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第8話:エイナさんと山中探索(1)

 可愛い子と一緒に、いざ魔獣討伐へ。


 状況としてはそうなるんだけどさ。悲しいかな、これに胸のときめきを覚えられるほどには僕の肝は太くなかった。


 山中を歩いているんだけど、連れとしてクレシャとイブは当然としてだ。僕の隣には、美少女然としたショートカットの魔術士、エイナさんが付き従って来ていた。


 この人、多分、ゲイルの刺客なんだよね。


 だから僕はけっこう警戒しているのだった。この子には、独力で僕を殺害するような実力はまず無い。実際、アマルテ夫妻のパーティーのうわさの中で、この子の名前が上がることは無かったし。


 なので、どこぞに仲間が潜んでいる可能性が考えられて。その仲間のところに僕を誘導し、罠にかけて始末しようとしてるんじゃないかって、その懸念はけっこう大きかったりするけど。


 今のところ、エイナさんにそんな気配は無かった。


 普通にと言うか、真っ当に依頼に向き合っているみたいで。


「魔獣って話ですけど、カリスさんはどんな種がうろついていると考えていますか?」


 歩みを続けながらに尋ねかけてくる。


 こんなことは答えたところで何の問題も無いし、僕は周囲を見渡しながらに応じた。


「んー、いつも通りだったら、ボア種のブルーラインか、グレイホーンか。まぁ、大猪に毛が生えた程度の魔獣だと思うけどねぇ」


「なるほど。大きな熊が出たって証言もあるようですけど?」


「そうだったね。どうだろうなぁ。ここらじゃ、あまり熊型の魔獣は見ないけど。野生の大熊か、あるいはアメジストアイが縄張りを追われてここらまで流れてきたか。後者だったら……かなり嫌だなぁ」


 僕は本気で嫌な顔をするのだった。エイナさんも、アメジストアイについては知っているらしい。わずかに顔を曇らせていた。


「相手にしたことは無いですけど、アメジストアイですか。評判は聞いています。やはり危ない相手ですか?」


「そりゃあね。身の安全を考えたら、少なくとも十人単位で相手した魔獣だし」


 アメジストアイは熊型の魔獣の中では最強種に近い。獰猛かつ頑強で、クレシャほどでは無いにしろ強力な魔術を操る。


 僕は背に追った大槍に意識を向ける。


 村長からの借り物だけど、魔獣に止めを刺すのは僕なのだ。クレシャに気を引いてもらって、イブにはまぁ適当に遊んでおいてもらって、その上で僕だ。相手がアメジストアイだったらなぁ。一歩間違えば惨殺されるし。可能性はまず無いけど、是非とも相手にしたくはないね、本当。


 思わず「はぁ」とため息だったけど、エイナさんは何を思ったのか。僕に可愛らしくほほ笑みを見せてきた。


「でも、あのカリスさんですから。きっと大丈夫ですよ」


 なかなか、くすぐったくなるようなことを言ってくれるのだった。しかし……悲しいなぁ。まったく素直に喜べない。僕を油断させるために甘言を弄しているかもって、そんな疑いをしなきゃいけないし。


「ははは。その時はうん、期待に沿えられるようにがんばらせてもらうよ」


 彼女が刺客では無かった時のために、一応うれしげに応じてみせる。エイナさんは変わらずほほ笑んでいた。ただ、その目の色はと言えば、なんかちょっと心苦しそうな感じに見えた。


 もしかしたら嫌々なのかねぇ。


 何かしらの理由で、ゲイルに無理やり言うことを聞かせられているとか。まぁ、そうだったとしても、僕には何の関係も無い話だけど。敵対してくるのなら、それなりの対応をさせてもらうだけだ。


 ともあれ、魔獣の手がかりを探しながら山中を歩き回って。


「……あかん、一度休憩にしよう」


 僕はエイナさんにそう告げることになった。


 広い山中だから仕方ないけど、魔獣の姿はもちろん、その痕跡もさっぱり見つからなくて。


 少し開けた場所を見つけて一服することになった。


 春の陽気の下での山歩きなもんで。地面に腰を下ろしながらに、僕は額の汗をぬぐう。


「なかなかね、どうにもだね」


 エイナさんもそれなりに疲れている感じだった。地面で片膝を抱きながら、額の汗を軽くぬぐっている。


「そうですね、なかなか。魔犬がいても難しいものですね」


 どうやらエイナさんはクレシャに期待するところが大きかったようだけど。それには僕は苦笑で応じることになった。


「クレシャは猟犬じゃないからね。匂いを追うこと自体は出来るけど、特定の獲物の匂いを覚え込ませているわけじゃないし」


 だからこそ痕跡の1つでも見つけたかったのだけどね。それで今までの経験を踏まえて探したんだけど、今のところはね。運が無いって感じかなぁ、はぁ。


 とりあえず喉が乾いたので、革袋に注いでおいた水で喉の乾きを潤して。その最中だった。エイナさんが遠慮がちに声をかけてきた。


「……あの、いいんですか?」


 なにが? って感じで、僕は首をかしげて見返すことになり。エイナさんは「えーと」って僕の腰元を指で差してきた。


「ひっかいてますけど。喉が乾いているじゃ?」


 あぁ、と僕は納得だった。クレシャは大人しく腹ばいに座って、体力の保全に努めていて。だから、エイナさんが指差しているのは当然イブだった。


 イブはもうガーリガリ、ガーリガリ、だ。膝を立てて座る僕の足をひっかいてきていて。水を寄越せというわけではまったく無い。僕はエイナさんに首を左右にして見せた。


「あはは。気にしなくて良いよ。コイツは水を欲してるわけじゃないから」


「そうなんですか?」


「そうそう。ヒマだったら遊べって、催促してきてるだけで」


「あ、遊ぶですか?」


「そう。遊べって」


 

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