第1話:クレシャの森へ
一刻も早くクレシャを奪還したい。
そう願った僕は、イブの助けを得て、レニーからクレシャの居場所を聞き出すことに成功して。
そして僕は早速その地を訪れたのだった。
「…………」
で、思わずしかめ面で黙り込んだりしていた。
森だった。
まだ道の先、遠くに見える程度だけど、そこにはこんもりとして森が広がっていて。それを僕は立ち止まり、腕組み眺めたりしているのだ。
どうやら、あそこらしく。
レニーが言うには、あの森の深くにクレシャは捨てられたようで。
いよいよと奮い立つものは確かにあった。だが、同時に暗い思いも僕は確かに抱いてしまっていて。
深いな、アレは。
そんな懸念だった。深い森だよなぁ。僕はあの森を歩いた経験は無い。そんな森を、未踏の身で案内も無く進まなければならないのだ。しかも、クレシャを傷つけるほどの魔物がいるということもあり。
楽な道のりは望めるはずも無い。ゲイル一派からの妨害を恐れて、ここまでかなり急いできたこともあれば、体力も心もとないし。
それでも僕は行くしかないんだけど。
ゲイルはクレシャを捨てることを了承したというが、それはクレシャが万が一にも僕の元には戻らないという確信があってのことだろう。
怪我をしているというが、それはどれほどのものなのか。不安しか無ければ、一刻も早く救出に向かう必要がある。
「……よし。行こうか、イブ」
僕はかたわらに立つ相棒の名を呼んだ。
幸いなことに僕は一人じゃないのだ。レニーを撃退するのに大いに貢献してくれた子ドラゴンが僕についてくれている。
まぁ、前回助けてくれたからといって、次がどうなるかは分からないけど。人に懐かないはずのドラゴンであって、僕からのご褒美にもすぐに関心を失ってしまうかもしれないし。
でも、うん。疑っても仕方ないし。きっと力になってくれると、ここは信じるのが一番だろうけど……って、んん?
僕はマジマジとイブを見つめるのだった。
「あー、君? 一体どうしたの?」
問いかけてしまうような様子だったのだ。
イブは何故かだった。その長い首ぐぐっと伸ばしていた。道の先、森の方向を気にしているようで。
もしかして、何か来てる?
ドラゴンの知覚が接近する何かを捉えているのだろうか? 魔獣か人か。まさかゲイルの一派なんてことも?
警戒しながらイブの真似事をすることしばし。首が疲れる前に、状況は変化した。
視界に映るものがあったのだ。
それは妙に速くて、こちらになかなかの勢いで向かってきていた。警戒しながらに観察を続ける。魔獣だろうか? いや、魔犬? 体高はそこまでで、四肢で軽やかに地面を蹴ってるけど……え?
「あれ?」
不思議の呟きを上げてしまう。
どう見てもである。見慣れた姿だった。見慣れた優美な体躯に、つややかな背中の青毛。賢そうな目つきをしたその魔犬はまさしく、
「く、クレシャっ!?」
接近まではあっという間だった。クレシャと思わしき魔犬は、急に減速すると僕の少し前でちょこんと犬座りをして。
じっと見つめてきて、僕の指示を待っているって感じだった。間違いない。指示が無ければ、飼い主に近づくことすらためらうこの従順さ。クレシャだ。この性質は間違いなく、クレシャのもので間違いない。
「クレシャ……おいで?」
呼びかけてようやくだった。
僕の目の前まで近寄ってきて、僕を見上げてきて。
僕はしゃがみこんだ。
クレシャと視線を合わせて、思わずその頭に手を伸ばして。
「おかえり、クレシャ」
頭を撫でる。
クレシャは澄まして、何でもないように撫でられていた。ただ、その尻尾はパタリパタリと控えめにだが地面をはたき続けていた。




