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04.ヒーローと覚醒

 思鬼に丸呑みされた赤城はそのまま胃袋の中まで落ちていた。胃袋らしきその中は表の思鬼の皮膚同様赤黒く、胃液はまるで血のようにドロドロしている。


「.....っぐはっ!」


 赤城はなんとかその胃液で溺れないようにもがく。周囲は血生臭い匂いで満ちており、赤城はしかめ面をしながらなんとか脱出出来ないか試みる。だが、ヌルヌルとした胃袋の中では這い上がることもできない。そして自分の身体から煙が出ていることに気付いた赤城はこの血のような胃液によって少しずつ身体が溶かされていることを理解した。


「...ここまでか」


 赤城はもがくのをやめ、さらに体の奥に流れていく胃液に身を任せた。


 そうだ、所詮俺なんかにヒーローは無理だったんだ。こんな怪物も倒せるわけがない。でも...


「また諦めるのか、俺は..」


 一度は死んだもののヒーローとして蘇ったこの命。確かに七日間しか生きられないが、それでも結局その七日間も過ごせず再び途絶えてしまうのか。なあ、じゃあなんで俺はあの時、鉄骨に潰されて死んだ時まだ生きたいって願ったんだ?


 赤城は自分自身に問いかける。


 俺の人生でできることなんてたかが知れてる。それは人間みんなそうだ。毎日寝て、起きて、食って、働いて、そして寝る。こんな人生の繰り返しに意味なんてあるのか。


 …いや、違うな。そうじゃない、そうじゃないだろ、俺。こんな何の意味もない俺の人生に何か一つでも意義を見いだしたくてヒーローとして蘇ったんじゃないのか。たった七日間でも何か成したいと思って蘇ったはずなのに、こんなところでまた死んでいいはずがない。28年間、何も成すことができなかった俺だが、せめてこの七日間だけは精一杯生きてみろよ!


 赤城の気持ちに応じてか、両手にはめてある指輪が輝き始めたことを赤城は気がつかない。そして、いよいよ胃液の流れが激しくなっていき、上からも胃液の雨が降り始める。赤城の鎧は殆ど溶けてしまい、仮面も半分溶けてなくなった。だがそこから顔をのぞかせる赤城の目は決して死んでなどいなかった。赤城は再び胃液の中であらがい始め、そして拳を頭上に上げる。突如、指輪から発する光が再び赤城を包み始めた。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「うわあ!」


「きゃあああ!」


 その頃、町は大騒ぎになっていた。まだ昼下がりのオフィス街とはいえ多少は人が行き交う中、赤城の前に現れた思鬼は堂々と路地を進んでいた。


「はァあ。活きがイイのが歩イてるワぁ。」

「ねエ、あの男なンていイんじゃなイかしラ?」


 無数の口からこぼれる台詞はどれも甘ったるい女性の声で、その醜い姿を見なければ色っぽい女性が近くにいると錯覚してしまうだろう。だが現実は化け物であり、道で男を見つけては容赦なく食らっていく。すでにいくつかの口の中に新たな男の足や手が入っており、それもおいしそうにしゃぶられていた。


「ねェ、あの人ハどウかな?」

「メガネの人はアまり好きじャ無いわぁ」

「でも良イ会社二勤めてそウじゃなイ?」

「年収高イのもイイわぁ」

「身体の方ハどウなのカしらァ」


 無数の口から無数の台詞を吐き、思鬼は道を歩いている男性をめがけて急接近する。男性はその姿に怯え、腰を抜かしてしまったのか地面に座り込んだまま一歩も動けずにいた。


「ひっ...」


目の前まで来たその化け物に対し、男性は何も出来ずただ恐怖の顔をあらわにする。思鬼は目が無いのにもかかわらず、その顔をまじまじと見て、よだれを垂らす。


「アァア!いイわぁ!恐怖ノ顔!香リ!」

「体つキも良さそウじゃなァイ。食べ頃ダわ。」

「ねェ、もウいたダきましョうよ!私我慢でキなイわ!」


 そう言って思鬼は無数の口を大きく開き、しゃがみ込む男性を食べようとした。男性も恐怖のあまりただ目をつぶっているしか無かった。いつになったらこの恐怖が終わるか、いつになったら死ぬのかと男性は目をつぶりそんなことを考えていたが、いつまで経ってもその死が訪れない。そして男性がおそるおそる目を開けるとその怪物は口を開けたまま動きを止めていた。が、怪物は急に苦しそうにえずき始めた。


「ッッガぁ!」

「くルじィ..」

「痛イよォ」


 怪物は地面を這うようにもがき、右往左往する。男性はその隙を見計らって逃走を図るが。


「ッ逃がすかァ!」

「私ノ獲物ォ!」


 その思鬼は苦しみながらも男性を追おうとする。しかし次の瞬間、思鬼の口の中から人の手、らしき物が出てきた。最初は片手、そして次にもう片手と口の中から這い上がる者の姿が見えてくる。


「オまエはぁ!さっキ食べタはずなノに!」


 そしてそれは完全に口の中から這い出て地面の上に降り立った。


 赤城の姿は以前のねずみ色の鎧とは全く違った姿になっていた。鎧の形は変わっており、色も白く、そして所々が赤く変色していた。仮面の形も変わり、全身が以前より無駄が無くスマートになっていた。


「オまエは食イちぎル!」


 思鬼は再び勢いをつけて赤城に向かって突進していく。赤城は逃げも避けもせず思鬼の突進をもろに受けてしまったが、一歩も後ろに下がらず、それどころか細身な姿にもかかわらず突進してきた勢いを使って思鬼を持ち上げ、そのまま宙に投げてしまった。


 思鬼は放物線を描きながらとある工事現場へと落下した。そこは開発途中で工事が止まっており、赤城もそれを承知でこれ以上誰にも見られないようにそこへ投げ入れた。


「痛イ」

「痛イよォ」

「あイつ、殺ス!」


 思鬼は無数の口で赤城に対して罵詈雑言を吐く。しかしそこへジャンプで飛んできた赤城がやってくる。


「俺をどうするって?」


 赤城は同じ工事現場に降り立った後、今度は逆に思鬼の方へ距離を詰め、そして拳で思鬼を殴りつける。それは先ほどの戦いとはまるで逆で終始赤城の一方的な攻撃だった。


「うぅ...」


 思鬼が弱ったところを見計らい、赤城は攻撃の手を緩め思鬼へ語りかける。


「何人だ。何人食べたんだ?」


 思鬼がこの質問を理解しているのか怪しい。だが赤城はこの思鬼が返事をするまでまった。そしてしばらくすると思鬼はその大きな口で白い歯を剥き出しにして満面の笑みを作り言った。


「みンな美味シかったァ」


 赤城はその言葉を聞くや否や思鬼の身体を片手で持ち上げ、真上へ投げる。思鬼は上昇し、そしてそのまま赤城の真上へ落下していく。


「これ、お返しな」


 そう言って赤城は落ちてくる思鬼の口を両手でつかみ、そのまま腕の力だけで身体を左右に引きちぎってしまった。


 ちょうど半分に裂かれた思鬼の身体から大量の血しぶきが噴き出し、夕暮れの空を赤黒く染めてしまった。雨のような血しぶきが赤城を覆う中、セブンは遠くから一部始終を見届けていた。


『ハズレか。』


 ただその一言を残してセブンはどこかへと消えてしまった。そしてこれがヒーロー、赤城にとっての初陣となった。


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