勇者絶対許さない
メア視点
フェル君とリルちゃんの戦いすご~。
特に獣化した後の戦闘は目で追うのがやっと。
そんな激しい戦いを見ているうちにうずうずしちゃったユアが、決着がついた後に私たちとも戦ってもらおうよ!と言い出した。
私と芽衣母さんと、いつの間にか戻ってきていた葵母さんは思わず顔を見合わせ、説得しようとアイコンタクトをする。
「ユア。見ている通りレベル高いよ?あの勇者。フェル君とリルちゃんが勝てないなら私たちも勝てないよ」
「怪我しちゃうよ~。治すけど~」
「危険」
「でもでも、あの勇者さん優しそうだし、勇者さんと戦う経験なんて滅多にないよ!」
確かに戦闘中フェル君とリルちゃんを気遣っているように感じた。
悪い人ではないと思う。
それに目をキラキラさせているユアの言うことを聞いてあげたい気もしてきた~。
「どうしてもって言うなら、私も一緒に戦う。ユアだけ危ない目には遭わせられないし」
「メアも~?」
「2人とも元気」
「いい?母さんたち」
「葵ちゃんはどう?」
「1つ。条件」
葵母さんがそう言って木刀を取り出す。
見たことある木刀だ。いつもユアと夕陽さんが運動しているときに使っている木刀。
確かダメージが1で固定されているんだっけ?
「これを勇者が使うなら、いい」
私たちがケガしないようにだよね。
確かにこれなら安心。
ユアも納得してくれたみたい。
「わかりました!」
「うん」
「ん」
それから暫く戦いを観戦していたけど、結局フェル君とリルちゃんは負けてしまった。
勇者はまだまだ余裕がありそう。
「よし、戦い申し込みに行こ!メアちゃん」
「しょうがないな~」
ユアに手を引かれて走る。
はぁ~。ユアの手小っちゃくてかわいい~。
そのまま勇者の前まで来たけど、勇者は考え事をしているのかこっちに気づいていない。
「あ、あの!」
「ん?」
私たちに気づいた勇者がこっちを見て驚いている。
フェル君たちよりも小さいしね。勇者が目線を合わせながら話しかけてくる。
「どうしたの?」
「私たちとも」
「戦ってください!」
「へ?」
困惑気味の勇者。
そりゃ、普通は剣も触れないような年齢だからね私たち。
「え~と…?」
「稽古みたいなものかい?」
勇者の隣にいたライド?が聞いてくるので頷く。
「ま、いいんじゃないか。まだあのお2人は戦っているしな」
「でも危なくないか?」
「あの!これ使ってください!」
「これは?」
「どんな攻撃をしてもダメージが1になる武器です!これで戦ってくれると嬉しいです!」
「なるほど。確かにこれなら怪我の心配は減るか。いいんじゃないか?レイン」
「お、おう」
勇者はあまり乗り気ではないみたいだけど、ユアの為にも働いてほしい。
木刀を勇者に渡して私たちは少し下がる。
ライドは戦わないみたいで、勇者のかなり後ろで腕を組んでいる。
「よし!がんばろーね!メアちゃん!」
「無理はしないでね。ユア」
「わかった!行くよ!マサくん!」
「頑張れよ。ユア」
ユアが剣を抜いたことで正宗が出てきた。正宗は私たちよりちょっと大きいだけなのに態度がでかい。
勇者はこちらが動くのを待っているみたいだからユアが攻め込む。
私はとりあえず観戦だ。ユアの勇姿を見届ける。
「やあ!」
「うお!?」
ユアの予想以上の速さに面食らっている勇者。
ふふふ。私のユアはそこら辺の大人よりずっと強いんだから!
でもさすがは勇者。最初こそ動きはぎこちなかったけど、しばらくしたら動きにキレが出てきた。
次第にユアが押されていく。
ああ!?ユアのお腹を突いた!!
勇者もあっ!やっちゃったって顔してるけど!信じられない!
「だ、大丈夫!?」
「これくらい平気です!」
「よ、よかった」
ユアがよくても私はよくない。
驚かせてやろ。こっそりスキルを発動する。
「(【幻惑魔法】)」
「うおおお!?」
「?」
今勇者の前にはドラゴンが視えている。
しかも私が思い描いたのはダハクさんの漆黒龍だ。外見はめっちゃ怖い。中身は優しいおじさんだけど。
「なんで急に!?光聖破!」
「???」
「今よユア!チャンスチャンス!」
「あ!メアちゃんの魔法だね!よーし」
勇者が何もない空に向かって光魔法を放っている隙にユアが近づいてパンチする。
良かったね勇者。剣で切られるんじゃなくてパンチで。ユア優しいから。
「そりゃ!」
「がはっ」
上から突き上げるようなアッパーカットが顎にクリーンヒット。
よし。フェル君たちでも当たらなかった勇者に攻撃成功。
………
ん?勇者が白目むいてる。
「あれ?」
そのまま倒れたまま動かない勇者。
え?勝っちゃったの?あれで?
