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八、赤い糸

展開が早い気がします。

渚と樹利は尾行をしていた部下にやっと会うことができた。

「あれは高千穂様ですね」

「ああ」

渚と樹利は菜月に方に歩き出したが、菜月の隣を歩いている男の姿を見ると足を止めた。

二人とも地味な服装をしているが、美貌の二人が並んだら人の目を集めてしまうのはしかたのないことだ。

そのざわめきを菜月が何事かと思って振り返ると渚と樹利がいた。

「あっ」

「どうした?ああ、あれがあんたが言ってた奴か」

菜月はうなずいた。

「あの、悪いんだけど」

「気にするな。どうせ一人で行く予定だったんだ」

「ごめんなさい。今日はありがとう」

菜月は渚の方へゆっくりと歩いていった。

「渚様」

樹利が菜月に気づいて、横にいるはずの渚に伝えようと思ったときには渚は動いていた。

渚は菜月がこちらに気づいて向かってきてくれることも嬉しかったが、もっと嬉しいのは、男と一緒ではなく一人でこちらに歩いてきてくれていることだった。

「渚」

「菜月」

二人は同時に相手の名前を呼んだ。

先ほど、渚と樹利の美貌を見ていた人達は、次はこの綺麗すぎる恋人に釘づけになっていた。

二人はそんなことは知らずに(気にせずに)少し顔を赤くした。

「渚が先にどうぞ」

「それなら、一旦城に戻らないか」

「分かった」

二人は並んで(樹利は二人の後について)王城に戻った。

もう一度応接室に入り、椅子に座ると渚が「話の続きだ」っといって切り出した。

「私は『遊び女』とは言ったつもりはない」

「同じようなことは言ったでしょ」

「菜月は婚約者はいらないと言った」

「今はね」

「だから私は二年間は恋人として学生が終わったら婚約者にしようと」

「…」

菜月は心の中で喜んでいる自分がいることに気づいた。

「菜月は恋人=遊び女ということなのか。それとも他に遊び女と言われてるようなところがあったのか?」

菜月は渚がそう思っていたことに驚いた。

「答えろ」

菜月は我に返っていった。

「え…っと。やけに軽いと思ったから」

「何がだ?」

「だって、『私と付き合ってくれない?』って軽すぎるっていうか。私は普通 『お付き合いさせていただけませんか』くらいかと思っていたし、そんなの完璧遊ばれてるなって。 それに王子様だし」

菜月は何回かつっかかりながら言った。

渚は「うっ」っと唸った。

それから真剣な眼差しで言った。

「私と付き合ってくれないだろうか」

菜月は目を見開いた後、

「よろしくお願いします」

と頬を赤くして言った。


翌日。

菜月は一晩王城で泊まり二時間ほど応接室で渚と話していた。

コンコン

「失礼します」

と言って樹利が入ってきた。

「高千穂様、菱川様がお見えです」

「分かりました。すぐ行きます」

菜月が席を立とうとすると渚が言った。

「いや、菱川さんにはこちらに来てもらってくれ」

「かしこまりました」

樹利は侍女を一人呼び、渚の言葉を伝えると渚の後ろに立った。

しばらくして貴子が入ってきた。

「失礼します。二日間、お嬢様がお世話になりました」

「いえ、礼には及びません。なにせ、私が勝手にお招きしたことですから。樹利、そろそろ昼食の時間だ。高千穂様をホールに案内してくれ。 私は少し菱川さんと話してから行く」

「かしこまりました」

菜月が樹利につれられて部屋から出て戸が閉まるのを確認してから渚は口を開いた。

「菱川さんは高千穂様の専属執事ですか?」

「はい」

貴子は渚を前にしても緊張をみせることなく言った。

「あとで、本人から聞くことになると思いますが、私と高千穂様は付き合うことになりました」

「はい」

貴子は想定内のことなので驚かなかった。

「私は婚約者にしたいと思っています。ですが、高千穂様は学生の間は婚約者にはなれないとおっしゃっていたので、今は恋人です」

「分かりました」

貴子は渚が言っていることは

〈恋人ではありますが、私は結婚前程のお付き合いをしている〉

ということだと理解した。

「話は以上です」

渚は席を立ちホールに向かった。


菜月は樹利とホールに行き、席に着くと次々に料理が運ばれてきた。

大きな机一杯に並べられた頃にはホールにいい香りが漂っていたが菜月は渚を待って料理に手をつけなかった。

五分ほど時間が経ち、渚がホールに入ってきた。

渚は菜月の向かいに座った。

「どうして食べないんだ?」

「目上の人よりも先に食べることは無礼です」

人前で話すときは敬語で話すと伝えていたので口調については渚は何も言わなかった。

「そうか」

渚が近くにあったパンを食べた。

「どうぞ」

菜月は料理に手を伸ばした。

「どうしてこんなに料理があるのですか」

「食べきれない分は誰かが食べる」

「誰かですか?」

「私も知らない。今日は樹利と菱川さんにするように言っておく」

「ありがとうございます」

「いや、客人だから当然だ」

二人はしばらく無言で食べて、ホールをあとにした。


食後、二人は庭に出た。

「国王陛下に挨拶しておきたいけれど会える?」

菜月がベンチに腰かけて言った。

「無理だな。今は貴族どうしの争いの仲裁に言ってるから二、三日は帰ってこない。兄上は会わない方がいい」

「そっか、」

「ああ」

素っ気ない返事とは裏腹に、菜月が真剣に自分のことを考えていると知って、知らず知らずのうちに渚の口角は上がっていた。


「王子様、お世話になりました」

菜月と貴子は頭を下げた。

「いえ、こちらこそ。楽しかったです。お礼といってはあれですが、ぜひ受け取ってください」

渚が言うと、樹利が前に出てきた。

樹利から渡されたのは着ていた紫のワンピースと、沢山の刺繍が施してある白いハンカチだった。

「ありがとうございます」

貴子が受け取り二人は歩きだした。

「ちょっと待って」

渚が菜月の腕をつかんだ。

菜月が振り向くと渚と唇が重なった。

「またな」

渚は菜月の耳元で言った。

菜月は初キスで顔が真っ赤になって、貴子に引っ張られるように城をあとにした。


渚は自分の部屋に行き、ソファに座ると「ふぅー」と大きく息を吐いた。

「渚様いかがされましたか」

「いや、なんでもない。…樹利、私は菜月と結婚する」

渚はいきなり宣言した。

「知ってますよ。それにしても高千穂様があそこまでの人だとは思いませんでした。まさか、渚様の告白を渚様の前で『軽い』というとは」

樹利はまた、応接室の隠し部屋で二人の話を聞いていた。

「ああ、それにはぐうの音もでなかったな」

樹利は小さく笑った。

「渚様は高千穂様のどこがお好きなんです?」

「どうしてそんなことを聞く?」

「参考までに」

渚はよく考えてから

「菜月はちゃんと私を見てくれているから、かな」

と、遠い目をしていった。

うん。お二人ともお幸せにって感じデス。


次回もよろしくおねがいします。

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