14
「お前さ……南杏佳と付き合ってんのか?」
浩平は、僕と肩を並べて、歩き出したと思いきや、突然そんなこと切り出す。
「違う。そんなんじゃない」
「じゃあ、南杏佳のことを好きなのか?」
「いや……」
「じゃあ、実は知り合いだったのか?」
なんで、こいつは僕に会ったとたん、急に杏佳との間柄についてしつこく聞いてくるのだろうか?
「どうしたんだよ?会って早々質問攻めなんて、浩平らしくないな……」
僕は皮肉を含めてそう言うと、浩平は黙り込む。そしてこう言った。
「俺さ、お前には悪いと思ったんだけど、恵と一緒にお前達二人を尾行……いや、監視をしていたんだ。でも、お前たちが喫茶店を出た辺りから、急に意識が飛んで記憶が無くなった。そして気が付いたら、朝になっていたよ。しかも、昨日の記憶が、所々抜けてる……」
喫茶店から出てからの出来事。それは、雨が止んで鯨が夜空を泳いだのだが、僕と彼女以外には、どうやら記憶が残っていないらしい。これが、この世界と向こうの世界の摂理、というやつなのだろうと、僕は思った。
「だからさ、お前に聞いたら分かるんじゃないかと、そう思って……」
「それは……」
今までこんなに、あたふたと戸惑っている浩平の姿を見たことが、僕にはがあっただろうか。
「湊……、頼む、教えてくれ!」
浩平には慎重に言葉を選ばないといけない。そう思った僕は覚悟を決めた。