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第19話:魔獣との戦い、そして(1)

 予定外過ぎて、反応に困るしか無いのだけど。


 こりゃ困った、わははは! なんて現実逃避しているわけにもいかないわけで。


 下手をしなくても、だ。全滅するかもしれないぞ、これは。


 気が付けば、傷ついた冒険者たちが、唖然としてアメジストアイの威容に立ち尽くしていて。その中の一団に僕はすかさず声を上げる。


「ユーシ、ペール、ミレっ!! アロンソを助けろ、早くっ!!」


 僕の怒声は、アロンソが連れてきた二次パーティーのメンバーへのものだった。名前ぐらいは知っていれば、指図も出来る。比較的負傷も軽いように見えれば、救助に動けると判断したのだ。ただ、敵であった僕からの指図であって。彼らは戸惑っているようで、僕は苛立ち叫び直すことに。


「アホ面さらしている場合かっ!! 行けっ!! 急げっ!!」


 これでようやく動き出し。


「ロッシ・アマルテっ!! 退避しろっ!! その指示も任せたっ!!」


 僕が叫んだのは、アマルテ夫妻の旦那の名前だった。ゲイルに反抗してみせたパーティーのリーダーだけあって、やはり度胸はあった。「分かったっ!!」と返答があり、早速退避の指示を飛ばしてくれている。


 これで負傷者の方は大丈夫か。


 あとは……まぁ、本丸だよなぁ。


 アメジストアイはその紫の双眸でじっと僕を見つめていた。荒い鼻息はここまで届いており、ひどく興奮しているのは明白。何故、そんなに興奮しているのか? それは分からないが、興奮している割には動く気配はあまり無い。


 その理由は簡単に察しがついた。


 1つにはクレシャだ。アメジストアイが見つめているのは、僕では無くクレシャってわけで。おそらく向こうさんには魔犬とやりやった経験でもあるんだろうね。興奮していても、警戒心が勝って迂闊(うかつ)に手が出せないのかもしれない。


 もう1つはイブだ。


 いつの間にか隣にイブが来ていたのだ。そして、常ならぬ様子を見せていた。全身のウロコを逆立てて、目つきは静かな殺気に満ちた獣のもので。


 もしかしたら、僕を守るために出てきてくれたのかもしれないが、イブは間違いなくアメジストアイの警戒の対象になっていた。ドラゴンとはそれだけの力を持つということの証拠かもしれないけど……やるしかないかね。


 クレシャの狩人との実力と、イブのドラゴンとしての底力。それを信じて、立ち向かってやるしかないか。


 景気づけに大槍を一度虚空にひるがえして。


「……さぁて。やるよ。クレシャ、イブ」


 槍を構え、口の端の木笛を意識する。


 1人でこんな大物狩りは初めてだけどさ。とにかく僕は戦意と集中を高め……


「ふざけんなよ、テメェっ!!」


 怒声に意識を奪われる。


 思わず目を向けることになったけど、その怒声の主はアロンソだった。タフなアイツのことだ。どうせ生きているだろうとは思っていたけど、やっぱり生きていたようで。しかし、無傷でへっちゃらというわけにはいかないらしい。僕が向かわせてやった連中の肩を借りて、何とか立っているようだった。


 しかし、何だ? ふざんけなよって何だよ、ふざけんなよって。僕は怒声を返すことになった。


「うっさいぞ、アロンソっ!! さっさと逃げとけっ!! ここは僕が引き受けてやるからっ!!」


 耳ざわりでもあれば、邪魔だってそういう話だった。だが、アロンソは大人しく去ることは無かった。


「そういうところが気にいらねぇんだよっ!!」

 

 またまた叫んできやがって。僕も苛立ちを込めて、叫び返すことになる。


「うっさいって言ってんだろっ!! さっさと逃げろってのっ!!」


「クソがっ!! そこが気にいらねぇって言ってんだよっ!! 善人ぶって余裕ぶって……しかも、おいっ!!」


 一体何を考えているのか。自分を支えていた冒険者たちを、アロンソは荒々しく突き飛ばした。


「テメェら、何考えてんだよっ!! 俺がリーダーだっ!! なにカリスの言うことを聞いてやがんだよ、あぁっ!?」


 あのバカは、この状況でそんなことを気にしていたようだった。


 大剣で体を支えながら、憤怒の形相で周囲をぐるりと見渡す。


「まだ終わってねぇだろっ!! カリスを殺せっ!! 好機だろうがよっ!! ぶっ殺せっ!!」


 僕はアメジストアイに向き合いつつ、呆れることすら出来なかった。この状況でさ、んなこと言われる連中のことを考えてみろって。


 案の定、誰一人としてアロンソに従った者たちはいないようだった。アマルテ夫妻たちは当然として、アロンソが連れてきた傘下の連中も。当然の選択だった。そりゃ死にたくないからなぁ。しかし、それはアロンソにとっての当然では無いようで。


