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第9話:魔性との邂逅(2)

 その成果を眺めて、僕はなんとも満足だった。


 この調教はけっこう苦労したよなぁ。クレシャにわざと雷撃をマールの周囲に撃ってもらって。で、マールが本能的に魔術を行使するのに合わせて、木笛での合図を聞かせたり、その後に干し肉を上げたりでなんとかかんとか。この木笛の合図をした時には魔術を行使するものだと教え込ませたのだった。


 難しいとは思ったんだけどね。


 ドラゴンと比べれば社会性のある生き物だけど、群れで役割を持って狩りをするような魔獣じゃないし。でも、結果がこれだ。案外、僕のテイマーとしての才能は捨てたものじゃないのか、それともこの子の生まれ持った性質なのか。はたまたスキル? そんなものの影響なのか。


 ともあれ魔術はゴブリンどもを切り裂いた。とは言え、魔力量もまだまだ発展途上のマールの魔術だ。規模も小さければ、すりぬけた一体がこちらに向かってきた。


 マールはアメジストアイだ。普段はちょっとオドオドして見えたりするけど、子供とは言えゴブリンに気圧されるような存在では無い。


 低いうなり声を上げて対決する姿勢を見せるけど、まぁ、ここはね。


 初陣だし、接近戦はもうちょっと体が大きくなってからでもいっか。僕はロッシさんからの借り物の長剣を抜き、適当にゴブリンの首を切り落とす。


「よし、マール。良くやったね」


 僕はマールに干し肉を上げて頭をなでて上げるけど、現状はそれが出来るような状況だった。


 すでに動いているゴブリンの姿は一つも無い。魔性特有の、鉄の匂いのしない妙な生臭さが森には満ちるばかり。


 よく考えると、僕たち急造パーティーにとっても初陣だったっけね。僕はみんなの顔を笑顔で見渡す。


「みんな、ご苦労さま。さすがの活躍、感謝するよ」


 リーダーらしくふるまわせてもらったわけだけど、はて? みんなには笑みは無く、どこか呆然とした視線を向けてきているけど。


 な、なんか間違えた? リーダーであれば、こうねぎらうものだと思っていたけど。ゲイルみたいに、すぐさま論功行賞と言うか、対価の話をした方が良かった? 気に入らないヤツではあっても、ああいうところはけっこう見習うべきところだとは思っていたけど、それがやっぱ正解?


「あ、あぁ、うん。そうだね。君たちの働きはちゃんと見てるつもりだし、サブリーダー格から活躍のほどを聞くことにもしてるから。なんなら、僕に直訴してくれても全然……」


「リーダー、違います。私たちは別に報酬についての発言を待っているわけではありません」


 ロッシさんが苦笑しながらに声を上げてきたのだった。はて? じゃあ君たちは何に対して黙り込んでいるのか。


 疑問に思っていると、そばにいるエイナさんも苦笑を浮かべてきた。


「ご苦労さまと口にされましたけど、気づかれていないんですか? ゴブリンはほとんどカリスさんが片付けたのですが」


「へ? ……そうだった?」


「はい。一番大きな集団を1人で相手にして、それを一瞬で」


 僕は首をかしげる。そう……だったかなぁ? クレシャとイブがそばに寄ってきたので、とりあえず二体の頭をなでてやるけど。まぁ、そうだったかもね。調教の成果うんぬんで頭が一杯だったけど、確かにこの二体が大きな集団をあっという間に片付けたような。


「普通はゴブリン相手でも、ここまで無傷で快勝出来るのはなかなか。あらためてカリスさんの実力に気付かされた心地なんですよ、私たちは」


「あー、なるほど。確かに、僕もそんな感じはあるかなぁ」


「はい?」


「クレシャにイブにマール。あらためて強力だなぁって思って」


 みんなの驚きは正直よく分かるのだった。


 この魔獣三体の威力は、まったく強力であって。飛竜やらグリフィンやら。強力とされる、使役出来る魔獣はいくらかあるけど、それにまったく引けをとってはいないよなぁ。


「……あのー、魔獣の実力はテイマーの実力じゃないんですか?」


 エイナさんは僕が謙遜しているとでも思ったのかな? そんなことを聞いてきたけど、まぁ、そうだね。実力ある魔獣を育て使役出来ること自体が、テイマーの実力ではあるけど。


