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第6話:競争相手(1)

 腹ごなしをすませた僕は、クレシャ、イブと共に山際の畑に来ていた。


 目的は、一つには荒らされた畑を見てやろうってことだった。くだんの魔獣がどんなヤツか、そもそも一種なのか一体なのか複数なのか。村長から聞いた目撃証言と合わせれば、それで大体実態が見えてくるし。


 で、二つ目には、競争相手の顔を拝んでやろうということだった。


 頼りないヤツって話だけど、ゲイルの刺客である可能性は十分あって。って言うか、僕はかなりその線を疑っていて。だから、実際に目にして見定めてやろうってことだ。その競争相手は昨日の夕方にこの村に着いたばかりらしくて、村長さんの話だとまだ村の中に留まっているそうだし。


 しかし、刺客だったら嫌だなぁ。


 僕は「はぁ」と軽くため息をつきながらに歩みを進める。


 一応ゲイルの罠である可能性も考えて、ここに来たんだけどさ。それでも刺客がいたら面倒だよなぁ。魔獣討伐に力を尽くした上で、刺客への警戒に神経を使うことになるし。競争相手には是非とも、カリスを恐れることのない蛮勇の(やから)であって欲しいところだけど。


 ともあれ僕は被害のあった麦畑にたどり着いて。


 どうやらだ。目的は2つとも達成されることになりそうだった。


 何か大きな生き物が横切ったのか。広くなぎ払われた麦畑があり、それを見つめる人影があった。


 僕は思わず「へぇ」と呟きをもらす。


 頼りなさそうの他にも、いくつかうわさを聞いていた。その競争相手は、若い女の人で。しかも、かなり可愛いらしいとのことで。


 どうにも本当にそうみたいだね。


 冒険者らしい旅装束に身を包んだ女の人だった。年の頃は僕よりも三つ、四つ下かな? 多分まだ十代っぽい。幼さを残しながらも鋭めの端正な顔つきをしていて。赤っぽい金髪のショートカットなんだけど、それが盆地の風に揺られて華やかで。


 まぁ、可愛いよね。だからこそ、僕は警戒を強くするんだけど。ハニートラップとかさ。ゲイルのパーティーの副長格として、僕も色々あったからねぇ。おかげで、一目惚れに縁のない人生を歩むことになったぐらいで。


 しかしまぁ、村長さんは覇気が無いみたいなことを言ってたけど、確かにね。麦畑を見つめる目には、そこまで熱意のようなものは見られなくて。それどころか、心ここにあらずみたいな雰囲気だけど……うん?


 僕は思わず首をひねった。なんかね、見覚えがあると言うか。面と向かって話したことは間違いなく無い。でも、すれ違った程度の面識でも無くて、どこかで会ったことはあるような。


 僕が首をひねる内に、見覚えのある向こうさんはこちらに気づいたらしい。


 切れ長の目を僕に向けてきて。なんか一瞬表情がこわばったかな? そして、僕に軽く頭を下げてきた。


 お久しぶりです、って。


 まだ距離があるからはっきりとは聞こえなかったけど、そう彼女は口にしたような。


 えーと、やっぱり知り合いっぽい? 僕は不思議に思いながら、クレシャとイブを連れて彼女に近づいた。


「えー、こんにちは。あの、どこかでお会いしたことが?」


 尋ねかけると、彼女は少し寂しそうな表情を見せた。


「やっぱり覚えてないですよね。私、アマルテ夫妻のパーティーに所属していたんですけど」


 少し低めの(つや)のある声音で彼女はそう告げてきたけど、うん? アマルテ夫妻のパーティー?


 なにそれ? とは、ならなかった。あぁっ! と、僕は思わず手を叩くことになる。


「アマルテ夫妻のっ! 思い出したっ! 君、あそこの魔術士かっ!」


 彼女は少しばかり嬉しそうにほほ笑みをみせてきた。


「はい。魔術士のエイナです。覚えていてくれたんですね」


「あー、そうだそうだった。君、いっつもあの夫妻の後ろにいたっけか」


 アマルテ夫妻のパーティーは僕がそれなりに縁のあった冒険者パーティーだ。なるほど、だから見覚えがあったわけか。


 エイナさんは引き続きの笑顔で頷いた。


「そうです、その後ろにいた一人です。しかし、カリスさんは何故ここへ? 依頼ですか?」


「うん。そうなるね」


「そうでしたか。まぁ、それはそうですよね」


「あはは。そりゃね、冒険者が故郷でも無い村に出向くってことは大概(たいがい)ね」


 穏やかな世間話って感じだった。


 ただ……うん。雰囲気とは裏腹に、僕はエイナさんへの疑念を深めたりしていて。


 この子、全然気にしてこないよなぁ。


 僕は気になるんだけどさ。


 エイナさんについてだ。なんで、パーティー所属の魔術士が1人で、しかもゲイルが妨害をかけている依頼をわざわざ引き受けているのか? それが非常に気になるところだけど。


 エイナさんは、僕については気にしていないみたいだよね。僕が追放されたことを知らないのなら、1人で何を? ってなるだろうし。知っているのならば、アレ本当ですか? ってなると思うんだけど。


 よほど僕に興味が無いのか。それともあるいは……その辺りの事情は、すでに関係者から十分に聞かされていたか。つまるところ、ゲイルたちと深く通じているのか。


 もちろん結論を出すには時期尚早。僕がまだエイナさんの事情について尋ねていないように、エイナさんもこれから尋ねてくるかもしれないし。


 ただ、なんか嫌な予感がしてきたなぁ……って、ふむ?


 エイナさんは僕の足元を見ていた。そこには静かにたたずむクレシャと、エイナさんを興味津々で見上げるイブがいるわけなんだけど。


「……その子、ドラゴンですよね?」


 淡々とした疑問の声だった。


 色々と疑念はあったけど、僕はとりあえず愛想良く頷いてみせた。



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