「ふ、ふざけんなよっ!! 何で誰も俺の言うことを……っ!! カリスっ!!」


 怒りの矛先は何故か僕らしい。あまり気にしていられないけど、アロンソは凄絶な表情で僕をにらみつけてくる。


「お、お前は……お前はいつもそうだっ!! 気がつけば、いつも中心に居座って偉そうで……死ねっ!! 死ねぇっ!!」


 ここで気にせざるを得なくなった。


 大剣を構えたアロンソが僕に向かって突貫してきたのだ。


「あ、あのバカが……」


 呟きつつ、僕は槍の穂先を接近しつつあるアロンソに向ける。なんでこの状況で三つ巴にならなきゃいけないのか分からないけど、アイツは無視出来る脅威ではありえないし。


 しかし、実際に僕がアイツを相手にすることは無さそうだった。


「あ」


 呆気に取られて呟くことになった。


 急に動いたものに反応したのだろうか。その巨体に似合わぬ敏捷さで、アメジストアイは動いていた。アロンソへと魔獣が肉薄する。太い丸太ほどもある前腕が、横薙ぎに振るわれて、そして。


 鮮血が舞った。


 アロンソが吹き飛んで、思わずその姿を追う。どうやら無事であるようだった。だが、片腕がどうにもちぎれ飛んでいる。仰向けに倒れ込むアロンソは、呆然と腕があった場所を見つめ、


「ひ、ひぃぃぃっ!? か、カリスっ!! 助けろっ!! 俺を助けろっ!!」


 僕はすかさず動いていた。


「クレシャっ!!」


 雷戈(らいか)の指示。アメジストアイの注目をこちらに集めようというのだった。雷撃が黒の巨体をのたうち、焦げ臭い匂いが僕にまで届き。


 試み自体は上手くいった。


 紫の眼光が、こちらに注がれる。そして、アメジストアイは前触れもなく立ち上がり……あ、ヤバいぞ、これ。


 経験はあった。あの魔獣は、ああして立ち上がり距離を測っているのだ。不意に湧き立つ魔力の気配。魔獣はこちらを見据えたまま、両の手で直下の大地を激しく叩いた。


 ついで変容が起きる。


 アメジストアイを起点として大地がうごめき。それは瞬きの間も無く、僕たちの元へ届き。大地がゆれる。うごめく。無数の鋭利な槍のようになり、僕たちに襲いかかる。


 大地の尖槍(アースグレイブ)


 少なくとも僕を殺すのには十分すぎる魔術だ。


 死んだろ、これ。引き伸ばされた時間の中で、そう自覚して。衝撃があった。だが、それは数多の槍が僕を引き裂いたものでは無かった。


 視界の端に、その張本人は映っていた。イブが飛びかかってきたのだ。ついで、脇腹に鈍痛が走り。


 僕は吹き飛んだようで、視界が気持ち悪く回転する。だが、生きている。なんとか体勢を整えることも出来たけど、い、今のは? もしかして、助けてくれたのか? イブが、あのままでは僕が殺されるとありえないような機転を働かせてくれて。


「い、イブっ!!」


 そのイブは今どうなっているのか。不安になって叫ぶが、あ、いた。いてくれた。僕のかたわらにだ。変わらずウロコを逆立てながら、アメジストアイに向き合ってくれている。わずかにウロコが剥がれているような感じがあったが、それを気にする様子も無く、僕を守ろうとしてくれている。


「……ありがとな、本当」


 ドラゴンにそんなことが出来るのかと驚きはあったが、とにかく礼を口にして。ついでクレシャの姿を探す。こちらも無事のようだった。指示はしていないはずなのだが、アメジストアイの背に回ろうとしていた。どうにもあの怪物の注意を僕から逸らそうとしているようで。

 

 本当、この子たちのこの賢さは何なのか。


 疑問は湧くが、それどころでは無い。この子たちに助けてもらった命を、マヌケに呆然として失うわけにはいかなかった。


 吹き飛ばされながらも、僕はしっかりと大槍を握っていたようで。急いで立ち上がり槍を構えるが、脅威は目前には無かった。アメジストアイは僕に注意を向けてはいなかった。


 獣の知性は、数を減らすことを選んだのかどうか。


 クレシャを気にも止めず、アメジストアイは四肢で森を駆ける。アロンソへと猛然と接近する。アロンソの目が恐怖に見開かれた。


「く、来るなっ!! 来るなぁぁあっ!! カリス、助けてくれっ!! カリス、カリスぅぅうぅっ!!」


 もう、どうしようも無かった。


 アメジストアイの前腕が、叩き潰すような格好で振るわれ。轟音と共に、アロンソの悲鳴は消えた。頭蓋ごと、潰され消されてしまった。


 次は僕ということなのか。


 暗闇で光る紫の双眸(そうぼう)が、こちらへと向けられる。



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