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第19話:僕なりの決意(1)

 冒険者というのは、とかく気性が荒い。


 食うに困ってにせよ何にせよ、わざわざ暴力の世界に飛び込んで生き延びてきた連中なんだから、それは当然の話なんだけどね。


 そして、それはもちろん僕のパーティーも例外では無かった。


「ちょ、ちょっと待ちなさいっ! まず静かにしなさいったらっ!」


 連日のことだけど、森の中だった。エイナさんが制止を叫んでいるけど、それを意に介することも無く2人の男女が言い争っている。


 この2人はもちろん僕のパーティーのメンバーなんだけど、言い争いの種は、直前にあった魔性との戦闘にあった。別にささいなことなんだけどね。フォローが遅かったとか、得物がかすって危なかったとか。実際のところ怪我も無ければ、戦闘も勝利に終わっているのだ。次は気をつけてくれでお互いすむ話なんだけどさ。それですまないところはまぁ、冒険者であればさもありなんって感じだったりするけど。


 ともあれ、ここは僕の出番だ。冒険者パーティーとなれば、殴り合いのケンカは日常茶飯事。それを仲裁するのはリーダーの基本にして最大の仕事であり責務だ。


 そして……素質を示す場でもあるのかねぇ。


 僕は思わず怒鳴り合いからちらりと目を外すのだった。視界に映ることになったのはメンバーでは無い。お客さんだ。賓客ではあった。ただ、大人しく接待を受けていてくれるような好ましい賓客では無く。


 バーレットさんは僕を腕組みしてにらみつけてきている。あー、まったくなぁ。僕は胃が痛い思いをしながらに仲裁に向かうのだった。


 

「はぁ」



 ケンカの仲裁が終わり、再びパーティーとしての行軍を再開したんだけど。そこには、どうしようも無くため息がつきまとうことになっていた。


「どうした? リーダーがすべき表情じゃないような気がするが?」


 思わずむっとにらみ返しそうになって、すんでのところでそれを押し止めるのだった。


 問いかけの主は、言わずもがなでバーレットさんなんだけどさ。本当、一体誰のおかげでこんな苦労をしているのかって敵意を向けたくなったのだ。ため息の原因は間違いなくこの人なんだから。


 ただ、うーん。この人に敵意を向けるのもなんか違うのかねぇ。


 昨夜のレニーの件で味わうことになったけど。案の定と言えば案の定の話で、ゲイル反抗の旗頭には僕はふさわしく無いらしい。アイツはゲイルに不満を覚えているようなんだけど、それでも僕を選ぼうなんて気配はさらっさら無かった。


 端的に言えば、僕に頼りがいが無いということだった。頼りたいと思えるほどの力を感じさせる何かが無いと。


 バーレットさんはその点で僕を不安視してきているみたいなんだけど、これはかなり大きな問題だよなぁ。領主の協力を取り付けられかということと同時に、ゲイルを打倒して僕とメンバーたちの安全を確保出来るかってこととのね。


 だからこそ、僕は少しばかり以上にゲイルらしくふるまう必要があるみたいだけど……ど、どうだったかな?


 先ほどのケンカの仲裁だ。


 笑って大物ぶって取りなすのが僕のやり口なんだけど、先ほどは一味もふた味も違ったふるまいをこなすことになったのだ。


 ちょっとまぁ、あえてなんだけど怒鳴りつけてみたりとかなんとか。


 結果として、ケンカをしていた2人は元より、メンバー全員の目を白黒させることでその場を収めることになったけど。アレで本当に良かったのかどうか。今もまだ、パーティーには妙な空気があって、さらにはバーレットさんは無反応で。


 あの選択が正解に近いはずだったんだけど。どうだったんだろうね、本当。


 無駄骨では無かったと信じているけど、確証が無ければ憂鬱な心地が去ることはあり得ず。再びのため息を吐いているとだった。僕の手に不意にざらりとした感触が走った。


 僕はちょっと苦笑だった。申し訳なさと嬉しさが入り混じった結果としての苦笑だ。見ずとも分かった。クレシャだ。僕が体調を悪くしているようにしていることを不審がってのものに違いなかった。


 日頃頼りにしているクレシャを心配させるのには申し訳ない。大丈夫だよと示すために、いつも通りに頭をなでようとして視線を下げ、そして、


「ん?」


 思わず不審の声を上げるのだった。僕の視線の先にいたのは、僕と歩みを同じくする魔獣の一体なんだけど。でもそれは、僕のつややかな頼れる魔犬では無く、頼れるのには間違いないけど素直に頼れるとは言いにくい第二の相棒だった。


 つまるところイブであって。どうにもそのざらっざらとして長い舌で僕の手の甲をなめてくれたみたいなんだけど……えーと、どうした? まさか僕が気落ちしていることを察してなぐさめようと? そうだと嬉しいけど、いやいやまさか、遊びたいだけのコイツがって言うか魔獣がねぇ?


 なんて思っていると、ぴょんって感じだった。


 イブが不意に跳ねてきて。僕の側面をよじのぼってきて。で、背中側に収まってきて。


「……だろうね」


 そうだろうとは思っていたけど、やはり遊びたいだけだったらしい。重い。痛い。気が滅入る。


「……良いものだな。親愛の情を感じるな」


 バーレットさんはなんとも羨ましそうだけど、そうかな? 本当にそう思える? 疑問しか無かったけど、それはともかくだ。感性のよく分からないお姫様は、穏やかな目つきでイブをなでようとしてか手を伸ばしてきて。苦手バーレットさんの接近に、イブが身を固くして爪を立てて来て。


 なおさら痛い。ただでさえ気が滅入っているのに、そこに追い打ちがかかった感じ。さらには、私もってマールが足に飛びついてきたし。


 足取りが明確に重くなってくるけど、僕は実際に足を止めることになった。


 心身が疲れ果てたわけでは無い。クレシャが意味深に見つめてきて、僕の耳にも異変が届いたからだった。


「怒鳴り声だな。リラたちか?」


 バーレットさんの発言が全てだった。聞こえてきたのだ。男女が怒鳴り合うような声だけど、魔性が生じているこの森において、ケンカ沙汰を起こせるような連中は自分たちを除けば一つしかいない。


「でしょうね。間違いないでしょう」


「だろうとは思ったが、なかなかの偶然だな」


 まぁ、偶然と言えば偶然だけど、人の手の入っていない森なんて歩きやすい場所は限られていることだし。こういった偶然もままあり得る話だった。


「どうする? 奇襲に出るか?」


 僕はため息を吐いて首を横に振ることになった。いつもの試しの質問だろうけど、これはさすがにだった。ここで頷くのは、ゲイルらしさでは無く計画性の無いただの蛮勇だ。


「優先すべきは魔性の制圧だと思っていましたけどね」


「まぁ、奇襲したところで損害無く仕留めきれる相手でも無いか」


 ご納得頂けたようだ。相手には、手練であろう魔犬のテイマーがいる。奇襲をかけようとしたところで、事前に察知されるのは目に見えている。


 しかし、あー、どうしようか?


 僕たちは明らかに怒声の方向に進んでいて。危険を避けることを考えれば、迂回するのが正解なのだろうけど。


「しかし、内紛か? 内情を偵察に行くのは悪くないな」


 僕は眉をひそめることになる。それはまぁ、そうかもしれない。こちらにはバーレットさんもいれば襲われる心配は少ない。堂々と乗り込んだところで何の問題も無い。


 ただ、それは僕の趣味では無いと言うか、挑発するような真似は極力したくないところではあるが……したたかさなぁ。見せるべきだろうかね。



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