第2話:窮地の会議(1)
ゲイルににらまれて、どこにも逃げ場は無くて。
だったら、殺るか殺られるか。反対にゲイルのパーティーを潰してやるしかないってことになり。
色々と策動していたのだ。まだゲイルは魔性討伐の遠征から帰ってはいないから、鬼の居ぬ間にってことで。ゲイルの傘下パーティーの引き抜きと、アイツらの抱えていた依頼の横取りを試みていたんだけどねぇ。
なかなかねー、それが上手くはいかなくって。
「けんもほろろと言うわけでは無いのですがね」
屋敷の中で、唯一キレイに掃除のしてある大広間においてだ。屋敷にいるメンツでそれぞれボロ椅子に腰を下ろして昼飯を食べているのだけど。アマルテ夫妻の旦那さんの方……ロッシさんが、食事の手を止めてそう口にした。
僕は硬いパンをかじるのを止めて、ですねーと応じる。
「らしいですね。脈がないわけではないと」
「えぇ。ゲイルに鬱屈したものを抱いている者たちも多ければ、カリスさんであればと信頼を寄せる者も多い。ただ……快い返答からはほど遠く」
今度は奥さんの方だった。おしとやかなヘテさんが、困り顔で頷きを見せる。
「依頼の方もです。依頼主の方々には、私たちに好意を示して下さる方々も多いのですが……」
「ダメ、なんですね?」
「はい、申し訳無さそうにですがお断りされて」
僕はパンをガジリとして、ため息だった。
会話の流れで現状確認って感じになったけど、辛気臭いよねぇ。まぁ、これが現実なんだから仕方ないんだけどさ。
何もさ、上手くはいってないんだよね。
引き抜きも、依頼の確保も、てんで進展していなくて。
僕の隣に座るエイナさんが、眉をひそめながらに口を開く。
「やはり、ゲイルへの恐怖でしょうか? 報復を恐れて私たちには協力できないと?」
まぁ、そうだろうね。僕は頷きを見せることに。
「アイツの乱暴な性格が上手いこと作用しているんだろうさ。怒らせたらどうなるかって、思わざるを得ない性格をしているし」
「実際、私たちは報復を受けてますしね」
「実例はもっと多いよ。衆人をしてビビらせるには十分だよね。はぁ」
ため息を吐きつつ、思わず膝に頬杖を突いて。なんか嫌な世の中だよねぇ。性格の悪さが利益になるなんてさ。魔性の侵食で世が荒れてるって、そんな現実を実感せざるを得ないねぇ。
「しかしです、リーダー。手応えはあるんです。あと一歩でという手応えが」
ロッシさんの発言だった。力強い目をしてそう口にしてきたけど、それも確かに。
「ですね。思いの外、手応えはある。僕たちに好意を抱いてくれて、出来れば協力したいって思っている人たちはけっこういそうで」
「そうです。それだけゲイルたちを嫌悪し、リーダーのお人柄に期待する人々は多いのです」
「えーと、おそらく前者が理由の九割以上だとは思いますけど……そうですね。僕たちへの支持は本物ですかね」
「はい。だからこそ、あと一歩なんです。何か、ゲイルへの恐怖を忘れさせて、私たちに協力したいと思えるような何かがあればいいのですが……」
この場には、主要メンバーである夫妻とエイナさんに加えて、3人ばかりがいるのだけど。みんなして、僕を見つめてきたのだった。妙案をどうぞ、ってそう期待されちゃってるわけだけど。う、うーん。期待にはさ、応えたいとは思うんだけど。
「あー、そうだね。僕がドラゴン連れてるとか、そこら辺はアピールにならないかな?」
窓の外を眺めつつの提案だった。あまりにもまとわられて面倒だったので、クレシャに託して、あの二体は外で遊ばせているんだけど。僕がいないと仲良いよなぁ。くだんのドラゴンは、マールに尻尾を遊ばせてちょっと年長ぶったりしていて。
ともあれ、ドラゴンはあらゆる魔術を行使し得る魔獣の王だ。まぁ、今のところのイブは頭突きを主武器とする暴力系魔獣に過ぎないけど、それを使役しているというのはそれなりのアピールポイントになるんじゃないかな?
