武蔵「(俺の扱い酷くないか…?)」
転移先ではすでに戦闘が繰り広げられていた。
ルコアさんが私たちに気づく。
「戦線を離脱しても大丈夫ですか?」
「はあ!?早く戻ってきてくれるならな!」
「では失礼します」
ルコアさんがこちらに駆け寄ってくる。
「朝日。それに皆さん勢揃いで。いいところに来ました」
「ええと。凄い状況ですね」
勇者や聖女や漆黒龍が転がっている超危険地帯。
「あれのせいで私が対勇者用に用意していた魔具もほとんど使い果たしてしまいました。まったく困ったものです」
「あの人が勇者ナナシですか」
「ええ。ステータスを視てもらえれば分かりますが。正真正銘の怪物です」
ルコアさんがそこまで言うほどなのかー。
鑑定を使ってみる。
ナナシ 勇者 LV812
HP3124200
MP3941300
攻撃力213350
防御力165320
魔法攻撃力313240
魔法防御力274200
敏捷13240
運0
称号 悪心ロキの祝福を受けし者、ドラゴンスレイヤー、ダンジョン制覇者、真理の探究者、自殺者、罪人、破綻者、永劫の時を生きるもの
スキル
無限転生LV5
HP回復力アップLV5
MP回復力アップLV5
防御強化LV5
自然回復LV5
闇魔法LV5
光魔法LV5
火魔法LV5
水魔法LV5
風魔法LV5
土魔法LV5
回復魔法LV5
毒魔法LV5
命中LV5
回避LV5
見切りLV5
索敵LV5
罠発見LV5
罠解除LV5
物理障壁LV5
魔法障壁LV5
魔具生成LV5
生活魔法LV5
料理 LV5
スキルポイント
3000
ステータスが高すぎてもう何が何だかわからないけど、一番驚いたのはレベルだ。812って…
レベルは人生経験を積むことによって上がる。
この人は一体どれだけの人生を歩んできたんだろう?
きっと私には想像もつかないほどの体験をしてきたのだ。
「確かに。今まで見たステータスの中でもダントツで高いです」
「ええ。生半可なステータスでは太刀打ちできません。ユアたちは見学をお勧めします」
「そっかー。わかりました!」
「しょうがねえなぁ」
「ふふ。強者の戦いを見ることも成長につながりますよ」
最高難易度と言われるだけの相手だね。
というわけで、私たちはいつもの4人で参戦することになった。
「彼女は武器をことごとく破壊してきますので…夕陽の剣が有効でしょう」
「網じいの出番ね」
夕陽が網じいの剣を引き抜く。
網じいの剣の特性として、絶対に壊れないという能力がある。
剣を抜いたことにより網じいが実体化する。
「夕陽がワシを抜くのは久々じゃのう」
「ええ。あなたの剣が必要よ」
「ほう。なかなかの強敵のようじゃのう」
網じいが髭をさすりながら武蔵とナナシの戦闘へ目を向ける。
ナナシの単なる掌底は衝撃波を生み、その速度は目では追い切れない。
かかと落としでは地面が陥没している。全ての攻撃が致命傷になりえる一撃。それらを紙一重で回避し続ける武蔵さんも凄いけど、ナナシの攻撃力はやはり底知れない。
そんな戦闘を冷や汗を流しながら眺める網じい。
「…壊れないと言うても限度はあるのじゃが」
「いいからやるわよ」
「ええ…」
さてさて。私も他人事じゃないのだ。まずあの速度についていけるかどうか。徐々に目が慣れてくれればいいんだけどなー。
「それじゃあ頑張ろっか。私と夕陽でアタック。葵はサポート。芽衣は倒れている人の回復をしてからディフェンス全般任せた!」
「ええ」
「ん」
「わかったよ~」
「頑張ってね!ママ!」
「母さんたちなら大丈夫」
「応援してるぜ!」
「応援なら任せて!」
娘に見守られながらの戦いは緊張する!
いいとこ魅せないとね!
「私もバックアップの形で戦闘に加わります。…無茶はしないように。撤退も一つの手として考えてください」
「わっかりましたー」
ルコアさんもサポートしてくれるようだ。頼もしい。
武蔵さんもそろそろ限界のようだし、入れ替わろう。
夕陽と頷き合い、戦闘に突入する。
「武蔵さん!お待たせしました!」
「ここからは私たちに任せてください」
「おお!うおっ!まか…せる…ぜ!」
間一髪裏拳を回避し、そのままバックステップで下がる武蔵さん。
相手を失ったナナシは止まり、近くに来た私たちに目を向ける。
目を向けられて感じたことは、私たちを見ているようで見ていないという感覚。
まるで相手にしていないような…あれだね。蚊が飛んできたよー。めんどくさいなー。ってな雰囲気だ。
でも構わず話しかけてみる。コミュニケーションは大事よ!
「初めまして!ナナシさん。私は星宮朝日です!こっちは私の嫁の夕陽!少しお話しませんか?」
「…」
「ナナシさんって日本語で名前が無いって意味ですよね?もしかして異世界人ですか?しかも私たちと同じ日本出身だったりして?」
「…」
うーむ。反応なし。もしかしたら私の推理が当たってると思ったんだけどなー。そう都合よくはいかないか。
さて。どう話を切り出そうか…思案していると、なんとナナシさんが話しかけてきてくれた。
「…あなたたちは人間?」
「そうですよ!ナナシさんもですよね?」
「…人間なら、死んでもらわないと」
会話のキャッチボールしよう!?
