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第4話:追放の酒宴(2)

「ふん。相変わらずうるせぇヤツだな。いいから置いてけよ。その備品は俺たちが上手く使ってやるからさ」


「 ……そうかい。話にならないな」


 立ち止まるべきじゃなかった。不快感しか得られなかった僕は、そう後悔しながらにきびすを返す。


 その瞬間、クレシャが吠えたような気がしたけど、僕はそれに反応するどころでは無かった。


 脳が揺れた。


 ついで耳の後ろから後頭部にかけて痛みがはじける。うめくことさえ出来ずに僕は膝を突き、しかし状況はとっさに全て理解出来ていて。


「く、クレシャっ! 待てっ!」


 思わず叫んでいた。


 案の定、クレシャは剣呑にうなりながら犯人に飛びかかろうとしていた。こんぼうを手にした仲間の男の剣士……いや、元メンバーのくそヤロウか。


 クレシャにびびっているコイツが僕の頭を殴りつけてきたのだろうが、まさかコイツ1人の判断じゃないだろう。指示あってのことに違いなくて、その指示を出したのはもちろん。


「へぇ? 止めるのか。相変わらず根性のねぇ奴だな」


 コイツに決まっていた。


 元僕のリーダーの、最低最悪のくそヤロウだ。ゲイルは僕を見下ろしながら、そんなふざけたことを口にしてきたが……僕は思わず胸の中で毒づいた。


 止めるに決まっているだろうが、アホが。


 クレシャであれば、元メンバーたちの二人や三人は血祭りに上げることが出来る。でも、それだけだ。この場を制圧するなんて夢のまた夢であり、逆にクレシャが殺される可能性もあった。


 クレシャは相棒だ。


 相棒を死地に追いやるようなことを僕が出来るわけが無かった。


 しかし……一体どうするべきか。


 頭痛とめまいに耐えながら、僕は思考をめぐらせた。ゲイルが僕を剣士に殴らせた意図は明白だろう。クレシャを奪おうとすれば、僕が抵抗するのは必然であって。それを先に封じようということに間違いなく。


 その意図はものの見事にはまってしまっていた。


 悲鳴をもらしたヤツなんかもいて、この場の全員がゲイルの計画を知っていたわけじゃ無いのだろう。全員が敵とは限らない。しかし、この体調でゲイルたちからクレシャと共に逃げ切ることは……


 必死に打開策を探る僕の側で、クレシャはうなり声を上げながら周囲をにらみつけていて。そんなクレシャを見下ろしながら、ゲイルは小さく鼻を鳴らしてきた。


「ふん。主人思いのうっとうしいクソ犬だな。まぁ、これからは正しくパーティーのために役立ってもらうが。ははは、どこぞのクソテイマーのクソ指示とは違ってな」


 ゲイルはとことん楽しそうに笑っていて。それは僕の胸中に不快感と怒りしか呼び起こさず。


「ふざけるなよ。クレシャは僕の相棒だ」


 怒りをそのままに呟きとしてもらす。ゲイルはそんな僕に楽しそうに口を開いた。


「そうだな。確かにそのクソ犬はお前のものかもしれないな。お前連れてきた、お前のクソ犬だ。まぁ、だからこそテメェに連れていかせる気はねぇんだがな」


「……は? お前は何言っているんだ?」


「俺はな、お前に辞めて下さいってお願いしているわけじゃないんだよ。追放するって言ってんだ。俺に反抗しつくしたお前への罰としてな。おい、やれ」


 その合図が何を意味するのかは、すぐに味わうことになった。


 再び頭部に衝撃が走り。たまらず床をはうことになって、クレシャの吠え声が響き。僕は必死にクレシャを押しとどめた上で、頭上を憎しみを込めてにらみつける。


「ゲイル。お前は……っ!」


「ははは! いい顔してるじゃねぇか! 罰の与え甲斐(がい)があるってもんだ。いいか? これは罰なんだよ。だから、お前はもちろん追放されるし、金も装備も奪われる。相棒もそりゃあな?」


「……この陰険ヤロウが」


「はん。身から出たサビだろうに言ってくれるじゃねぇか。テメェには何も残さねぇからな? 次の仕事も所属出来るパーティーなんかも存在しねぇ。俺が全力で妨害してやる。お前は終わりだ。テイマーとしての先なんてねぇし、それ以外の道なんかもありゃしねぇ。どこぞでのたれ死ぬのが、お前に残された道だ」


 長々とゲイルはそうほざき上げて。


 最後にニヤリと笑みを見せてきた。


「じゃあな、カリス。死ぬまで苦しめよ?」


 打開策など存在しなかった。


 全てを奪われて、こうして僕はパーティーを追放された。

 


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