第11話:お祭りの最中で
僕がゲイルだったら、だ。
カリスとか言うそれなりのテイマーを殺そうと思えばどうするか?
まぁ、クレシャを引き離そうとするだろうね。
クレシャ付きの僕は知覚抜群なのだ。待ち伏せのたぐいを看破することは、クレシャの様子をうかがっていれば容易だし。大概の暗殺まがいのことは、事前に察知して避けることが出来る。実際、今までもそんなことは何度もやってきたし。ゲイルを救ってやったことも何度もあったわけで。
だからこそ、僕を始末しようと思えば、真っ先の対象はクレシャだ。イブにしても、バーセク種を一蹴した実力は確かであれば、狙われる可能性は十分にある。そう思って、僕は自分よりもクレシャとイブの安全に注意を払っているのだけど。
夕方時なんだけど、今日の村は明るかった。
村の広場では松明が焚かれていて。で、村中の人たちが集まって、にぎやかに食事をしていて。
まぁ、お祭りみたいなものだった。
何のお祭りかって言えば、僕とエイナさんがまた魔獣を一体討伐したわけで。魔獣がうろついていたり、ゲイルからあんまりな対応を受けて、ちょっと雰囲気の暗い日々が続いていたらしいんだけどさ。これを機会にってちょっとはしゃいじゃってるらしい。
僕も割と、この雰囲気を楽しんでいた。
広場の一角で腰を下ろして、軽くぶどう酒をたしなませてもらって。最近、こんなにぎやかさに触れ合う機会は無かったし。僕の元いたクソパーティのお互いの顔色をうかがうような陰気さとも無縁で。良いよねぇ、本当。こういうのが良いよね、こういうのが。
ただ、心の底から楽しむってのちょっと無理で。
祭りのどさくさで、僕やクレシャ、イブに一服って、そんな可能性はあるし。だから、クレシャとイブには横に座ってもらっておいて、近づく人にはそれなりに気を使うことになっていた。刺客はエイナさんばかりとは限らないからなぁ。
しかしまぁ、クレシャはともかくだ。
イブはどうにもじっとしていられないようで。待てをさせているんだけど、ちらりちらりと頻繁に僕を見上げてきている。
広場では陽気に歌い、踊る人たちがそれなりにいるのだけど。彼らが気になっているようなのだ。混ざりでもしたいのかな? うずうずと彼らを見ては俺を見上げてきて。
こんな状況だったら、遊ばせて上げても良かったんだけどねぇ。少しばかり気の毒な感じで、僕は思わずイブを抱き上げる。
「ほら、僕が遊んでやるからさ」
最近、ちょっと邪険にしてたし。今日ぐらいはかまってやるかと膝に下ろす。すると、イブはのっそのそと、肩を伝って僕の頭に上がってきて。
「……まぁ、それで良いなら良いけどさ」
これがコイツの流行りらしい。ただ以前とちょっと違うのは、とにかく全身を僕の頭に乗せようとするのでは無くなかったことだ。おんぶしているような感じだった。体を僕の背に乗せ、トカゲ頭だけを僕の天頂に乗っかけているようで。
頭の負担が減ったから、僕は良いんだけどさ。でも、なんなの、コイツ? 魔犬のたぐいだったら、マウンティングしたいのかと疑うところだけど、コイツはドラゴンだし。何が楽しいのかは皆目理解出来ないのだった。
しかし、この状況は余人の目にどう映るのか。
「……あのー、カリスさん?」
不思議そうな問いかけだったけど、それはエイナさんだった。今まで、どこだかでお祭りを楽しんでいたのかどうなのか。手には何かしらの肉料理の乗った木のお皿を持っているけど、まぁ、うん。とりあえず疑問の声に応えるとするかね。
「僕が乗せたわけじゃないからね。コイツが勝手に乗ってきたんだ」
「あはは、なるほど。その子は本当に遊ぶのが好きなんですね。えーと、隣良いですか?」
「うん、どうぞ」
そうして、エイナさんは僕の隣に腰を下ろしてきたけど……なんだかなぁ。
僕は彼女の表情をうかがっているけど、まったく冴えない表情をしているよね、うん。
