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第2話:クレシャとイブと僕と

 クレシャを取り戻した。


 結果としてはそうなった。ただ、僕としてはいくつか気になるところがあるわけで。


 森に続く道のワキに寄ってである。僕はしゃがみこんで、クレシャの体の検分を続けていた。


 鼻先から、尾の先まで一応全部確認して。結果、僕は大きく首をかしげることになった。


「怪我……ねぇ?」


 レニーの話だと、大きな怪我をしたから、それを契機に捨てたって話だったけど。怪我? 一応あることにはあった。頭にちょっとした切り傷の跡があって、多少血は出たかもしれない。ただ、もちろん大きなだなんて形容出来る代物では無いはずだけど。


 ふーむ、と。


 僕はクレシャの賢い顔つきを見つめることになる。


「もしかしてだけどさ。大怪我のふりをしてたとかある?」


 ゲイルたちから安全に逃れるために。


 わずかな怪我をもって大怪我と見せかけ、向こうからお役御免とさせるように仕向けたとか。


 そして僕がそれを聞きつけ、迎えに来るだろうことを予測して、この森でずっと待ち続けていたとか。


 まぁ、無いとは思うけどね。そんなの魔獣の思考じゃないし。


 ともあれ、良かった。


 クレシャが無事に戻ってきてくれて。


 僕は思わず笑みを浮かべながら、クレシャの頭に手を伸ばす。なでてやる。本当に良かった。クレシャの目つきも、僕との再会を喜んでくれているようで本当に。


 なんて思っているとだった。


 ズボリ、と。


 僕の懐に、犬っぽいトカゲ頭が生えてきた。無論のことイブだ。イブは無表情に僕の顔をじっと見つめてきて。


「……よーしよし」


 とりあえず撫でてやる。コイツが何を求めているかなんかはもうね、何となく分かるのだ。クレシャが撫でられてるなら私もなんて、そんな安直な考えで懐に忍び込んできたに違いなく。


 そうして気持ちやすそうに撫でられるイブを、クレシャは淡々と見つめているけど、あぁ、そうだ。これもさ、一つ良い事だったよな。


 魔犬とドラゴンは、割と狩るか狩られるかの関係なんだけど。クレシャとイブは喧嘩し始めることも無く、こんな感じでいてくれたのだ。


 なんだろうね? クレシャはあれかな。僕をリーダーとする群れの中に、何か変なのが入ってきたって受け入れてくれたのかもしれない。イブはまぁ、うん。分からん。ドラゴンは本来群れないものだし。人間に懐くこともおかしければ、魔犬を前にして平然としているのもね。本能はどうした? って、そんな疑問しか湧かないし。


 真相はさっぱりだったが、そんなことはどうでもいいか。


 多少痩せていても、クレシャは元気で。その上で、新入りのイブともそれなりに仲良くしてくれそうで。


 もはやゲイルのことなんてどうでも良かった。


 この二体とこれからをどう過ごそうかなんて、そんなことを考えて僕は思わず笑顔になるけど……あぁっと。そうだ。それだ。そこが問題だったか。それをどう実現させるかが大問題で。


「クレシャ」


 呼びかけに耳をそばだてたクレシャの首を、僕はべたりと抱きしめる。うーん、相変わらずの毛並み。めちゃくちゃ気持ちいい。


 悩み事があるとだった。僕はよくこうしてクレシャの毛並みに甘えていたけど。あぁ、癒やされるなぁ。こうしていると、心労が何とも癒やされる感じで。


「……ん?」


 癒やされていた僕だけど、懐に潜り込もうとしてくる圧力に意識を奪われた。そりゃそうかって感じでイブだった。僕とイブの間に割って入りたいようで、頭をグイグイ突っ込んできていて。


「……はい」


 隙間を空けてやる。イブはやはりそのつもりだったらしい。僕とクレシャの間に、強引に身を収めてきて。


 一応、イブごと抱きしめてみる。痛い。ウロコが刺さって全然気持ちよく無い。それはクレシャも同じなのか、心なしか嫌そうな顔をしているような。


 本人は幸せそうだけど、僕には憂鬱な気持ちが戻ってくるのだった。当面の問題もまた、僕の脳裏によみがえってくることになり。


「はぁ。お金だよなぁ」


 世知辛いことこの上無いけど。


 それが僕の前に横たわる一番重要な問題だった。


 クレシャも奪還出来たことだし、とっととゲイルの影響圏からトンズラしたいところだったけど。本当、お金だよ、お金。無いんだよなぁ。で、そのことがあって、今後がなんともかんとも。


 ゲイルの影響下から脱するために、よその土地に向かうとしてだ。近場でもどうだ? 難所もあれば、5日もかかるだろうか。そこまでの一人と二体分の食費もろもろの経費だけど、無いよ。そんなお金はさっぱり無い。


 薬草取りに精を出してきたけど、当然蓄えなんてさっぱり無くて。物質的な蓄えも無い。宿場町で仕入れた食料類も、ここまでの道中でほとんど消費してしまっていた。


 よその土地にたどり着く前に、一人と二体をしてあえなく飢え死ぬ。そんな未来すら想像出来る上に、そこから先もなぁ。よそに着けたとして、仕事を見つけてこなし報酬を得るにのにもそれなりの時間がかかるだろうから。むしろ、ここに時間がかかるか? 魔物の討伐にしろ、捕物にしろ警備にしろ。2日、3日でこなせる仕事は無いだろうし。


 旅路の旅費と、よその土地での当面の活動資金。何とかお金を稼ぐ必要があった。薬草取りはもうダメだ。すでにゲイルに知られてしまっているようだし、依頼主に迷惑がかかる。そもそもとして、一人と二体を養えるような稼ぎには到底ならないし。


 では、どうするか?


 その答えが僕には無くて。イブのうろこの感触を味わいながらに考えるのだが、やはり妙案は浮かばず。


 僕はイブの頭にため息をぶつけてやるのだった。


「はぁ。ひとまずギルドかねぇ?」


 ゲイルに追放されてから一度訪れていて、その時には良い結果は生まれなかったけど。それでも、あそこには古馴染みがいるし。ここから近場でもあれば、窮地の僕が訪れるにはちょうど良い場所かな、うん。



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