第一話
この作品を手に追っていただきありがとうございます。
多々至らない点があると思いますが、楽しんでいただければ幸いです。
この森が穏やかだと思って探索していた二時間前の俺を叱ってやりたい。いくら魔物を倒せる技量があったとしても、こいつは倒せそうにない。
「話が通じればよかったが、現実はそこまで上手くいかないか。テンプレ乙の展開が欲しかったよ。」
そよ風程度で、雲もあまりなく、お昼寝にはもってこいな穏やかな草原に似つかわしくない黒い鱗の竜がそこに立っていた。
そいつは得意気に口を開き、見慣れない魔方陣を浮かび上がらせた。こんな場面じゃなければそのエメラルド色に光る三重構造の魔方陣に見惚れていたのだろうけど、目の前に集められた黒い炎の熱気がそれを許してくれなかった。
「こんなやつに棒切れ一本でどうしろと‼」
なげやりに叫んだ俺の頭の片隅には今までの思い出がよみがえってくる。まだ諦めたくはないが、ここまでか。
大学3年でそろそろ就活しなければいけない時期、現実逃避をしたくなった俺は夏休みを使って、ある山奥の廃工場に来ていた。
非日常に憧れて、調度ネットで興味を持った場所に思いきって訪れたのだ。外見は植物におおわれ、錆びた鉄筋がむき出しになっている。工場の原形はとどめておらず、何百年前のものだろうかと思わせるほど古くなっている様だった。
建物の中は何かの科学工場なのか、珍しい医療機具やパソコン、検査機器がまだ植物に埋もれながらも存在感を放っていた。
外からみたよりも中は要り組んでおり、階層も多い。これは骨が折れるなと思いながらも、探索すべく受け付け所だと思わしき場所で案内板をみていた。
どうやら地上5階から地下4階まであるようだ。
「こういうのには地下にロマンが広がっているものだ。」
まずは地下一階からみてみよう。
地下は地上から見たら分からなかったが、どうやら中心が吹き抜けになっており、中央には巨大な何かを入れるためのガラスケースがあった。部屋はそれを中心に楕円形に広がっており、左右それぞれに四つづつ階段があった。
部屋は用途がわからないが、パソコンや測定器が置かれている部屋の隣にガラス張りの小部屋がいくつか広がっていた。どこも似たような構造だ。
「いかにもって感じの作りだけど、何を実験していたのだろうか?」
そうして資料や面白そうな物語が見付かる訳もなく、地下一階の探索が終った。
「さて、次は地下二階か、みた感じ同じに様な作りにも見えるな」
無駄な独り言を言いながら地下二階に続く階段に向かう。
階段は近くで見るとエスカレーターの様な形をしていた。エスカレーターがあるのは当たり前だが、こんなに古くなるまでにあったのだろうか?
疑問に思いながらも降りていくと、古くなっていたのか途端に端から崩れ始めたので急いで降りた。
「助かった、、、迂闊な行動はするものじゃないな。しかし、帰りはきちんと登れるのだろうか?」
そうとう古いのか、崩れた階段はいたるところに溝が入っていた。多分ヒビだろう。
何気なしに見ているとふと気になるものをみつけた。
「なんだこれは?宝石に見えるけど、加工はされていない様だし、高く売れそうだな」
緑色に光るガラスだまの様な石は手のひらに乗るほどの大きさで、いびつな形をしていた。しかし、見た目より軽い。
不思議な石をポケットに入れながら地下二階を探索してみた。
しかし、先程同様、何も無さそうだ。
これは他も同じかなとなに気なしに吹き抜けの下を見てみると、床が崩れ落ちている一画を見つけた。どうやら案内板になかった隠された階層があるようだ。
これ以上下に潜るのは危険だと言う思いと、それでも何があるか知りたいという探究心がせめぎあっている。
まぁ、胸を張れないが、欲望に勝てるほど強い人間ではない。結局地下四階まで降りていった。
地下四階の中心地、巨大なガラス張りの箱がある真下に来た。
「相変わらずばかでかいな。一体なにが入っていたのか、落ちているのは鳥の羽の様な物だけど、、、」
初めは水槽かと思ったが、どうやら違う様だ。中は白い羽で満たされていた。何とも不気味な光景だ。
「まさか、神話上の生物コカトリスが入っていたとか?」
なんてバカな事を考えながらその近くにある机に何かないか探していた。
目に止まったのはひとつの紙切れだった。どうやら本から破りとったらしい。
劣化が激しく、殆ど読めたものではないが、文字にもみえる記号の羅列と所々に日本語文が書いてあった。
『無事、、、また戻ってきた、、、、、しかし、、、、することはできず、、、計画は、、、、、幸いこの、、、、がまた導くであろう。また同じ繰返しになるが、、、、、のためにゲートをつなぐ』
「一体なんのことだ?ゲートから戻ってきたってことだよな?この施設は日本のものではないのか?」
