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第9話:エイナさんと山中探索(2)

 イブはひっかくだけでは飽き足りなくなってきたらしい。爪をひっかけて、僕の体をよじのぼり始めて。今はね、休憩したいんだよ、僕は。掴んではがして地面にペイっと。しかし、イブは諦めない。再び登山を敢行しようとしてくるけど、僕は片手で頭をつかんで押し留める。イブはそれがいたく不満らしい。グーグー唸りながら、僕の手を外そうともがいて暴れて。


「……あの、ドラゴンって、そういう生き物でしたっけ?」


 皆が皆思う疑問をエイナさんも口にしてきた。さぁて、と僕は首をひねって見せることになる。


「どうだかねぇ。僕もこういう生き物じゃないって思ってたんだけど。やっぱりおかしいよね?」


「は、はい。ちょっとおかしいかなって。あの、カリスさんの特別な技術とかでこんな感じに?」


「あはは。そんな技術があるんだったら、僕はとっくにドラゴンテイマーとして良い生活をしているさ」


「じゃあ何でしょう? もしかしたらスキルでしょうか」


 イライザが冗談で口にしたことを、エイナさんは真面目な顔をして口にしてきた。僕はないないと大きく首を横に振ることに。


「んなわけ無いでしょ? 僕はど平民だよ? スキルになんて縁もゆかりも当然無いよ」


「ど平民でもあるかもですよ? 私の町では良く言われてました。スキルは誰にでもあって。でも、貴族は偉ぶっていたいから、庶民には無いものとしてふるまってるって」


「あー、それは僕も聞いたことあるかも。でも、無いと思うし、あろうがなかろうが僕はどうでもいいけどね」


 あるかどうかも分からないものについてはまぁねぇ。実際に確認出来れば話は別だけど、今のところは感想も何も無い。とにかく、イブがなついてくれて、おかげでクレシャを取り戻すことが出来た。この事実が重要であって。


 ただまぁ、今はちょっとうっとうしいかもしんない。遊び盛りってことなの? ドラゴンにそんな時期は無いだろうに、イブはとにかく遊べ遊べの遊べ遊べで。今も、僕の頭に上ってやろうと、妙な敏捷さを見せて手をかいくぐろうとしてきて。


「……しかし、驚くぐらいに人懐っこいですね。ちょっと可愛いかも」


 エイナさんがんなことを口にして、それを聞きとがめたってわけじゃ無いと思うけど。


 イブは「ん?」って感じで、エイナさんに目を向けた。何かに気づいたっぽい。身をひるがえして、トテトテとエイナさんに近づいていって。


「え、えーと?」


 エイナさんが困ったように目線を向けてきて、僕も若干困るのだった。エイナさんが刺客だったら、あまり近づけるのはなぁってことで。でも、やはり刺客では無かった時のことを考えると、いきなり行くな! ってやるのもなんだし。


 まぁ、今は僕の目の前だから。


 手元に大槍もあれば、一瞬で片を付けることも出来る。ここはイブのやりたいようにやらせてやるかね。


「良かったらさ、適当にかまってやってよ」


 そんなことを言われても困るって感じのエイナさんだった。どうしようかと手をさまよわせて、そんなことをしている内にイブはエイナさんのズボンに前足をかけて。


 当人の中で流行ってるのかね? 登り始めたのだった。で、これはエイナさんの予想を超えた事態のようで。切れ長の目を、大きく丸くすることになっていた。


「ちょ、ちょっとっ!? ま、待ってよ! えーと、こらっ!!」


 叱ってやったところで我道を往くイブだった。邪魔されないようにってことなのか、急いでエイナさんの頭に登ろうとして。ただ、それはエイナさんも勘弁だったらしく。慌ててそれは防ぎ止めて、結果イブはエイナさんの胸元で抱き止められることになった。


「……び、ビックリした。本当にもう、ビックリしたよ、はぁ」


 そう内心を吐露するエイナさんの腕の中で、イブはわりと満足しているようだった。目を細めて、じっとしていて。コイツ、人の体温も好きだもんね。これはこれでコイツの望みどおりのようだけど、しかし、うーむ。


「ごめんね、エイナさん。迷惑かけちゃって」


 エイナさんがわたわたしているのは正直見てて面白かったけど、迷惑には違いないだろうし。それで謝罪させてもらったわけだけど、エイナさんは首を左右にしてくれて。


「い、いえいえ。大丈夫です。本当、ビックリはしましたけど」


「あはは、そうみたいだね。ウロコが刺さって痛いだろ? 適当にこう、放ってくれて良いから」


 気兼ねなく捨ててくれって告げさせてもらったのだ。でも、エイナさんはイブを放り投げたりはしなかった。むしろその逆だった。


「……この子、温かいですね」


 優しくイブを抱きしめ続けて。その顔つきは、今までに無く穏やかなもので。


「私、前から一度カリスさんと仕事をしたいって思ってたんです」


 ポツリと呟くようにエイナさんはそう口にした。僕は首をかしげながらに応じる。


「へ? 僕と仕事を?」


「はい。あのゲイルのパーティーの主要メンバーなのにすごく優しくて。テイマーとしてもすごい人だって聞いていて。一度ご一緒したいなって思っていたんです。でも……」


 エイナさんは一度ぎゅっとイブを強く抱きしめた。そして、イブの頭にひそかにつぶやいた。


「こんな形になって、すごく残念です」


 彼女は自身の失言に気づいているのだろうか? もしかしたら、それどころじゃないのかもしれない。何か思い悩んでいるのか、エイナさんはイブを抱いたままでじっと動かくなり。


 僕はクレシャを撫でながらにため息をつきたいところだった。


 多分、本意じゃないんだろうね。


 何かしらの理由があって、ゲイルに協力なりをしているみたいだけど。


 何とかしてあげたいような気はする。でも、僕には人様にかまっていられるほどの余裕は無いし。


 本当嫌な依頼になりそうだね。


 あとでクレシャに抱きつくことを、僕は心に決めるのだった。



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