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JK4人の異世界暮らし!  作者: 綿あめ真
東の淫乱魔王とショタ勇者
95/100

オイオイオイ!あいつ死んだわ(ライド)

 勇者レイン視点 




 やはり戦闘になったか。

 俺は光剣と炎剣を構えるが、相手は気にした様子もなくこちらへ向かってくる。


 まるで俺たちを認識していないかのような振る舞いだが…殺気だけは伝わってくる。

 だがその殺気は微々たるもので、先生が戦う前に逃げることを選択する程だとは思えない。


 油断はしないが。なんせ相手は1人で王都を潰したのだ。


「ライド」

「ああ」


 ライドが盾を構え、相手の前に出る。


「…」


 ライドとナナシが激突した瞬間を見極め飛び出す。

 そう身構えていたが…予想の斜め上の結果に思わず固まってしまう。


「はあ!?」

「え?え?」

「おー!吹っ飛んだです!」


 ナナシが煩わしそうにライドに向かって右手を振り払った。

 ライドはそれを盾で防御したのだが…ライドが冗談みたいに俺の真上を通り過ぎていった。


 何でもないような一撃でライドが吹き飛ばされ、マリィの近くに落ちる。


「がはっ」

「ライド!【ハイヒール】!」


 こんなことがあり得るのか…

 なおもナナシはこちらに向かって歩いてくる。

 その目は相変わらずこちらを見てはいない。


「くそ!行くぞ!」


 恐怖を声でごまかしてナナシに接敵する。

 出し惜しみはせず最初からフルスピードで光剣と炎剣を同時に振るう。

 ナナシは武器を何も持っていないので、できることはバックステップで回避するくらいのはず。


 そう考えていたが、ナナシは格が違った。

 ガードを選択してきたのだが…両手で手刀を作り、ガードしてきたのだ。


「(なんだこいつ…両手を捨てたのか?)」


 それならこちらはかなり有利になるぞ。

 そう思い全力で剣を振るう。


 だが結果は違った。


「なっ!」

「…」


 あり得ないことに…手刀で剣を叩き折られた。両方ともだ。

 折れた直剣をつい眺め…慌てて下がる。


「嘘だろ…俺の剣が…」

「速すぎて何が何だか…」

「くっ…そ…強すぎだろ…」

「時間稼ぎもできねーのですか!【シャドーバインド】!」

「…?」


 わずか数瞬で愛武器と相棒がやられて動揺したが、サシャが魔法でナナシを拘束することに成功しているのを見て意識を戻す。


 相手は身動きが取れないでいる。攻撃するなら今しかない!

 あいつは勇者だ。光魔法は耐性があるだろう。なら炎魔法だ。


「やばやばです!拘束もう解けるです!」

「任せろ!【メテオ】!」


 炎魔法の最上位魔法であるメテオを発動する。

 俺の最大火力が出る技だ。これが通用しないようならかなり厳しい。


「なかなかやるじゃねーですか!レイン!」

「きっとこれなら…!」

「いけます!」


 大火球が次々とナナシを襲う。範囲も広いため回避も難しい。

 やったか?


