第7話:読めない真意(3)
「へ? なんか立場が読めない発言だけど、どなたさん? カリスの将来をドブに捨てたいお仲間さんじゃないの?」
当然と言うか、リラが疑問の声を上げてきて。僕は小声でバーレットさんにささやくことになった。
「……答える必要はありません。お静かに」
そう確かに伝えたはずなんだけどね。
聞こえなかったのか、あえて無視されたのかどうか。
「お仲間では無いな。バーレット・レサントの名は知らんか? 一応、それなりに名は通っているはずだが」
淡々と名乗ってくれやがって。リラは大きく首をかしげた。
「バーレット・レサント。レサント? もしかして、領主のところの?」
「そうだ」
「は、はぁ!? なんでよ! なんでお姫様がカリスと一緒にいるわけ!? まさかゲイルを裏切ってんの!?」
そして、案の定だった。ちょっかいを出すぐらいのはずだったゲイルの手下共は、一様に怒気を露わにし始める。
これはマズい。
内心で焦るしかない僕だったけど、無愛想なお姫様は相も変わらずの冷静さだった。
「裏切ったわけじゃないぞ。依頼を頼んでな、その見守りに来ているのだ」
「はぁ? 依頼を頼むってことは裏切ってるってことじゃん! やっぱりカリスに……って、依頼?」
不意に、リラは妙な落ち着きを見せてきた。
実力行使に出ることも無く、いぶかしげにバーレットさんに尋ねかける。
「あのですけど、私たちも領主さんからの依頼を受けてここにいるんですけど? まさか同じ依頼とかじゃないですよね?」
僕もまた首をひねってバーレットさんを見つめることになった。
リラたちは、領主の依頼を受けてここにいるらしいけど。それだけでも、その意図が分からないところだった。そんなことをすれば、争いが起きることは火を見るより明らかだし。
ましてや、同じ依頼をとなるとその意味を察するのは……
僕のパーティーのメンバーも、リラたちも全員がバーレットさんに注視しているようだった。無表情なお姫様は、淡々として口を開く。
「そうだな。同じ依頼だな、うん」
とのことらしかったけど。
リラが怒声を上げるのも納得しか出来なかった
「ど、どういうことよっ!? なんのためにそんなのを……っ!!」
「それはアレだ。お前たちも競争相手がいなければ張り合いがなかろう?」
「は、はぁ!?」
「なにぶん、近隣でゲイルに張り合えるパーティーは無かったからな。正直、お前たちの依頼への態度も少々物足りないものがあったのだ」
「……さぼらないようにってわけ? 当て馬ってやつ?」
「そんなところだ。そう怒るなよ? お前たちが見事に依頼を果たしたのならば、領地の一つでもやるからな。それで許しておけ。あぁ、それとだ」
バーレットさんは、僕の肩をいきなりポンと叩いてきた。
「カリスのパーティーに同行することにしたが、そこもあまり気にするな。こっちのパーティーはまだ出来たてなんだ。信頼がイマイチであれば、近くで見張ることにしただけだ。肩入れなんかはしていないからな」
リラは悩ましげに眉間を押さえて。
そして、軽くバーレットさんをにらみつける。
「なんかもう、良く分かんないですけど……領地の一つもっておっしゃいましたよね?」
「あぁ、言ったな」
「そこを約束してくれるなら良いです。どうせカリスの急造パーティーなんて敵じゃないんだし。領地を頂いて、その上でゲイルの帰還を待って……まぁ、それで良いですから」
「その辺りの事情は知らんが、約束は約束だ。必ず果たすから心配するな。あとで家紋付きの書状も送ってやる。ともかく、今は依頼の方にな。争うのは後で好きにやってくれ」
「分かりましたよ。もとからその気は無かったんですし。では、私たちはこの辺りで」
そうしてリラたちはある程度の納得を示して去っていって。
ただ、僕たちは違うわけだ。一難去って安堵しつつも、納得なんてものを得ることは出来るわけが無く。
「バーレット様。説明の方をして頂けますね?」
みんなを代表して、僕が問いかけることになった。
メンバーたちどころか、クレシャにイブまで見つめる中で、バーレットさんは「うむ」と平然と応えてきた。
「説明か。説明な。欲するのも理解出来るが、まぁ、気にするなと言っておく。お前たちが達成した時には、城下に屋敷なり、領地を与える。これは間違いないのだ。家紋付きの書状なんかが欲しいのなら、それには応ずる用意はあるが」
「書状よりも、やはり説明を。この依頼は、我々に屋敷なりを与えるためのきっかけという話でしたよね?」
「そうだったな」
「そのきっかけに、何故ゲイルの取り巻き共がいるのですか? 何故わざわざ競争をさせる必要が?」
しかも、この人はリラに成功すれば領地を与えるとまで言ったのだ。そんなことになってしまえば、僕たちはもうどうしようも無くなってしまうけど。
「悪いか? 良かれと思って、招いたつもりだったが」
「良かれと?」
「お前たちが、勢力拡大に苦労していることは知っている。ここであの連中を見事に打ち負かし、それで屋敷なりを手に入れればだ。お前たちを勝ち馬だと見る者たちも大勢出るだろう。違うか?」
僕は眉をひそめて、バーレットさんを見つめることになった。
それは確かにそうかもしれないが、やはり今までの話とは違うことには変わりは無く。しかも、相談があればともかく、唐突で一方的な話で。ゲイルを利する可能性もあれば、そうですねとは簡単には頷けない話であるけど。
再びだった。
お姫様は再びポンと僕の肩を叩いてきた。
「まぁ、気にするな。あの程度の連中に、お前たちが遅れをとることもあるまい? 期待しているぞ、カリス」
正直、真意がどこにあるのか追求したくはあった。バーレットさんの一連の説明がまるっきりの真実ではあるとはとても思えなかったし。
ただ、追求してこの人が素直に全てを白状してくれるかどうか。僕たちの立場の弱さもあれば、そんな強気に追求していけるわけでも無く。
依頼を果たせば、城下の屋敷を与えられる。領主の権威を味方につけることが出来る。
それを信じてやっていくしか無いけど……どうにもため息だよなぁ。
僕はバーレットさんの鉄面皮を警戒の思いで見つめるのだけど。本当、このお姫様は一筋縄ではいかないだろうなぁ。




