四、王城
渚の専属執事の登場です。
菜月が王城に着くとこの前とは違い、 門番にすんなり通してもらうことが出来た。
芸術的な庭を通り、 正面口についた。 菜月が扉をノックして少し経つと扉が開いた。
扉の向こう側に立っていたのは黒い背広を着た五十代ぐらいの執事だった。
「おはようございます。 昨日、 王子様にお招きいただいた高千穂菜月と申します。」
「存じ上げております。 では、 お入りください」
菜月は執事に先導されて王城の中に入っていった。 王城の中はとてもきれいで、ひとつひとつのものに繊細な彫刻がなされている。 大勢の召使ともすれ違い全員がせわしなく動いている。
「菜月様、 失礼ですが、 お召し物はいかがさましたか?」
「あっ。 __申し訳ございません。 お忍びで参りましたので、 着替えを持ってきていないのです。 こんなに朝早く来てしまいましたので、 一度街に出て出直して来たいのですが宜しいでしょうか」
「いえ、 それには及びません。 この王城にはお客様用の衣装もご用意しておりますので、 是非ご利用ください。 」
「ですが、 衣装が汚れてしまう可能性もごくありますのでご遠慮させ頂きたいのですが」
「いえ、そのような事をしては王子様に叱られてしまいますので」
使用人が一番懸念しているのが王子の機嫌を損ねてしまうということだと分かり菜月は折れた。
「__分かりました。 」
衣装部屋に案内されると二人の侍女がお辞儀をして待っていた。 菜月は侍女に衣装を選ぶように言われ、 薄紫の袖の長いワンピースを選び、 手早く着替えさせられると応接室に案内された。
応接室は廊下よりも一段と豪華に作られていて、いつも豪華な家 (屋敷) に住んでいる菜月でさえ息をのむ程のものだ。 部屋の中央にあるいすの下座に菜月は座るともう一度部屋を見た。
菜月の正面のいすの奥側にある壁にはリゼイン国のシンボルである獅子の紋章が描かれている。 王家の紋章は王族のみが使うことが許されていろもので紋章に獅子を使えるのも王族に近い貴族のみでそれ以外の貴族は使うことが許されていない。
応接室の照明は見たこともない大きなシャンデリアで、様々な所に職人が精を出して作っただろう彫刻などの細工が施してある。
菜月が座っているいすは二人掛けのいすでクッション材も最高級品を使ったことが座った瞬間に分かるような感じで超お嬢様な菜月が驚くような座り心地だ。
コンコンとノックの音が聞こえた。
入ってきたのはさっきの執事だった。
「高千穂様、 失礼します。 渚王子様は準備に少々お時間がかかるためここでお待ちくださいとのことです。」
「分かりました。 伝えてくださってありがとうございます。」
「いえ、 お気になさらずに。 お口に合うか分かりませんがうちの料理番が作ったマフィンと紅茶でごさいます。」
執事の後ろにいた侍女が菜月の前にある机にマフィンと紅茶を置いて一礼して下がった。
「ありがとうございます。」
「では、失礼します」
執事が部屋を出ていくと菜月はしまったなと思った。 普通は客人が応接室に入った時にはもう紅茶や菓子が出されているのだ。 しかし、今日は菜月が早すぎたので菓子が間にあわなっかったのだろう。 貴さんに聞いたことだが、こういう客人は使用人にとっては迷惑で 『遅刻はまだしも早くに行き過ぎてはいけませんよ』 と言われたのを菜月はいまになって思いだしたのだ。
しかし、そんなことで今さら悩んでもしょうがないと思うと、菜月は焼き立てであろうマフィンに手を伸ばした。
その頃王子は、王子の専属執事である樹利(男)から菜月について髪をセットしながら問い詰められていた。
「渚様は高千穂令嬢を婚約者とするのですか?」
「それは分からない。まだ、落とせていないからな」
「渚様が落とせない女性なんていたのですか」
普通、王子に使う言葉ではないが、樹利は王子にとって特別なのかそれが許される立場にいる。また、それが王子が樹利のことを信用している証でもある。
「それがいたんだな」
王子が苦笑しながら言った。
王子はお見合い相手が決まったら、自分の使用人を2,3人相手のほうにスパイとして観察させるのだ。そうしてまず相手の性格を知ってからお見合いをするようにしている。そうすることで、相手にとって良い印象を残すことができ、相手の家族と良い関係のまま破綻させることができるのだ。もちろん、相手と二人きりになると自分のことをあきらめるように巧みに言葉で誘導する。
だが、菜月のときは全て違った。まず、王子とのお見合いを高千穂令嬢本人が知ったのがお見合い前日だということだけで前代未聞だ。しかも、公爵令嬢というものは大人しく、淑女としての教養が備わっているものだが、自分の部屋ではベットで飛び跳ねたり、寝坊をしたりしている。しかし、学校では『ごきげんよう』とか言って猫かぶり。この報告を使用人から聞いた時には驚いて王子が使用人に問い詰めた程だ。
それに、高千穂令嬢に会った時も驚いた。普通、王子とのお見合いなら豪華な衣装に精一杯の化粧をして少し緊張しながらあうものなのだ。それが、化粧っけゼロ、衣装も白いワンピース。だが、誰もが振り返るほどの美貌の持ち主だった。二人きりになった時に紅茶をかけられたのは大誤算だったが、久しぶりに樹利以外に自分の素を見せた気がした。
「そうですか。ただ、高千穂令嬢は他の家の訪ねる時間帯も知らないのでしょうか?」
「注意しておくか」
王子は怪しい笑みを浮かべた。
「ほどほどにしておいたほうがいいですよ。逃げられてしまいますから」
樹利はあきらめ半分の忠告をした。
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