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「知ってるか?学校中で、お前と南杏佳がどんな噂になっているのか?」
昼休憩のチャイムが鳴り終わり、今日という学校のカリキュラムが半分ほど終わったところで、浩平がずがずがと目の前の席に座って言った。
できれば、その話は知りたくない。どうせろくなものではないからだ。
「あの子、お前の別れ離れになった前妻ってことになっているんだが、本当なのか?」
僕が予想していたよりももっとひどい……」
「そんな訳ないだろ!」
「だよな……。結婚はおろか、彼女なんかいたこと、お前には一度もなかったもんな……」
否定はできない。
「で?南杏佳とは、いったいどういった関係なんだ?」
「今日初めて会った。別にどうこうないよ……」
「俺達、昔からの親友だよな?親友に嘘ついていいと思っているのか?」
「最近お前を、親友のカテゴライズから外そうかと思っているがな……」
「本気か?」
「いや、本気じゃないけどさ……。南さんに会ったのは今日が初めて。これは本当」
「ふーん」
「なんだよ、そのふーんって」
「いやさ、今日初めて出会った女の子が、お前の名前を呼んでさ、あまつさえお前なんかに、抱き着きながら泣くって、普通ありえないだろ?」
「そのあまつさえって表現、日本語的に失礼だからな!」
僕は浩平にそう突っ込みを入れると、浩平が前の席に座って女子生徒と楽しそうに話をする彼女の横顔をただじっと見た。
確かに浩平の言う事も一理あるのだが、どう反応していいのか分からない。
結局のところ、今朝の出来事の後、大変だったのは僕だけだ。南さんは僕のことを抱きしめて、泣き止んだかと思いきや、何事も無く自分の席に着き、授業に普通に参加した。
クラスの生徒達の好機心は、そんな彼女に気を使ったのか、彼女に対して質問攻めすることなく、そのすべてが僕の方向へと流れて来た。
授業中の合間に何度も女子生徒や、男子生徒達に囲まれて質問攻めにあったのだから、もう疲れた。
「それで?南杏佳からその後、何か伝言でもあったか?『実は人違いでしたごめんなさい』だとか、『お前みたいな奴に抱きしめられて、もうお嫁に行けない』だとか……」
ちなみに抱きしめたのは僕じゃなく、彼女なのだが……。
「いや、何もないよ……。まるで今朝あったことが夢みたいだ……」
僕が言うと、浩平はふっと笑った。
「夢って……、今朝言っていたお前の譫言じゃないんだから……。これは少なくとも、クラス中の生徒の記憶には焼き付いてるぞ?」
まぁ、被害こうむっているのは、一方的に僕の方なのだが、、向こうから言ってこないのなら手の打ちようがない。僕の方から聞き返すのもなんか変な感じだし……。
「もう、死んでしまいたいかも……」
僕が溜息をつきながら言うと、浩平は「ぶはは」と笑った。
「そう言えば、鳴瀬はどうしたんだ?今日はお前と一緒ではないんだな……」
「あぁ、恵か……。あいつ今朝の一件からずっと保健室で寝込んでる……。あいつには刺激が強すぎたみたい……」
浩平は僕の顔を見て平然と答える。
「え、それって大丈夫なのか?」
鳴瀬、男に免疫ないだろうなと思っていたが、そこまで深刻だったとは……。
「嘘だ。ただ、今のあいつとは、死んでも会わない方がいいかもな……」
「え?それってどういう……?」
僕がそう聞こうとすると浩平は突然席を立ちあがった。たぶん、こちらに徐々に集まって来た好機の目線達に気が付いたのだろう。
「自分で考えろ、ばーか!」
浩平はそう言い残し、教室を立ち去ってしまった。
なんなんだよ。あいつは……。
僕は、浩平の後ろ姿を見ながらそう思いうなだれた。
たぶん朝の噂を聞きつけた生徒たちの第二波が、僕に訪れたのは、その後だった。
もう勘弁してくれ!
僕はそう心の中で叫んだ。




