三、サーパス
リゼイン国の首都サーパスです。
「菜月、 これがどういう事か分かってるの?! 」
菜月は朝食の席で母に怒られていた。
かれこれ2時間はこの状態だ。
「すいません」
「リゼイン国の王子に紅茶をかけるなんて許されないことですわよ」
「申し訳ありません」
「貴方はリゼイン国に行って王子に謝って来なさい。 許してもらえるまで帰って帰ってきてはいけません」
「…はい」
「それなら、早く行きなさい」
という感じで半ば追い出されるように菜月は貴子とリゼイン国の首都サーパスに向った。
「綺麗な街だね」
サーパスに来ていた菜月と貴子だが、 王城に行くと全く相手にしてもらえず、 二週間ほど街で過ごしていた。
「お嬢さま、 今日も王城に行ってみましょうか」
「今日行っても同じと思う。 王子が街中をあるいているところ見つけた方がまだ現実的だと思うけど」
「しかしここにいてもう二週間になります。 そろそろ見つけなければ学校に遅れをとります」
「あー、もうわかりました。 今から行こうか」
ということで、 二人は王城に向かった。
事前に何も王城に言っていない二人はなかなか王城に入ることができなかった。
今回も王城に入ることができず、 サーパスの宿に帰ろうと思ていたところに
…王子が現れた。
「こんにちは」
「あっ、 王子様お久しぶりです」
「庶民の格好なんかして、 どうしましたか?」
「今回は謝りに来ました。 王子様、 先日の紅茶の件は申し訳ありませんでした」
菜月は深々と頭を下げた。
「許されない事だとは思いますが、 許してもらえないでしょうか?」
「いいですよ」
「えっ」
「 許しますから」
「ありがとうございます。 お礼は後日送り届けます。 それでは失礼します」
菜月は嬉しくて小躍りしそうだった。
こんなにも早く終わるとは。
破壊力抜群の微笑みを王子にむけると菜月はその場を去ろうとしたが、 王子が菜月の腕を掴んだ。
「これから暗くなってしまうだろう?一晩王城に来てはどうですか?」
これまた、 破壊力抜群の笑顔を向けて菜月に言った。
「…っ。 あの、 遠慮しますの…」
笑みに負けたのは菜月だった。
「王子様、 お嬢様をお願いします。 私は宿に用事がありすので」
「分かりました」
貴子が気を効かせ(?)菜月の言葉を遮って その場から去り、 菜月と王子だけになった。
「じゃあ行くか」
「えっ」
王子が王城に向かって歩き出し、 王子に引きずられるようにして菜月も王城へと歩き出した。
「お前、 いい執事を持ってるな」
「いえ、 王子様の執事の方がきっといい方ですわ」
菜月は取ってつけたように敬語を使った。
「お前の事知ってるけどな。 」
王子が足を止めた。
「何の事でしょうか。 」
「 とぼけるの?紅茶をかけたのも怒ったからだろう?」
王子が少し怒ったように見えたが菜月は無視をした。
「王子様から許してもらえたので私は帰れます。 なので明日には帰ろうと思います」
「 だから?」
「失礼します。 」
「お前、 不敬罪で訴えられたいのか?」
「どうしてですか。 私は王子様にご迷惑をお掛けしていませんが。 第一この国の人間ではありません」
王子は諦めのため息を吐くと菜月に捲し立てた。
「高千穂令嬢、 これは失礼しました。 しかし、 私が先程言った、 先日紅茶をかけられた点については許すと言いましたが撤回します。 明日、 1日王城にて話し合いをして決めましょう。 よろしいでしょうか」
菜月は内心 (なんだよ。 せっかく家に帰れると思ったのにと) ガッカリしたが、 それをおくびにも出さずに言った。
「はい、 ではまた明日にお伺いします」
王子は大人しく引き下がった。
菜月はサーパスの街中を歩きながらこの後どうしようかと思案していた。
(王子にはああ言ったけど貴さんには置いていかれたし、 今から宿に行ったら貴さんに怒られるし…)
「そこのお嬢さん。 そろそろ暗くなるけどどうしたんだい?」
街をふらふらと歩いていると菜月はお婆さんに声をかけられた。
菜月にはいろんな意味で神様に見えた。
「ちょっと迷子になってしまいまして…」
「あー、 そーかいそーかい。 親御さんがどこにいるのかは分からんかね?」
「それも宿の名前を覚えてなくて…」
「あーりゃ、 困ったねぇ。 私の家で良ければ泊まるかい?どうせ一人しかいないしねぇ」
「いいんですか?」
「気にすんなさ。 じゃ行くかい?」
「お願いします。 」
菜月は嘘をついたことに罪悪感を抱いたがお婆さんの家にお世話になることにした。
お婆さんの家は和室の一間で、 部屋の中央に座卓が置いてあり、 他には小さな台所と布団が1つ置いてあるだけの小さな家だった。
「はい、 お食べ。 簡単なものだが、 腹がすくよりかはましやろうし。 」
座卓に暖かいシチューとパンが置かれた。
「あの、 そこまでして頂くわけには…」
「遠慮なんて要らないよ。 質素なもんだがさあ、 お食べ」
菜月は確かにお腹が空いていたから、
「では、 遠慮なく頂きます。 」
座卓につき、 シチューを食べた。
シチューを食べ終わった後、 (菜月はお婆さんを推し切る事が出来ずにこの家に1つしかない) 布団で眠った。
「おはようございます。 」
「おはよう。 朝ごはんでも食べなされ」
「ありがとうございます。 」
お婆さんが菜月に用意してくれた朝ごはんはパンと目玉焼き、 牛乳だ。 座卓にはお婆さんの朝ごはんが無い。
「食べないのですか?」
「年寄りは早起きだからねぇ。 もう食べちまったよ。 」
「お手数をおかけしてすいません。 いただきます。 」
いつものご飯とは比べられないくらい質素なものだが、 美味しかった。
「ごちそうさまでした。 美味しかったです」
「ああ。 お嬢さんこれからどうするかい。 私はちょっと街に用事があるんだが」
「私も予定があるので大丈夫です。 あの、 今日は本当にありがとうございました。」
「良いんだよ。 さて、行くかい」
「はい」
菜月が席を立ち上がり、 お婆さんの後について外に出ると
「じゃあね」
と言ってそくささとお婆さんは行ってしまった。
菜月は名前聞き忘れたなと思いながら王城に向かって歩き出した。
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