第3話:追放の酒宴(1)
ゲイルのパーティーが拠点として利用している宿屋、その食堂をかねた酒場においてだ。
打ち上げのようなものだった。
先日のオーク退治は、魔性討伐の依頼の一環だったのだけど。それが終わって、ご苦労さまということでゲイルから酒がふるまわれて。
その場では、ゲイルはずっとご機嫌に酒杯をかたむけていた。僕も、パーティーの現状への心配はあれど、クレシャをそばにおいて安心して酒をなめていたのだが。
さすがに固まることになった。
不意に立ち上がったゲイルが、皆の注目を集めて妙なことを言ったのだが……えーと、あー、え?
夕暮れ時である。
木窓からの夕日に照らされながら、ゲイルは満足そうな笑みを浮かべていたけれど。その笑みに対して、僕は思わず酒杯を置いて問いかける。
「あーと、ゲイル? お前は今、何て言ったんだ?」
ゲイルは何でもないことのように答えてきた。
「聞こえなかったのかよ? 俺はな、お前にこのパーティーを抜けろって言ったんだ」
正直、現実感が無かったのだ。
さきほどまでは和やかな飲み会が続いていたのに、今は一転水を打ったように静かで。
ただ、理解は出来たし、納得も出来た。
「……そっか。僕はもういらないか」
僕の呟きに、ゲイルは嘲笑を顔に浮かべた。
「そういうことだ。おい、お前も立て」
それは僕に向けられた言葉では無かった。
男が一人立ち上がった。ゲイルの隣で飲んでいた中年の男だ。そいつはやたらと下品な笑みで、ニヤニヤと僕を見つめてきている。
なるほどだった。知らないやつが混ざっているなとは思ってたけど、そういうことか。
「僕の後釜か?」
ゲイルは下品な笑みで、立ち上がった男の肩を叩く。
「ベテランのテイマーだ。そして何より、俺の考えの理解出来る賢い男だ」
そう言って、ゲイルは嘲笑うように目を細めて僕をにらみつけてくる。
「お前と違ってな。カリス。バカでノロマなお前と違ってな」
「…………」
「ただのメンバーのくせして、俺の意見をまるで聞きやしない。それどこかやたらと反抗的で、しかもそんな奴がベテラン風を吹かしてやがるときたもんだ。正直な、邪魔なんだよカリス。このパーティーにとって、お前は邪魔者以外の何者でも無い」
「……なるほどね」
「理解したか? だからな、カリス。追放だ。このパーティーに、お前の居場所はもう無いんだよ」
僕は椅子に腰をつけながら、ゲイルの長々としたご高説を耳にしたのだが。
本当、なるほどねという感じだった。自分でも驚くほどにそれ以上の感想は湧いてこない。
多分、無意識にどこかで覚悟はしていたのだろうね。こんな日も来るだろうと。
ふと周囲を見渡せば、メンバーたちの反応は様々だった。ゲイルと同じように僕を嘲笑うヤツもいれば、関わり合いたくないと酒杯に向かうヤツもいて。何が起きているのかと不安そうに視線を左右にしているヤツもいたが、まぁ、ともあれだ。
良い状況だった。
僕を引き止めようとする者は誰もいない。だったら僕もメンバーを気にする必要なんて無いわけだ。
「今まで世話になったな、ゲイル」
適当にそう口にして、クレシャの頭をひとなでして。
立ち上がる。目的なんて言わずもがなだ。僕はクレシャを引き連れて、酒場の出口に向かう。
ゲイルの望むようにしてやったわけだ。ところがである。
「おい、カリス。待てよ」
僕の背に、足を止めるようにとゲイルの声が届いた。
僕はうんざりすることになった。まだ僕について文句の言い足りないところでもあるのか。無視しても良かったが、多分これから先、このバカと出会うことは二度と無い。長い付き合いという意識も手伝って、僕は足を止めて振り返ることになった。
「なんだよ、ゲイル。僕はもうこのパーティーのメンバーじゃないんだぞ?」
「あぁ、そうだな。だからこそ、お前はすべきことがあるだろうが」
「は?」
疑問の声を上げる僕に対し、ゲイルはニヤニヤしながら指を差してきた。僕をでは無い。僕のそばでひかえるクレシャをだ。
「分かってんだろ? 備品だ。お前はもうメンバーじゃあないんだからな。備品を置いてけ。それが筋だろ?」
正直なところだった。
お前はバカなのか? そう危うく口にしかけたが、無駄にケンカ腰にはならずにすんだ。しかし、口にすべきことはあった。僕はどうしようもなく眉間にシワを寄せながら言葉作った。
「そんな筋があってたまるか。お前は備品だなんて言ってくれてるけどな、クレシャは僕が連れてきた魔犬だ。僕がパーティーに入る前に手に入れて、僕が相棒として育ててきた。置いてけってな、なにが筋だ? そこにどんな道理がある?」
努めて冷静であったつもりだった。ただ、言葉に多少の怒りがにじむのはどうしようも無かったけど。
一方のゲイルだ。
コイツは今まで通りの腹の立つ態度だった。僕の言葉に響くところは無かったようで、にやつきながらに僕をせせら笑ってきた。