そう言うや否や私に向かって攻撃を仕掛けてくるナナシさん。
その速度は実際に対峙すると桁違いで、私の視界から消えたように錯覚するほどだった。
「朝日!!ぐっ!!」
「夕陽!?」
夕陽は目で追えていたようで、横から剣を滑り込ませる。
しかし態勢がよくなかったのか踏ん張りが効かずに後ろに飛ばされてしまった。
その夕陽をルコアさんが抱きかかえ、そのまま私に呆れたように話しかける。
「朝日。彼女は私たちの話など聞いていません。倒すか倒されるか…ですよ」
「…はい」
そう声に出してはみたけれど。やっぱり私はそれじゃダメな気がしてならない。
私は彼女を理解しようとしないといけない。そう思うんだ。
でもその為には、彼女に認めてもらわなければスタートラインにも立てない。
私という存在を認識してもらってから初めて会話は成立するんだ。
あとナナシさんは本気を出していない気がする。
いや、全然相手になってない私が言うのもなんだけどね?そもそも戦闘している気はないのかもしれない。邪魔だから振り払おうとしているって感覚なのかも。
「【四聖獣召喚】」
「【四重結界】!」
葵が白虎、朱雀、玄武、青龍を召喚し私たちのサポート役として動かしてくれる。
芽衣は倒れていた人の回復を終えたようでナナシさんを結界に閉じ込めてくれた。
後ろで芽衣に向かってお礼を言っている勇者たちの声が聞こえてくる。
「あの。ありがとうございます。助かりました」
「宮本さんが探していた人たち…だよな?どうしてここに?おかげで助かったが」
「俺たちはな!女神様の依頼で来たんだぜ!凄いだろ!」
「フェルにいじゃなくて、凄いのはお姉ちゃんたちだよ!」
「ロキじゃない女の神様か。俺もそっちのほうがよかったぜ」
「転生させてくれた神様に失礼なことを言うんじゃない」
「だってよぉ」
「我からも礼を言おう。姫のとっておきも破られて困っておったところだったのでな」
「変態魔王なんて大したことないのです!今だったら私のほうが強いのです!」
あーあ。サシャあんなこと言っちゃって…
ルコアさんが黒い笑みを浮かべてるよ!?絶対聞かれてるよ!?
でもナナシさんと向き合っている私たちはそれどころではない。
芽衣の結界はあっという間に破られ、再び戦闘が始まる。
今度は夕陽に向かって攻撃をするナナシさん。
私は少しでも目が慣れるようにその戦闘をじっくり観察する。
…うん。今度はぎりぎり目で追える!
これなら私も戦闘に参加できる。
ナナシさんの背中に回りモーニングスターで殴りつける。
その攻撃は避ける価値がないと判断されたのか、まともにヒットした。
「お!いいの当たった!ってぎゃああ!」
「…」
どんだけ身体硬いのナナシさん!?
モーニングスターの鉄球部分がぽっきりと折れてしまった。
でもすかさず手品魔法発動。
魔力を使い、布を被せてパッと開くとあら不思議。まるで最初から折れていなかったかのように元の状態に戻るモーニングスター。
もはや手品でも何でもないんだけど…細かいことは気にしない!
「【絡みつく闇蔦】」
「【五重結界】!」
地面から生えてきた黒い蔦と身動きを取れなくする結界。足止めの魔法二つをナナシさんへ発動するが、やはり数秒しか持たない。
そして結界が破壊されると同時に白虎が爪で攻撃するも、蹴りを入れられて吹き飛び空中を旋回していた青龍にぶつかりそのまま星になった。
うーん。埒が明かないな!強すぎるよナナシさん!
かろうじて夕陽が打ち合っているけど、パワー差がありすぎて振り回されている。
このままだとじり貧で決着はつきそうもない。
「武蔵さん!ちょっと替わってください!」
「なに!?…ちょっと待ってろ!」
「夕陽!一旦引いて!」
「わかったわ!」
夕陽と武蔵さんが入れ替わり、私も引いて芽衣のいる場所まで移動し、武蔵さんが身代わりになっている間に作戦会議をする。
「どうしたの?朝日ちゃん?」
「何か作戦でもあるのかしら?」
「うん。みんなわかってると思うけど、このままだったらいつまでたっても勝てないよ」
「…そうね」
「ピンピンしてるもんね~」
「だから、私に全部任せてほしい!」
ドンと胸を張ってみんなに提案してみる。
「朝日に?」
「そう!私がナナシさんと正面切って戦うから、3人は全力で私のサポートしてほしいの!」
「えーと…冗談じゃなくて?」
「マジマジ」
夕陽は何を言ってるんだこいつは?って目で見てくる。
そんな微妙な空気の中、葵が手を挙げてくれる。
「私はいいと思う」
「葵?」
「私は朝日があの人に劣っているとは思えない」
「それは同意するけど…戦闘は別よ。朝日も。さっきまで攻撃見えてなかったでしょ?それがそんな大口叩いて」
「今は見えますー!」
「夕陽ちゃん。朝日ちゃんに任せてみようよ。私が絶対死なせはしないし…朝日ちゃんなら何とかしてくれるかもって思うし…」
「芽衣まで?…しょうがないわね。負けたら承知しないわよ」
「よしきた!任せて!」
根拠は無いけど。自信はある!
ロキの言葉を思い出す。
彼女を救うのか、見捨てるのか。
私は彼女を救いたい。
だって世界はこんなにも楽しいんだから!あんな絶望の顔はこれっきりで終わらせたい!




