第2章 1話部活を始めよう
読んでもらえると幸いです
入学して早一ヶ月、クラスには幾つもの仲良しグループができあがった頃俺は、一枚の用紙と葛藤していた。完成された上下関係のあるグループに、単身で乗り込むための手形の用紙。そう!それは、「入部届」出来ることなら、部活なんてしたくない。だけど、この学校は入部が義務付けられている。机の上に勧誘のチラシを広げ、昼飯を食べ終えた俺は苦痛な表情で見つめていた。
「カズ〜部活決めたん?ウチまだなんやて...。カズも悩んでるんやね。ほの顔おもしろー......あ!そうや!それやったら、いっその事、ウチらで部活つくったら良いやない?ウチらみたいな子集めてさ。」そんな俺に声をかけてきたのは...。元気が取り柄で軽い訛りがある黒髪ツインテール。D組のムードメーカー的存在、南条 桜。こいつは性別は女だが、俺より男らしく、その上美少女。男女から絶大の人気と信頼を寄せられている。とにかく良い奴。
「桜...お前、そのアイデア良いな!そうだつくればいいんだ。難しい人間関係もないし、最高じゃん!あっでも、問題もあるか...。部活内容、顧問、部員その他もろもろ。集まるかな...。」最低でも、部員が5人と顧問1人必要で...。今のところ、俺と桜で部員は2人か。後は、顧問と3人の部員を集めるのか...。目を瞑って針に糸を通すかのように難題だと悟ってしまった。
そんな中彼女は、何か思いついたのか漫画のようなリアクションをする。
「顧問なら、なっちゃん(夏美先生)がいいんやない?あの人、どこの部の顧問もしとらんし、ぴったしやん!」そう言うと、足早に廊下へ駆け出す。きっと夏美先生を探しに行ったのだろう。俺にはない行動力を彼女はもっている。
「あの〜...一也さん」
この声は!?涙さん?!不意に声をかけられ、俺は皿を落として割ってしまったように、ビクつく...。
こういう時こそ、明鏡止水の如し...心鎮め...彼女の方へ振り向く。
「は、はい!!な、な、なんでしょう!」全く鎮まってない動揺しすぎだ!俺のばかやろーー!そんな俺と裏腹に彼女はモジモジ恥ずかしそうに何か言おうとしている。マジで可愛いすぎるだろう...。恥ずかしそうに閉じていた口をそっと開く。
「私も部活に入りたいです...。だめでしょうか?」
良いに決まってる!彼女のあまりの可愛さにより、創部の意志がより堅いものとなった。
「もちろんオッケーです!あとは部員2人と顧問だけですね!」これぞ青春と思い、小さくガッツポーズ。
ダダダダダダダダッ。
廊下を駆ける音が聞こえ、クラス前でその音はとまった。
ガラー!
行きよい良く開いた戸の前には桜が満面の笑みで立っている。俺の顏を見るなり小走りで近づく、そしてテンション高めで聞き取り難いが、その報告は俺もテンションが上がる事だった...。
「カズ!なっちゃんが、顧問やってくれるって!あっ、部員が集まったら声をかけてって!すぐ部活創れそうやね!それで部活って何部創るん?」当たり前の質問だが、人数集めの事しか頭になかった俺は、その質問で一番重要な事を思い出す。ハッキリ言うと、何も考えてなかった。考えてもでてこない。険しい表情でいると、桜は勘付いたようにニヤつきながら...。
「はは〜ん、さては考えてなかったやろ?そんな面白い顔しんでもいいよ。帰りにカフェ寄って、ゆっくり話そ!部員はウチとカズでまだ2人なんやら?」そうだった!桜にまだ言ってなかった。
「涙さんも、部活に入ってくれる事になったんだ。だから、最低でもあと部員2人集まればいいよ。」俺に続いて涙さんが口を開く。
「わ、私も部活に入ろうと思います。よろしくお願いします...。」