 魔法が発動して暫く経ち、煙が晴れる。

 結果は…無傷のナナシがぼーっと立っていた。


「これは…きっついな」

「一旦立て直すぞ」

「ライド!大丈夫か?」

「ああ。マリィの回復魔法のおかげで何とかな。とんでもない馬鹿力だぜ」


 これ以上正面切って戦うのは厳しいという判断で一旦防衛ラインを下げる。

 ナナシが追撃に来ることはなかった。

 姿が見えなくなったところで全員息を吐きだす。


「ふう…予想の遥か上の強さですね…私たちだけでどうにかなるのでしょうか?」

「きっとあいつにとってはゴブリン相手にするようなもんなんだろうな。だからあんな目をしてやがるんだ」

「ライドは例えばへたっぴさんです」

「あ?お前上手いこと言えんのか?」

「例えるなら…私たちはさしずめスライムみたいなものなんでしょーね!です」

「…俺と何が違うのかなぁ!?」

「そんなことはさておきです。あれをどうやって倒すのかですが…」

「おい」

「正直なとこ…勝てるビジョンが浮かばないな。先生が逃げろって言った意味がわかった」

「俺も盾役があれじゃ情けないが…すまねえ」

「やっぱり私の魔法しかないようですね!」

「…いけんのか?サシャ」

「恐らくどの魔法もさっきみたいに無傷の可能性が高いです」

「だよな」

「ですが!魔法を一点集中させて心臓を穿てばあるいは…といったところです」


 さっきの俺のメテオは範囲攻撃だ。

 それを今度は対人魔法でかつ威力を底上げして一撃に賭ける。ってことか。


「やってみる価値はあると思う」

「ああ」

「ですね」

「でもです!さすがに命の危険がある攻撃はあいつも避けてくると思うです。だから男二人で命がけで動きを止めるです!」

「「マジか」」


 文字通り命がけ…だがやるしかない!


 正直戦うまで何とかなるだろうって気持ちしかなかった。この4人なら大抵のことはできるだろって。でも違った。あいつは危険すぎる。刺し違えてでも止めなきゃなんない。



「ライド。いけそうか?」

「…やっぱ怖えよ。ほら。手が震えてやがる…だが、やるしかねえ。だろ?」

「だな…手でも握ってやろうか?」

「是非!」

「冗談だしマリィには言ってないよ…」

「はは。みんな数年前と変わんねえな。…うし!やるか!」

「おう」

「やってやりましょう!」

「あいつが来るまでに魔力をできる限りチャージしておくです。それで、レインとライドが動きを止めたら即放つのでよろしくです」

「「ああ。任せろ」」


 責任重大だな。

 ふぅ。今までの修練を思い出せ…こういう強敵を倒すために人生賭けてきたんだろ。




 サシャはその身体からは想像もつかない魔力を練りこんでいる。

 相変わらずの魔力お化けだ。マリィも俺たちに様々なエンチャントを掛けてくれている。

 そして…あいつが目視できる距離まで近づいてきた。その姿を見てから鳥肌が止まらない。実力差が身に染みたからだろうな…


「ライド」

「ああ」

「ご武運を」


 よし。やれるだけのことはやろう。そう思い一歩踏み出した時、俺たちの前にあのお2人が出てくる。


「その作戦。俺たちも加えろよ」

「レインとライドだけでは荷が重かろう」


 この数年何度も耳にした安心する声。


「先生!小次郎さん!」

「来てくれたんすか!」


 ばつが悪そうに頭を掻いている先生。はは。俺は信じてましたよ。


「弟子置いて逃げる先生がいてたまるか」

「さっきまでその気だったくせによく言う」

「黙ってろ小次郎。先生の威厳が無くなるだろうが」

「いいんです!来てくれただけで嬉しいです!」

「ま、俺たちがいたところで大した状況は変わらんだろうけどな」

「そんなことは…」

「お前らゴブリンが4匹だったところに2匹増援が来たからって脅威に感じるか?」

「あ。宮本さん俺と同類…」

「は?」

「なんでもないっす!」

「ま、そんなもんだよ。…とにかく、あのちび助のために動きを止めればいいんだな?」

「はい」

「はぁ…人生で初めて負けるかも」

「いい気味だ」


 先生が木刀を。小次郎さんが物干し竿を構える。

 この4人なら…なんとかなるかもしれない。


 俺も折れた剣の先に魔力を流し込み準備する。


「【ライトニングソード】。【フレイムソード】」


 折れた刀身の先を魔力で補い剣を形作る。魔力消費量は激しいが…これでまだ戦える。


「いつもの陣形で行くぞ」


 そう言って先生がナナシに向かう。

 いつもの陣形とは、ライドを盾にしつつ先生が正面切って戦い、俺と小次郎さんが左右から挟撃する型だ。


「死線が充満してやがるぜ」

「…」


 先生の回避能力は尋常じゃない。

 俺との模擬戦闘ではもちろんのこと、ダンジョンでも先生が危険な攻撃をくらうことは絶対にない(小さいダメージを受けることはあるが)。


 それがこのナナシ戦では存分に活かされている。

 ナナシの攻撃は全て一撃もらった時点で大ダメージ間違いなしの威力を秘めている。そんな攻撃を先生が避けられないはずもなく…チクチクとダメージを与えていく。


 だが逆にライドにとっての相性は最悪だ。

 ライドは回避ではなく防御型。相手の攻撃を大盾で防いでカウンターが主な戦闘方法のため、攻撃力が完全に上回っているナナシに為す術がない。ボールのように吹き飛ばされ、マリィに回復してもらい戦線に復帰しまた吹き飛ばされるという悪循環になっている。


「こんだけ攻撃しても表情変えないとはな…自信なくすぜ」

「動きが不規則でしかも速いので避けづらいです…ね」

「厄介な相手だ」

「まだですー!?魔力が暴発するですー!?」


 もう時間がないのか。

 無理やりにでも止めるしかないか!?


