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僕は、彼女ともう一度会う約束をした。なんでそんな大切なこと、今の今まで忘れてしまっていたのかは分からない。
彼女、南杏佳と初めて出会ったのは確か、僕が小学三年生に上がる頃だったと思う。
当時、別に病気を患っている訳でもないのに検査のためだとか言われて、二週間くらい入院することになった。その理由はもう、憶えていない。
入院自体は快適なもので、朝に検査が数分間ある程度で、それ以外は病院の敷地内を抜け出さない限りは、どこに行っても自由。しかも、正々堂々学校を二週間も休める。
それはまるで、当時の僕にとっては、自分だけが特別に長い春休みをもらったというようないい気分だったのだが、小学三年生の僕にとって、二週間という長い休みは退屈でしかなかった。
入院生活の最初は、冒険と称して、僕はいろいろな所を歩き回った。それはそれで、なんだか楽しかったのだが、入院も三日もすれば探検しつくしてしまい、いつの間にか暇するようになる。
二週間なんてあっという間だ。そう思っていたが、そうはいかない。せめて話相手か、遊び相手がほしい、そう思った。
そんなこんなで、退屈な入院生活を送って五日目の朝、検査に来た若い女の看護師さんにある女の子の話を聞いた。
それは、僕と同い歳の女の子が、病院の西塔に、僕と同じ理由で、入院しているというものだった。
「へ~」と呑気にうなずく僕を見て、看護師さんは、微笑みながら言う。
「もし、気になるんだったら、その子の所に行ってみたら?少しだけ、変わっている所もあるけど、その子も相当退屈しているみたいだったから、君とは良い友達になれるかもしれないよ?」
そう言われて、僕はその看護師さんに、その女の子がいる病室へ連れて行ってもらった。
彼女の病室の扉をそっと開けると、そこにいたのは長い黒髪を白いリボンで結んだ、かわいらしい女の子だった。
彼女の姿を見た瞬間、僕は一気に顔が真っ赤になってしまった。
普段通っている学校にも女の子はいる。でも、こんなに心の底から、かわいいと思えるような女の子を見たのは、生まれて初めてだった。
目の前の少女はそんな、きょとんと固まる僕の顔を見て小さく言った。
「あなたは、雲の上の世界があることを信じる……?」
確か、その時、僕は何と答えていいのか分からなくって、彼女の持つ絵本のタイトルを見て、首をうんうんと縦に振った気がする。。
僕の、そんな反応を見て、警戒を解いたのか、彼女はにこっと笑って、
「私は、南 杏佳。よろしくね……」
と言った。
「卯月 湊……」
震えた声で、僕はそう彼女に返した。
今思えば、彼女の言った言葉を、当時小学三年生の僕は大きく勘違いして返事をしたのだと思う。だけど、こればっかりは、『ジャックと豆の木』の絵本をその時、読んでいた彼女にも責任があるというものだ。
ただ、そんな勘違いがあったおかげか、それから彼女と仲良くなるまでには、そんなに時間はかからなかった。