「よろしくね、涙ちゃん!ほんなら帰りに3人でカフェ行かん?ほんで、仲深めるついでに何部にするか決めちゃわんとね。まーそろそろ昼休みおわるで、帰りに話そ。」彼女は喜びを隠せないようで、スキップしながら自分の席へともどる。楽しみオーラを滲み出していた。
キーンコーンカーンコーン
昼休みも終わり、睡魔と熱戦を繰り広げる午後の授業が始まる。その授業はよりによって現代国語と数学B。最も退屈で過酷な闘いが幕を開けた。これらを超えた先には一体何があるのかさっぱりだが、ただひとつ言える事は、涙さんとカフェでお茶が待っているという事。それだけを理由に俺は、鉛筆という槍をとった。絶対に勝つ...。
「おいカズ!カズったら!ねぇ!起きやーてもう授業終わっとるよ。」遠くから桜の声が聞こえてくる。薄っすらと戻る意識の中で俺は、文字列の脅威を実感した...。
「負けたんだな...。」思わず声が漏れる。
「あんた何寝ぼけとんの!意味わからんこと言うとる暇あったら、シャキッとしやー!」彼女のカバンクラッシャーが脳天に炸裂。あまりの衝撃で首上がなくなったかと錯覚起こす。例え取れたとしたら、新しい顏作ってつけてくれる人もいない。まず、取れた時点で死亡確定。笑い事にはならない。
俺は、頭が体についている事を確認してホッと一息ついた。
「痛〜...。こんな起こし方じゃあ、可愛くても嫁にもらってくれないぞ。」急に彼女はおとなしくなり、赤面で...。
「可愛いやなんて、嬉しいやないの!」彼女の脳内では、俺が言った言葉の良い部分しか届いてないみたいで、あとは妄想AND脳内補正...。付き合いきれないので彼女を置いて、クラスを後にした。
今では満開だった桜も7割散り、綺麗な緑が顏を出し始める。そんな光景を学窓は額縁のように縁取り、今しか見れない美しい絵に仕立て上げ、涙さんを引き立たせるのであった。
数秒後に地獄絵図になるこの廊下も、この時はまだ天国...。
ダダダダダダダダッ!
背後から、激しく強い突風のように追いかけてくる。俺から数歩手前で跳躍、旋風のように華麗に回転し、俺の顔に上段回し蹴り。
激痛で態勢が崩れたとこで懐に入って、みぞおちを連打。痛みと衝撃で俺は後方へ吹っ飛んだ。
「ゴホゴホ!イッテー...。そんなに怒るなよ俺が悪かった!ごめん!」
まさに格ゲーのようなコンボで隙を与えず、一瞬で相手を倒す。
そうだったコイツは、桜は、空手で日本一になる程強い空手少女...。
「ごめんですんだら警察いらんやら!まーええけど、次はないでね。置いてかれる身になってみー...。寂しいんやでね...。」そう言うと一瞬彼女は表情を曇らせるも、何事もなかったように涙さんと話しながら歩き始めた...。それを追いかけるように、俺は彼女たちについていく。
履き慣れた上履きを靴箱に入れ、スニーカーの紐を縛る。この後のイベント、そう、涙さんとカフェでお茶。このイベントでの大元の目的は『何部にするか』だ。それを決めれば、涙さんとグッと距離を縮める事ができるはず...。そんな事を考えながら正面玄関を後にし、地面を踏みしめた。
並木の歩道を日常のくだらない話をしながら3人は歩く。
「そうなんやね〜。あれ?あそこに何か丸いのがあるやん。かなりデカない?なんやろ。」
彼女指す方向には見覚えのあるサイズの何かがあった。
「本当ですね。なんだろ〜?あの大きさはどこかで見た事があるような...。」彼女たちはまだ気づいてないが、俺は直観でアイツだと、わかった。そうそれは...。
「あっ!ムーさんだ!迎えにきてくれたんだね!」正体が分かると彼女は、我が子を出迎えるような顔をしたデブ猫の元へ走って行く。
「桜、俺たちも行くぞ。」たった一言で、桜はいつもの桜に戻っていた。