「やるぞ!合わせろ!」


 先生が速度を上げてきれいに一太刀をナナシに与える。

 ダメージは無いようだけど動きが止まった。チャンスだ!


「燕返しッ」

「【ライトニングボルト】!」


 小次郎さんの絶技と俺の雷魔法が直撃する。


「…!」

「俺ごとやれ!サシャ!」


 その直後にライドが後ろからナナシを羽交い絞めにする!

 マジかライド!死ぬぞ!ってかそれじゃサシャが躊躇っちまう!


「いい心意気です!【アルティメット・暗黒・メシヤ・極一点フルバーストアタック】!」


 撃つのかよ!?

 あと技名の纏まりのなさ…っ!


 容赦なく放ったその一撃はナナシとライドを貫通し、はるか遠くで着弾したのち時間差で巨大な爆発音が鳴り響く。

 その爆風の余波に思わず顔を手で覆う。


「うおおお!これ破壊力ありすぎだろ!?ライドオオおおおおお!?」


 どうなった!?視界が晴れて状況を確認する。


 ナナシとライドは…両方倒れている。

 だが、いつの間にかマリィがライドに向かって必死で回復魔法を使っている。

 マリィ!おそらくサシャが魔法を放った時にはすでに駆け出していたんだろう。いい判断だ!頼む!間に合ってくれ!


 先生と小次郎さんが合流してくる。


「これで倒せなかったらどうしようもないな」

「ライドは生きているのか?とんでもない威力だったが」

「あいつがこんな簡単にくたばるわけないです」


 きっとマリィがなんとかしてくれる。それよりもナナシは?

 ナナシはまだ動かない。確認に行くべきか。そう考え動こうとしたとき、聞いたことのない声が俺たちに話しかけてくる。


「残念ながら。倒せなかったようですね。おそらく羽交い絞めにしていた少年の急所を無意識に外そうとしてしまったのでしょう」

「ガハハハッ。相変わらず優しい少女よな」

「…あんたらは誰だ?」

「あーー!変態魔王です!」


 サシャが白銀の髪を持つ美しい女性を指差して叫ぶ。

 変態魔王?この人が?


「ルコアお姉さまかご主人様と呼ぶようにと言っておいたはずですが…お仕置きですね。それよりも…申し遅れました。今代の勇者。私が魔王ルコアです。以後お見知りおきを」

「漆黒龍ダハクである!覚えておけ。小僧」

「な…あんたらが…」


 長年倒すことを目標としていた魔王が目の前に…?だがなぜここへ?


「目的はなんだと顔に出ていますよ。教えて差し上げます。実はサシャの魔力を感知したので捕まえに来ただけなのです」

「な!?あそこにはもう戻りたくないのです!」

「ですが来てみれば面白い状況になっているではありませんか。今代の勇者に、ステータスが視えない人間2人。挙句の果てには化け物のようなステータスを持つ勇者がもう1人。世界は広いですね」

「…それで、どうするつもりだ?結論を言え」

「そう敵視しないでください。勇者レイン。どうでしょうか。ここは一旦共闘してあの怪物をなんとかするというのは」

「…ナナシのことか」

「そうです。あの倒れている者です」


 魔王と共闘するだと?正直考えたくはない。考えたくはないが…危険度はナナシのほうが高いことは明らかだ。魔王はなんていうか…まだ意思疎通ができるだけましに思える。

 それに、このまま今のメンバーで戦って同じようにチャンスを作れるかと言われれば微妙だ。少しでも戦力は欲しい。


「…わかった。今だけは…協力してくれ」

「うふふ。話の分かる人物でよかった。では。怪物退治と行きましょう」


 ナナシが目を見開きむくりと起きる。相変わらずどこを見ているのかわからない。

 魔王と共闘するなんてよくわからない展開だが…今はあれを倒すことが先決だ!


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ポンコツお姫様姉妹と巡る異世界譚
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