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第11話:息つけぬ休息(1)

 どうやら、僕は相当疲れているように見えるらしかった。


「カリスさん? 良かったら、酒場にでも行ってこられたらどうですか?」


 森から町に戻ると、エイナさんにそんなことを言われてしまったのだ。


 僕が酒場で飲むのが好きって覚えてくれていたと思うんだけど、よほど顔色にでも出ていたかねぇ。まぁ、確かに僕は疲れていた。慣れないリーダー業に加えて、リラたちとの競争、さらには悩ましき依頼人の存在もあって。


 ただ、休める状況じゃ、さっぱり無いからね。


 みんなががんばってくれているのに、リーダーである僕が酒に匂いを漂わせているのもどうかと思うし。大丈夫と告げさせてもらったのだけど、そこでロッシさんだった。


「メンバーを心配させないこともリーダーの大事な仕事です」


 リーダー業の先輩から、こんなことを言われてしまって。


 そしての今だった。僕は夕闇に沈む町並みを、酒場を求めて歩いているのだった。


 他のメンバーたちからも休めと言われてしまったこともあればね。ちょっと頭を切り替えて町に出かけることにしたのだ。心配させないためにも、せいぜい心労を解消しようって。それがパーティーのためにも一番だって思うことにして。


 しかし……うーむ。


 歩きながら、僕は内心ひとうなりだった。せっかくだから楽しみたいし、楽しまなければならないと思うけど。はたして、この状況で僕はリラックス出来るのだろうか。


「うむ、良いものだな。この時間に出歩くのも雰囲気があって良いが、さて、どうする? 入る店は決まっているのか?」


 同行人が無愛想にそんなことを尋ねてきたけど。本当、なんだかなぁ。


 バーレットさんがさ、着いてきてやがるんだよね。


 なんでストレス源の一つが着いてきてるのかって話だけど、仕方ないよなぁ。着いてきちゃってるんだから。「では私も行こうか」なんて、いきなり言ってきて。立場の弱さから、断りきれなくて。


 そして、もちろん従者の人たちも付属しているものだから、うーむ。僕も従者の1人になったような気分だった。バーレットさんに僕が同行させられている気分。ぶっちゃけ楽しめる気分はまったくしないけど、幸いにもだ。僕は孤立無援とはならずにすんでいた。


「……バーレットさん。カリスさんを急かさないで下さい。これはカリスさんの休養なんですから」


 エイナさんが軽い注意の言葉を上げてくれたけど、そういうことだった。エイナさんが僕の味方としてついてきてくれているんだよね。


 これじゃ、休養にならないどころか心労にしかならないと心配してくれたみたいで。ありがたい限りだったけど、しかしバーレットさんなぁ。短い付き合いでもよくよく理解していた。この人は、エイナさんが注意してくれたぐらいで静かになってくれる人ではまったく無い。


「ふーむ。かいがいしい気の利かせ方だな。あれか? エイナ殿は、カリス殿の良い人だとか、そういうことか?」


 歩みを進めながら、バーレットさんはエイナさんを見つめてそんなことをのたまうのだった。静かにしてくれないどころじゃないよなぁ。僕は確かな心労を感じつつ、口をはさむことに。


「バーレットさん。失礼なことをおっしゃらないで下さい。エイナさんは、ただただ善意で気を利かせてくれているだけですから」


「否定することもあるまい。英雄色を好むと言うが、配下に美人がいれば手をつけるのも自然だろう」


 僕は思わずエイナさんに同情の目線を向けるのだった。手をつけるとかってねぇ。そんなことを言われたエイナさんの心情がなんとも。


 案の定と言うか、あまりそういう経験の無さそうな真面目な魔術士さんだから。顔を真っ赤にして、バーレットさんに食ってかかることに。


「な、なに言ってるんですかっ!? 手をつけるって、私とカリスさんがそんな関係ってことですかっ!? そんなバカなっ!?」


 あまり強く否定されちゃうのもさびしい感じがするような、そうでも無いような。まぁ、事実だし、納得の非難の言葉だった。しかしバーレットさんにはあまり響いている雰囲気は無かったけど。


「そうなのか? ふむ。エイナ殿のような美人に手を出さないとは、カリス殿もなかなかヘタれているようだな」


「なにがヘタレですかっ! カリスさんはみだりにメンバーに手をつけるような方じゃないんですっ! あのゲイルみたいな男とは違うんですっ!」


「だが、この男はあのゲイルのパーティーにて、あの男の様子をつぶさに見てきた男だぞ? ゲイルのような良い思いをしたいと思っても仕方あるまい? となると、手を出す機会をうかがっているかヘタれているかのどちらかになるが」


「なりませんっ! カリスさんはですね、紳士なんですっ! そんなよこしまな人じゃありませんからっ!」


 なんだろうね、この頭上で会話が繰り広げられてる感。


 どちらも根拠の無い決めつけを前提に、良くわからない主張の押し付け合いをしてる感じで、僕はまったくの蚊帳の外。別にそこまで聖人でも無ければ、そんな色欲最優先みたいな俗物でも無いんだけどなぁ。


「なぁ、カリス殿? ゲイルのように女を思うがままにしたいと、男であれば思うだろう?」


 で、バーレットさんが話題を振ってきたけど、なんだかなぁ。疲れてるのに、なんでこんな訳のわからない問いかけに答えないといけないのか。エイナさんも僕に目で催促してきてるけど、うんざりとした心地にならざるを得ず。


 僕は隣を歩くクレシャに目を向けるのだった。休むどころではなくなるので、イブにマールはロッシさんとその奥さんに預けているんだけど。クレシャは僕の護衛役もかねて連れてきていて……あぁ。クレシャとだけ一緒が良かったなぁ。一人と一体で、静かにお酒が飲みたかったなぁ。


 まぁ、もはやそれは叶わぬ夢なので。僕はあきらめて、適当にバーレットさんに応じさせてもらうことにした。


「あー、うん。とにもかくにもですけど、僕はそんな極端な人間じゃありませんから。それと、ゲイルもそんなひどい好色漢じゃないですし」


 適当に頭にあるものを言葉にさせてもらったんだけど。


 バーレットさんは何故か首をかしげて見せてきた。


「ゲイルは違うと? いきなり妙なことを言ってきたな」


 関心を誘ったのは、どうやらゲイルへの言及だったようだ。それはエイナさんに対しても、同様だったらしく。いやいや、と苦笑で首をふっていた。


「いくら優しいカリスさんでもその発言はどうかと。ゲイルが歓楽街で遊び回っているのは有名な話ですし」


 エイナさんの発言は納得のものだった。ただ、


「それは事実だけど、アイツはメンバーには手を出したりはしなかったよ。立場を使って無理やりなんてことも一度も無かった」


「え? でも私は傘下パーティーのきれいな子に無理やりと聞いていましたけど……」


「まぁ、アイツの普段のふるまいが悪いんだけどね。それは全部うわさの範疇かな。アイツ一度、パーティー内の色ごとでヒドイ目にあってさ。それ以来、パーティー内や二次パーティーの人たちには一切手を出さなくなったし」


 よくある話なんだけどね。


 リーダーがパーティーの綺麗どころに手を出して、それをきっかけにしてパーティー崩壊って。今思い出しても胃が痛くなるなぁ。パーティー内には嫉妬がうずまき、結果刃傷沙汰にまでなりかけて。



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