誓い
「お嬢様、今晩は精一杯腕を振るいますのでじっとしてくださいね」
菜月は部屋に着くなり貴子にワンピースを脱がされて淡いピンク色の蝶の刺繍が施されているドレスに着替えさせられた。
「ねぇ、貴さん」
「顔を動かさないでください。もう少し経てば分かります。」
貴子はそう言ってどうしてこんな格好をするのか菜月に教えなかった。
「・・・はい、終わりました。」
鏡に映る自分はいつもより大人びて見えた。
「お嬢様はもともと美しいので薄化粧です。そろそろお迎えがきますよ」
貴子がそう言ったそばから扉をノックする音が聞こえた。
「ほら、きました」
貴子に背中を押されて菜月が扉を開けると渚がいた。
渚は黒いズボンに白いシャツを着て上に上等な生地でできた赤い上着を羽織っていた。
菜月は渚を見て固まった。
「よし、行こうか」
渚が菜月の頬に唇を落とした。
菜月の頬はそこから熱をもっているように赤くなった。
渚が菜月の手をとり歩き出した。
渚は大きな広間の入り口の扉の前で足を止めた。
その瞬間、扉が勢い良く開いた。
広間には沢山の机の上に料理がのっており、綺麗に飾った大勢の人が談笑している熱気は凄まじかった。
そして、二人の前には一番奥にあるステージまで赤いじゅうたんが敷かれていた。
「渚」
「パーティだよ」
二人は小声で顔を合わせることなく言った。
菜月はこの“パーティ”の大きさ、華やかさに驚き、立ち尽くした。
「行くよ」
渚にそう言われ、菜月は渚と手をつないで赤いじゅうたんの上を会場中の視線を浴びながら歩いた。
ステージに一番近い机には国王と王太子が立っていた。
二人はその机の前で一礼してからステージにのぼった。
菜月はこの”パーティ”が何を祝っているか分かった。
「皆様、本日は私が婚約したことをご報告いたしたいと思います」
会場は驚きではなく、拍手に包まれた。
“渚王子の婚約者お披露目パーティ”これがこのパーティの主旨なのだ。
菜月は渚を罵ってやりたかったがここではできないので、しっかりと微笑みを浮かべて渚の隣に立っていた。
渚が短い挨拶を終えた。
「続きまして、渚様の婚約者であられます菜月様に一言いただきたいと思います」
菜月は司会のその台詞を聞いて固まった。
「菜月、適当に何か言ってくれ」
渚が耳打ちしてくるが、適当なことを言っていい場ではないことはだれにでも分かる。
「・・・」
会場が沈黙に包まれる。
司会の人が場をもたせようと口を開きかけたとき、菜月の声が響いた。
「渚様の婚約者の菜月です。本日はお集まりいただきありがとうございます」
会場中の視線が菜月を貫く。
「少し長くなってしまいますが、この場で私の誓いを言わせていただきます」
会場が誓いという言葉を聞いてざわついた。
「菜月、誓いの重さを分かっていっているのか」
渚が菜月の方を見て言った。
「大丈夫。そんなたいそうな誓いじゃないし、秋花さんとの約束だから」
菜月は前を向いたまま言った。
会場のざわめきが消えた。
「私は」
「菜月」
渚が菜月の誓いの言葉をさえぎった。
「女が先に言うなんておかしいだろう?」
渚は笑っていった。
菜月は渚の方を向いた。
「渚・・・」
菜月は息をのんだ。
渚が騎士のように跪いていた。
それは、誇り高い戦士が主君に向かって誓いを立てるように気高く誇り高い姿だった。
「私の名の下において、高千穂菜月。貴女を一生愛し続けよう」
菜月は渚の誓いの言葉に胸が熱くなった。
「渚・・・」
菜月は流れる涙そのままに誓った。
「私は渚を一生愛し続けると共に、一生側にいることを誓います」
菜月と渚の目が合った。
会場がわれんばかりの拍手に包まれた。
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