それもそれのはずではあった。エイナさんがゲイルの刺客である前提の話だけど。本当、何も出来てないしねぇ。その上で、魔獣の退治は順調に進んでいて。村長さんはあとは熊を倒せば報酬を払うって言ってたけど、僕がこの村を去る日も近づいていて。
焦ってるっぽいよね。
何とかしなければいけないって思いつめてるっぽい。
「え、えーと、あのですね!」
唐突に、エイナさんはぎこちない笑顔でそう声を上げた。そして、木皿にある肉料理を僕に示してきて。
「も、もらったんです。美味しいからって。それで、あの……クレシャやイブにも上げたいなって。良いですか? どうでしょう?」
僕はとりあえずだった。
カカトで地面を二度鳴らしてみせる。クレシャはぴくりとそれに反応してきただけど、これは合図だった。木笛も使えず、声が出せない状況でも指示が送れるようにと、僕はこんな調教もクレシャに仕込んでいて。
待てだった。
食事に口をつけないための待てだ。イブは幸い、僕にべたりとするのに忙しいらしく、お肉には興味は無いらしく。これで万全だけど、なんだかなぁ。僕は内心でため息をつく。
そろそろ白黒つける時かねぇ。
証拠は無かったし、エイナさんは良い子だし、依頼の達成にもかなり役に立ってくれていたからね。ここまで曖昧ですませてきたけど、ここらが潮時か。
先に自分で食べてごらんなさいってね。そう告げさせてもらうわけだ。これでエイナさんがためらい拒否してくるようであれば……幸い、周りに人気は無ければ、迷惑はかけずにすむ。襲いかかってくるようであれば、それなりに痛い目に会ってもらうとしよう。
そう思って、決定的な一言を口にしようとして。
しかし、エイナさんだ。慌てた様子で手を横にふってきた。
「す、すみません! テイマーさんの魔獣に部外者がご飯を上げようとか。失礼でしたね、すみません」
それだけ言って、半笑いでうつむいて。
そのまま一言も発しないようになった。
……本当、何だかなぁ。
僕は膝に頬杖を突いて、軽くため息をついた。
刺客だとしても、もう嫌々って感じなのかも知れない。クレシャやイブを毒殺することには、ためらいしかないって感じだし。
「君は良い子だよ」
え? とエイナさんが顔を上げてきて。
その生気の無い顔に、僕は語りかけることになる。
「君は良い子だ。魔術士として腕もある。冒険者としての判断力も度胸も大したものだし、なにより性格が良い。どこへ行っても通用するはずだって、僕は思うけどね」
ゲイルの言うことを聞く必要なんか無いんじゃないのって、そういうことだった。何か理由はあるかもしれないけどさ。こんなやりたく無いことをやらされてるぐらいだったら、ここで得た報酬を元手にして、どこか遠い地でやり直したらって僕は思うわけで。
「僕はさっさとよそに行くつもりだけどね。良かったら、そこまでの手助けぐらいはしようか?」
一応、ゲイルのパーティーの副長格として色々経験してきたわけで。それなりの処世術も身につけていれば、売り込みの手助けぐらいは出来るし。
ただ、エイナさんは乾いた笑みを浮かべるばかりだった。
ふむ。何か、よほどの理由でもあるのかねぇ。
「……アマルテ夫妻だけどさ、今何やってるの?」
エイナさんはビクリと肩を震わした。どうやら、この辺りが肝のようだけど、答える気は無いらしく。
「……知りませんけど、元気にやっていると思います」
それだけ答えて、エイナさんはすぐに立ち上がり。
「すいません。ちょっと気分が悪くて。失礼します」
多分、本当に気分が悪かったのだろう。
もうさ、あの子が刺客だというのは間違いないだろう。で、そんな彼女は毒殺に失敗して、僕から意味深な言葉を投げかけられて。色々と限界だったのかもね。
彼女が立ち去って、それを見送って。
「……よし。クレシャ、もう良いよ」
待てを解除しておいて、僕は深くため息だった。
何とかして上げたいような気はするけどねぇ。
他人の問題に関わっているような余裕は僕には無いんだよなぁ、うん。




