第7話:競争相手(2)
「そう、ドラゴン。僕の新しい相棒かな」
「……へぇ。すごいですね、カリスさん。ドラゴンまで従えてるなんて」
発言の内容ほどには感心している雰囲気も無く、驚いている感じも無かった。イライザや村長さんじゃないけど、ドラゴンを連れていたらそれなりに驚くもんだと思うんだけどねぇ。
あらかじめ知っていたって感じがすごくて。情報を確認しているだけって様子で。
そんな彼女がこれから何を言い出すのか?
黙って受け身に回っていると、エイナさんは作ったような乾いた笑みを浮かべた。
「あの、カリスさん。よかったら、この依頼に一緒に取り組みませんか?」
……ほうほう、そう来たか。
とりあえずのところ、僕は平然と応じて見せる。
「君と僕と二人で? なんでまた? 君はアマルテ夫妻の所の魔術士だろ?」
エイナさんの作り物のような笑みに安堵の色のようなものが浮かんだようだった。自分の望む流れになってくれたって、そんな感じだろうか。
「そうだったんですけど、今は違います。アマルテ夫妻のパーティーは、もう解散してしまっていて」
「え? そうなの?」
「はい。カリスさんも知っての通り、ゲイルからにらまれていたんですけど、カリスさんがいなくなって、その、いよいよって感じで」
へぇ、って感じだった。アマルテ夫妻のパーティーは、かなりゲイルと距離を置いていて、もっと言えばかなり嫌悪してもいて。
それが原因で、ゲイルとの間にひと悶着があったりもしたんだけど。そうか、僕がいなくなったもんなぁ。アマルテ夫妻のパーティーと、ゲイルの間をとりなしていたのが僕だったわけなので。そんな結末も十分にあり得るかもね。
まぁ、この話が事実かどうかは定かでは無いけど。
僕はとりあえず申し訳ない顔をして頷くことにした。
「そっか。それは何とも迷惑をかけたみたいだね」
「いえ、カリスさんのせいでは無いですから」
「そう言ってくれるとありがたいよ。それで、他のメンバーは? 一緒じゃないの?」
「他のメンバーは冒険者を辞めたり、ツテを頼ってゲイルの影響が無い地方へ。私はその、アテが無くて。懐も寂しければ、とにかく稼ごうと思ってここへ」
「はぁ。なるほど」
一応筋は通っているかねぇ。
そう思っていると、エイナさんは……うーん、なんだかなぁ。無理して演じているといった感じだった。すがるような上目遣いを作って、申し訳無さそうな感じで口を開いてくる。
「どうですか? 私半人前で、一人では心細くて。カリスさんほどのテイマーと協力出来たら、こんな心強いことは無いです。一緒に依頼の方をお願い出来ませんか?」
そして、本題に戻ってきた感じだったけど。
距離を取った方がいいのか、手元で監視出来るようにした方がいいのか。これ、そんな話だよね。
まぁ、あれかな。刺客だったら、どうせアレコレ理由をつけて近くにいようとしてくるだろうし。刺客じやなかったら、突き放すのは可哀想だし。
「僕も1人で不安だったからさ。こちらこそお願い出来るかな?」
エイナさんはホッとしたように笑みを浮かべた。
「ありがとうございます。ではあの、早速別の現場を見てきますね。それじゃあ」
本当だったら、依頼費の配分とか話すべきことがあるんだろうけどね。それでも、エイナさんは僕の返事も聞かずに足早に立ち去っていった。
ひと仕事終えて、ひと息つきたくなったって感じかな。そのひと仕事が何かってのが問題なんだけど……どうかなぁ。考えすぎかなぁ。
僕は「うーむ」なんて口にしつつ、とにかくその場でしゃがみこみ
そして、犬座りするクレシャの首にガバリ。
「……クレシャぁ。なんかさぁ、嫌な予感がさぁ」
思わず抱きついての愚痴だった。本当、嫌な予感しかしないよなぁ。嫌だなぁ。刺客を抱えての魔獣退治とかしんどいなぁ、はぁ。
クレシャの艷やかな毛皮を胸いっぱいに吸い込んでいるとだった。また、君か。イブが私もだろって、グイグイ頭を突っ込んできて。
残念ながら、今の僕はそんな気分じゃないのだ。無視してクレシャの毛並みに没頭するけど、イブも大人しくするつもりは無いようだった。僕の服にガシガシと爪を立てて上ってきやがって。頭にまで這い上がってきやがって。で、僕の頭の上に、上手いこと乗っかってきやがって。
「……お前、そこが良いの? そのつもりじゃなかったろ?」
返事が無いのは当然として、イブはまったく動かないようになった。どうやら僕の頭の上が心地よいらしいけど、うーむ。重い。首が疲れる。今はまだ良いけどさぁ。ドラゴンって、大型のユニコーン種以上に大きくなるって話で。僕がイブに圧殺される日は、そこまで遠い未来じゃないかもね、はぁ。
まぁ、何にせよだ。
さっさと依頼をこなして、金をもらって新天地を目指そう。
僕はクレシャの温かみとイブのうざったい重さを感じつつ、そう決意するのだった。