「ははは。僕の実力が試されるのはこれからこれから。この子たちをどう操り、その中で僕がどう戦うのか。そこが重要だろうから」


 僕の実力とやらを発揮したいのはそこだよね。僕もまた三体に加えての戦力の一つだけど。この子たちと一緒にどう効率的に戦っていくか。そこをしっかり考えていきたいかな。


「ふむ。だが、貴殿の実力は間違いなく大したものだな」


 お褒めの言葉はバーレットさんからのものだった。


 ゴブリン程度なら、従者もいれば気にかける必要は無いだろうと思ってはいたけど。平然として、僕のそばで戦況を見守っていたお姫様だった。口調には感心の響きは特に感じられなかったけど、褒められたからには僕は笑顔で応えることになる。


「ありがとうございます。まぁ、今回はただただ、このたちの地力に頼っただけですけど」


「なるほど。しかし、何なんだ? うわさには聞いていたが、そいつはドラゴンだよね? 人にはなつかないと聞いていたが、特殊な手法でもあるのか? あるいはスキルか? 貴族の出自だったりするのか?」


 今までにも、何度となく尋ねられてきたことだった。そのたびに僕は苦笑を浮かべるしかなく、それは当然今回もだった。


「貴族ではもちろんありませんが、特殊な手法というものでも。最近は、特殊なドラゴンだったのだろうと思うことにしていますけど」


「そういうこともあるのか? よく分からんが、まぁ、すごいもんだ。テイマーとしてはもちろんだが、とかく冷静だ。人を指揮するということにも、ためらいも無ければ十分以上のものを感じさせる。なるほどな、ゲイルを見限って出ていったのも納得だな」


 僕は苦笑をひっこめて首をかしげることになった。これはまぁ、初めて言われたかな。


「いえまぁ、恥ずかしい話ですが、僕が見限ったわけでは無く、いらないからって追放されたんですが」


「あー、そう言えばそうらしかったな。だが、それはお前の望むところだったのではないか?」


「はい?」


 正直、何を言われているのか分からなかったけど、冗談のたぐいなのでは無いらしい。バーレットさんは淡々と、しかし真剣な声音で尋ねかけてくる。


「十分な能力はあったわけだ。その上で、パーティー間の交渉や、食料や武器を卸す商人とのやりとりも担っていたと聞いているが」


「まぁ、それは確かにそうですが」


「不満には思っていなかったのか? 不当な扱いを受けているとは? 適切な評価を受けてはいないとは思わなかったか?」


「それはまぁ、思わないことも無かったですが……」


「チャンスだと思ったんじゃないか? 良い機会だってな。自分であればゲイルに成り代わるぐらい簡単に出来る。ゲイルの持っている立場も富も力も。理不尽に追い出されたという事実も、同情を買うのに十分であればな。この機会を利用して成り上がることが出来る。どうだ? そう思っても、私は自然なことだと思うがな」


 僕に理解を示している。


 最後の一言はそんな雰囲気だけど、全体としてはひどい決めつけだった。んなことあるかって、不満を露わに返したくなるような気にもなったけど……まぁ、それよりもだ。


 この人は、何を考えているんだ?


 何を思って、こんなことを言い出したのか? それが気になるところであり、やはりと言うべきか。何かあるよな。ゲイルたちにもこの依頼を任せたことも含めて、この人には何か意図がある。ただ、僕たちに屋敷を与えてやろうだとか、そればっかりじゃ無い。


「あはは。僕には、そんな大それた願望はありませんよ」


 軽くいなしておくのだけど。


 バーレットさんは変わらず僕の顔を見つめ続けてくるのだった。


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