とにかく情報が必要だ。そう考え、他にも見える入り口に入っていく。暫く迷路のような施設を探索して数時間、おれはここの主任の部屋であろう他とは違う雰囲気の場所を見つけた。それまでに通った所は食堂、居住区、教育施設のような場所、広い空間の部屋などなどだ。ここの研究員が私生活の為に使っていた場所であろう。それならばこの部屋にも私物があるはずだ。出来ればあの紙切れの持ち主であってほしい。
ここまで来る途中にも幾つか情報になりうる物はあったが、解読が出来ない物ばかりだった。
「ここになければあとはお手上げだな」
何か見つかることを期待して部屋の中に入っていった。
主任の部屋であろうその場所は他と同じく、生活品の類いは殆どなくなっていた。しかし、妙なのは部屋全体が他と比べて少し綺麗なことだった。床は勿論埃や何処からか入り込んだ枯れ葉が散らばっており、一見するといままで見てきた部屋と変わらず荒れ果ててはいた。家具だけは。壁や天井に劣化のあとが見られないのは何とも言えない不気味さを感じる。
それでも臆すことなく探索を続けた。暫く周辺を漁っているなかで俺は机の下に隠されるように引き出しが取り付けられているのを見つけた。引き出しに鍵穴があり、開けられるか不安だったが、時間がたっていたためか、すんなりと開けられた。
引き出しの中には一冊の灰色の本が入っていた。これも先程の紙切れと同様知らない記号の羅列と日本語文章が所々ちりばめられた書き方だった。
【、、、、旅行記 第、、】
全ては読めないがそう書いてあった。中身が手書きであったため、日記ではないかと思う。暫くめくっていき、比較的読めそうなページを見つけた。
「ここで生活をして何年目だろうか、始めにここに来たことを懐かしく感じる。思えば最初に考えた漠然とした目標をいま叶える事が出来るのだ。これからの研究を楽しみに思う。」
どうやらここの主任は自分の最大の夢を実現するつもりだったみたいだ。夢も目標もない俺からすればとても羨ましい話だ。
日記を閉じ、再び辺りを見回す。もうこれぐらいだろう。他の部屋に行くとしよう。ここの主任だった人物の夢が無事に叶ったと願いたい。この惨状を見るにあまり信じられないが。
部屋を出ていこうと思った時に、メモ紙が床に落ちていたのをみつけた。日記を読んでいたときに落ちたものだろうか?そのメモは日本語で慌ただしくかかれていた。
「なになに?『隠し扉の暗号:夜がもたらす繰り返された夢』?なんだこの中二病じみた暗号は」
馬鹿らしいと思うと共に何処かに隠し部屋があると分かり、期待する自分がいた。仕方ない。ゲーマーの性として隠し要素は捨て置けない。
再びこの部屋を出ようとした瞬間、大きな地響きが起きた。
「地震!?早くここから出なければ」
避難したいのを知ってか知らずかここから逃がすまいと更に地響きが大きくなっていき、周りの建材が崩れ始めた。既に出口は廊下の天井により塞がれ、簡単に出れない状況となっていた。
「ああ、どうしょう!こんなとこ好奇心で入らなければよかった!」
後悔ももう遅く、地響きは更に激しくなり、周りの家具なども耐えられず崩れていった。
叫びたくても、この場から逃げたくても恐怖に全身が支配され、思うように動かない。次第に床や壁に接している身体からは感覚がなくなり、自分の状況が分からなくなる。視界も狭まていく。
持ってきた懐中電灯は先程の衝撃で落としてしまった。うっすらと光が見えるから壊れてはいないと思うがもう取りには行けないだろう。
いよいよ不安と恐怖が際骨頂に達し、揺れている事すら分からなくなっていた瞬間、体がふと軽くなったのを感じた。
浮遊しているのか?だとしたら助かった。そう思い、安堵した瞬間、それが間違えだと気がついた。うっすらとみえるが、周りの瓦礫が重力を無視して方々に散っているのが見えた。これを俺はゲームで知っている。落下している場面だ。いやに冷静な頭でそれを全て理解した俺は今度こそ気を失った。まだ手を着けていないゲームやアニメに思いを馳せながら。
地響きが収まり、当たりが野原だけになってしまった場所に再び静寂と平穏が訪れる。木々が生い茂り、動物達が今日を一生懸命生きている。まるで、いつもの日常が最初からそこにあったかのように違和感なく溶けていく。
ただそこに一際場違いな手紙が落ちていた。
『私達は最大の間違いをしてしまった。それを治すことも戻すことも世界が許してくれない。願わくば、これを託せる人が狂わせてしまった世界から現れる事を期待して。』
ただ、その手紙すらも自然の中に溶けだし、最初からそこになかった様に振る舞う。今日も世界は平和であると言い聞かせながら。
初投稿の作品を読んでいただきありがとうございます。
皆様の反応次第でどうなるかわかりませんが、自分のペースで投稿を続けていきたいなと思います。
皆様ごゆるりとお付き合いください。
ではまた逢う日まで。