれほどの値打ちがあるかは分からないけど。知名度から考えたら当面の生活費ぐらいにはなってくれるだろうか。


 そう思って、尻尾をつかむ。これがドラゴンの感触か。硬く、だがしなやかな感触。そして、ほのかに暖かみがあって……は?


 暖かい? 


「……えーと」


 困惑を覚えながらに、とにかく引っ張り出すことにする。ここらにドラゴンはいないはずで、まさかとは思うけれどね。


 思い切って、ぐいっと。


 引っ張り出す。現れたのは、僕の上半身程度の体長の子ドラゴンだ。火トカゲのたぐいとは違った、犬にも似たスリムな体付き。ただ、背には小さな羽があり、尾も長ければ首も長く。


 その首の先だ。


 犬のような目のつき方をしたトカゲ頭。死んでいるはずだった。だが、そこにある表情どうにも眠たげに見えた。


 半分に開いた眼、そこにある褐色(かっしょく)の瞳。ぬるりと動いた。目が合う。つまるところ、そういうことだった。


「う、うわっ!?」


 思わず手を離してしまい、子ドラゴンがべちゃりとあおむけに地に落ちる。死体であればそのままだ。しかし、もちろんそのままでは無かった。


 のそのそと四肢を動かし立ち上がり。そして、まぶたの重そうな目をして僕を見上げてくる。


「い、生きてたのかよ……」


 驚きのつぶやきをもらしながらに見下ろすことになる。死体だなんて勘違いだったわけだが、え、えーと、どういうこと?


 この辺りにドラゴンの生息地は無い。荷馬車の残骸があることを思えば、積荷に混じってここまで運ばれてきたということか? で、しげみの中で、幸せなお昼寝にはげんでいたと。


 まぁ、アテの無い推測はともかくだ。


 コイツは生きている。生きて、僕を見上げている。


 少しばかり冷や汗だった。売ろうと思えば、生け捕りにするか、しとめる必要があるけど。ただ、ドラゴン。ドラゴンなんだよなぁ、コイツは。


 万象(ばんしょう)を|統べしモノ。千魔(せんま)の君主。とにかく別格なのだ。魔獣と称されるモノの中で、ドラゴンは別格である。


 強靱な四肢と、あらゆる現象をあやつるとされる魔術適正。第一等とされる冒険者パーティーのどれほどが、成竜一体に壊滅の憂き目に会わされてきたのか。


 そんな存在なのだ。


 成竜と比べれば容易い存在だろうが、あなどれるはずも無い。ましてや僕の手には、ただのナタが一本握られてるだけだし。


 ただ……選択肢はないか。


「よし」


 気合を入れ直し、ナタの柄を握り直す。


 僕には選択肢は無いのだ。クレシャを取り戻すため。そのために、あるいはゲイルたちと一戦まじえるため。なんとしても、コイツを売り払って資金に……って、ん?


 僕はあらためて子ドラゴンを見下ろす。何を考えているのか、コイツは変わらず眠たそうにコチラを見上げているが。


 ドラゴン……なんだよな。


 魔獣の中で最強に位置する存在。子ドラゴンとは言え、単純にであればクレシャに匹敵、あるいは上回る戦闘力を持つ可能性すらあり得る。


 コイツを使役出来れば、ゲイルにだって立ち向かえるんじゃないか?


 バカらしい考えではあった。テイマーだからこそ、より一層思えるのだ。魔犬や飛竜とは違う。親も知らず、群れで育つことも無く、役割をもって狩りに挑むことも無い。


 人間になつくという生態の構造を持たないのだ。


 だから無理だ。使役なんて出来ない。でも使役出来れば……全てが好転するかもしれない。


 僕はベルトに取り付けた小袋に片手を伸ばしていた。そこには細切れの干し肉が入っている。しつけのご褒美としてのものであって、いつクレシャが戻ってきても良いように今も備えていたのだ。


 餌付けだった。


 上手くいくとは思えなかった。それでも万が一を信じ、僕はしゃがみこんで干し肉を手のひらに乗せる。


 どうやら魅力的には映ったらしい。


 子ドラゴンはフンフンと鼻を鳴らしながら僕の手のひらに近づいてきた。よ、よし。出だしはなんか好調だぞ。これでエサを食べてくれて、僕のことを美味しいものをくれる人と認識してくれれば、なんとか調教なんてことも……


 そう期待に胸を膨らまして。


 しかし、だった。どうやら子ドラゴンの目には、干し肉以上に魅力的なものが映っていたらしく。


 パクリ、と。


 気がつけば僕の手のひらは、子ドラゴンの口でもしゃもしゃされていたのだった。なるほどね、そうきたか。


「ぎ、ぎゃあああっ!?」


 痛覚の訴えにより、僕はどうしようも無く悲鳴を叫ぶことになって。当然、振りほどくために腕を盛大に振り回すことにもなって。


 ただ、僕の手はかなりのところ魅力的なようだ。子ドラゴンは僕の手のひらを食いちぎろうと、ブンブンと宙を舞いながらも食い下がり続けている。


 僕は固く決意するのだった。


 今日の夕食はドラゴン鍋だ。


 

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