第4話:冒険者ギルド(2)
「あらま、可愛らしい。でも、本当この子は何? ドラゴンってこんなだっけ?」
イブの頭を撫でてやりながらのイライザだった。そんな疑問を投げかけてきたけど、そんなことを聞かれてもっていうのが僕の実際だった。
「さぁ? 風聞に聞くドラゴンとはちょっと違う気はするけど」
「大分違うでしょ。なんなの? もしかして、前線都市の人造魔性だとか、そういう?」
「んな、アホな」
「じゃあ、アンタがスキル持ち? ドラゴンテイマー? 貴族のお身分に心当たりの方は?」
「あるわけ無いでしょ。そんなことよりも本題を頼むよ。金がいるんだ。なんか良い依頼はないかな?」
僕の尋ねかけに、イブを撫でる手を止め、難しい顔をするイライザだった。
「前にも話したけど、今の依頼は全部条件付きよ? カリス以外を望むって。アイツが圧力をかけてるし、アイツに依頼主がにらまれたら可哀想だからね。なかなか、アンタに依頼を回すっていうのは難しいんだけど」
「まぁ、そうらしいけど。なんか無いかな? こう例外的な何かとか?」
「例外ねぇ? そんなの……あ」
心当たりの有りそうなイライザだった。僕が注視する中、イライザは「あぁ」と大きく頷いて。
「あった。アンタにぴったりのがあるって、控えておいたんだった」
イライザは仕事机に手を伸ばし、そこから走り書きののたうったメモ用紙を手に取る。
僕は思わず前のめりになって、文面を覗き込む。
「……カシャス。依頼の主体はあの村か」
よく見知った村だったのだ。何度も依頼を受けて、何度もあの村には足を運んだことがあった。
イライザは僕に応じて頷きを見せる。
「そう、カシャス。あの裕福な村ね。魔獣らしき獣が村の近辺をうろついて、農作物にけっこうな被害が出てるみたいだから」
「それが依頼ってことか。でも、何でこれが僕向けなわけ? あの村からの依頼は、いつもゲイルのパーティーなり、傘下にある二次パーティーなりが請け負ってきただろ? 今回は違うの?」
「それがね、受けなかったらしいのよ、アイツら」
「え、何で? アイツらにとっても、あの村は上客だろ?」
「そのはずなんだけどね。引き受けていたはずの依頼を急に断ったらしいのよ。で、周囲にもあの村の依頼は受けるなって触れて回ってるみたい。ゲイルににらまれたくないから、ゲイルと関係の無いパーティーも引き受けられなくなってる感じね」
「あ、アイツそんなことしてんの? ひどいことするなぁ、本当」
「まったくね。でも、アンタにとっては悪くない話でしょ?」
ここまで聞いてなるほどだった。僕にぴったりってそういうことか。
「すでにゲイルににらまれてるなら、僕に依頼をしてにらまれるって怯える必要も少ないわけか?」
「そういうこと。どうする? よっぽど困ってるみたいで、報酬はかなり良いわよ?」
僕は腕組みすることになった。
こうして聞く限りだと素晴らしいことこの上ないけど。依頼がもらえて、その報酬も良いらしくて。でも……ねぇ? ゲイルに追放されて、僕はそれなりに疑い深くなっていて。
「イライザ。この依頼をさ、いつゲイルたちが断ったかって分かる?」
「話に聞く限りじゃ、2日前ね」
僕はしかめ面だった。2日前か。先日僕を襲ってきたレニーが、最短でゲイルの根城に向かったとしたら4日前ぐらいには戻れるか? だとしたら、うーむ。時系列的には十分有り得そうだよなぁ。
「もしかして、罠かもって疑ってる?」
イライザの問いかけに僕はすかさず頷いた。
向こうはおそらく、今の僕の動向つかめていないだろうしね。レニーの報告を聞いたら、あのバカゲイルのことだ。ドラゴン連れて復讐しようとしてるなんて邪推して、今度こそ僕を殺しにくるだろう。
そのために策を弄してきたんじゃないかってことだ。
僕が手元不如意なことを見込して、僕が喜んで引き受けそうな依頼を用意したって、そんな風に思えて仕方なくて。
その懸念はイライザも理解するところのようで。彼女も腕組みのしかめ面だった。
「確かにねぇ。タイミングが良すぎるか。でも、どうするの? 依頼を受けない選択肢ってアンタにある?」
そこはまた難しいところだった。そこだよなぁ。現状ほぼ無一文で。よその地域に向かうどころか、明日、明後日の食事すら大分怪しいものがあって。
「罠にはめられるにしても今がチャンスかもよ? ゲイルのヤツ、傘下の二次パーティーを引き連れて魔性の討伐に出向くらしいから」
「あ、そうなの?」
「そう。だから、少なくともゲイル当人の介入は無いし、状況としては悪くないんじゃ?」
それを聞くと悪くない気がしてくるのだった。アイツ、強いもんなぁ。ミノタウロスやトロールと、サシで完勝出来るぐらいには強い。
そして、メンバーを率いさせるとヤバイ。あのクズはあれで組織戦闘の達人だし。その指揮は停滞を知らず、また極めて適切であって。二流の冒険者パーティーであっても、アイツに指揮をさせれば一流半ぐらいの活躍をさせることが出来るぐらいなのだ。
「アイツがいないんだったら……いいかもなぁ。でも、あの村の連中もグルだったら?」
「その可能性は否定しないけど、あの村の連中は信頼出来ない?」
「いや、そこはむしろ逆だけど」
「だったら、やりなさいな。もしダメだったら、私がアンタをヒモとして養ってやるから」
「ははは。それはありがたいな」
笑いを収め、僕はアゴをさすって一つ唸り。
次いで、クレシャとその尻尾でたわむれるイブを見つめる。こいつらためにも、この地域はさっさと後にしたいところだし。
ここは期待して飛び込んでみるべきかねぇ。