ただ、ロッシさんは「残念ですが」と首を左右にしてきた。
「すでに使わせてもらっていますが、現状はこれです。だったら何故ゲイルたちは健在なのかと、そういう話になってしまうようで」
「あー、そっか。噂に聞くドラゴンを使役しているなら、とっくにゲイルたちを全滅させていてもおかしく無いだろうからねぇ」
「あと、少しでもドラゴンを知る者たちからは、虚勢を張っていると笑われてしまって」
「飼いならせないのがドラゴンのはずだからなぁ。なるほど、そりゃダメか」
どうにもこうにも、僕の提案は無駄なものだったようだ。
うーん、である。
なかなかね、ゲイルに対抗することを踏ん切らせる材料を見つけるのは難しくて。
「……厄介な相手ですね、本当」
エイナさんが暗い表情で呟いたけど、僕は顔をしかめて同意を示すことに。
「まったくねぇ。反抗されて当然の連中なんだけどさ、それを封じるだけの実力はあって。持ち前の性格の悪さが幸いして、恐怖を上手いことバラまくことも出来て。それでさらに、あの連中は権威も持ち合わせてるからなぁ」
「権威ですか? あの連中のどこにそんなものが?」
「そう言いたくるのは分かるけど、あるの。領主様公認って権威がねぇ」
僕は再びのため息だったけど、そう言えばそうか。なかなか協力者が得られないのには、この理由もあったか。
「ゲイルのヤツ、半分貴族みたいなもんだからさ。領地までは無いけど、領主の城下に屋敷もらっていたりさ」
それは周知のことであれば、エイナさんも知っていたことのようだ。うんざりとした表情で頷いてきた。
「でしたね。信じがたい話ではありますけど」
当然、ロッシさんもご存知のことだった。嘆かわしげに額にシワを寄せて口を開いてくる。
「何でアイツらなどにという思いはありますがね。しかし、これが現実です。私たちが持っていないものを、ゲイルたちは多く手にしている」
だねぇ。傘下も含めたパーティーの規模、領主という後ろ盾があっての権威、あとは単純に資金面なんかも比べものにならないよなぁ。
やれやれ、だった。
大広間には、暗い空気が満ちることになった。僕も正直、陰鬱な気分で。あの連中にさ、どうやって対抗していくかねぇ。まったく考えが浮かばないんだけどさ、うーん。直接やり合ったって、今の僕たちじゃあ、規模の差ですり潰されるだけだし。
「……あ」
皆が皆、黙り込む中であった。
エイナさんがいきなり、そんな声を上げて。当然、僕を含めたみんなの視線が彼女に集まることになり、代表して僕が尋ねさせてもらうことになった。
「どうしたの? 何か、良い考えでも浮かんだ?」
「え、えーと、はい。ゲイルは領主からの支持を得ているんですよね?」
「まぁ、けっこうな支持を得ていると思うけど」
「それは積極的な支持なんですか? ゲイルを心底気に入ってのような」
僕は思わず苦笑を浮かべることになった。
「あはは、まさか。ゲイルが領内のパーティーを牛耳っているせいで、ゲイルに頼らないと内政が回っていかないだけだから。決して人柄に惚れたとか、そういうわけじゃ……って、ああ」
僕は一つ頷いた。エイナさんが何を言いたいのかというところに思考が及んだからだけど。
「もしかして、領主の力を借りたらって、そういうこと?」
「私たちにも権威をという話です。私たちに領主の後ろ盾があれば、協力したがっている人たちも踏ん切りがつくかもしれませんし。あるいはゲイルたちから領主の後ろ盾を引き剥がすことが出来れば……」
「アイツらの瓦解を促すことも出来るかもか。なるほどねぇ」
小市民根性が染み付いていて、なかなかそこまで考えが及ばなかったけど。そうか、そういう手段もあるにはあったか。