勇者の後ろにいたライドもびっくりして勇者に駆け寄る。
「おいおいおい。マジかよレイン」
「これで終わり?」
「すまねえなお嬢ちゃんたち。完全にこいつ油断してたみたいだ。ってか急に空に向かって光魔法打ち出すし…何やってんだよまったく…」
倒れている勇者を肩に担ぐライド。
え…あっけな。
「そっかぁ。また今度お願いしよっと」
「ああ。そん時は油断しないように言っとくからよ」
「わかった!」
ニコニコしてるユア。はぁ~。かわいい~。
「こら!ユア!」
「ひっ」
私たちがなんだか消化不良な戦いに気が抜けていると突然鋭い声が。
声のする方向を見ると夕陽さんが怒りながらこちらに向かってくるところだった。
うわ~。ユア怒られるよ。
「ユア?なんで勇者と戦ってるの?ママに説明しなさい」
「えとえと、フェル君とリルちゃんが勇者と戦ってるの見て私も戦ってみたいなって思ったの」
「はあ?危ないでしょ?ちょっと芽衣!葵もいるじゃない!なんで止めないのよ」
「え~。だって勇者くん優しそうだったし~。私もいるから大丈夫かなって」
「安心して夕陽。いつもの木刀を勇者に渡してた」
「あれを?…いやそれでも危ないじゃない。まったくもう。心配させないでよね。勇者がユアのお腹に攻撃したの見て心臓止まりそうになったんだから」
あ、それ私もイラっとした。
「ごめんね?ママ」
「もういいわ。それにしても…勝っちゃったのかしら?」
ライドに担がれている勇者を見て確認を取る夕陽さん。
「うーん。そうなるのかなぁ?」
「どうやったの?勇者は私でも勝つのが難しいくらいの強敵のはずよ」
「お、それは俺も気になってた」
「ママに教えたいけど、ライドさんに教えたくないなー。ね!メアちゃん」
「うん」
「ははっ。なかなか用心深い嬢ちゃんたちだ。いいぜ。俺は武蔵さんと小次郎さんのとこに戻るからよ。その後にお母さんたちに教えてやれよ」
そう言ってライドはさっさと向こうに行ってしまった。
空気の読める人だ。
「それで?」
「メアちゃんの魔法で、勇者さんが何か視て、その隙に私がドカーンってパンチしたら勝った!」
「メアちゃんはどんな幻想を魅せたの?」
「ダハクさん」
「ふふ。確かにそれは勇者が混乱するのもわかるわ。いい魔法の使い方ね」
「ん。ありがとう」
「すごいね~メア。自慢の娘だよ~」
「ん。やる」
「えへへ」
母さんたちに褒められた!うれしい。
「私も活躍したよ!」
「ユアも凄いわ」
「うんうん~」
「頑張った」
「えへへー」
それで、このあとはどうするんだろう。
魔王はどうなったのかな?
周囲を見ると朝日さんは敵の前で座り込んでいるけど、勝ったのかな?こっちに手を振っている。
勇者とライドはもう1人の女の人の前で怒られている。
あの人が勇者の言っていた先生?
それで、団長と副団長さんはまだ戦ってる。
内容はほぼ互角で、一進一退。
でもかなり長時間戦っているし、お互い肩で息をしているからそろそろ終わりそう。
朝日さんも合流して、母さんたちで話し合いが始まった。
「どんな状況?」
「私は魔王城でサシャと交戦。サシャを街に転移させて、残りの騎士団は魔王に任せてきた」
「まぁサシャとあの副団長さんがいなきゃ魔王は大丈夫だねー」
「俺たちは勇者コンビに負けちゃったぜ!」
「強かったよね。フェルにい。ユアちゃんたちがかたきをとってくれたけど」
「ああ。まさか勝つとはな!ビックリしたぜ!」
「あの勇者かなり強いんだけどねー。帰ったら話聞かせてね!」
「うん!」
「それで、私は佐々木小次郎に勝ったよ!かなり危なかったけどね!」
「「「おお」」」
「私は宮本武蔵に負けたわ。正直何度やっても勝てる気がしないわね」
「天下無双の肩書は伊達じゃないと。それで、この後どうする?さっきあの勇者4人組に聞いたけど、あの人たちはもう街に帰るって。またダンジョンで修行するって言ってた」
「そうだね~。魔王さんの様子見に行く?」
「そうね」
「賛成」
「じゃあ葵転移お願い」
「ん」
魔王城に向かうことになった。
みんなで手を繋いで葵母さんの転移で魔王城に移動。
「おお!中はこんな感じなんだ!日本だねー」
「木でできてるし、柱もあるわね。なんだか懐かしい雰囲気ね」
「和を感じる~」
騎士団の人たちがそこら中に倒れているのに最初の感想がそれなんだ。
やっぱり母さんたちは少しおかしいかもしれない。言わないけど。
奥を見るとユイカ先生と紅い髪の女の子が戦っている。
騎士団の人で立っているのはユイカ先生1人だ。魔王さんつよ~。
ユイカ先生の声が聞こえてくる。集中していて私たちには気づいてない。
「まったく。強いな。だが全員気絶で済ませてくれたのは感謝する」
「ん」
「この一撃で終わらせる!五連突!」
ユイカ先生が目にも止まらぬ速さの突きを繰り出す。
女の子は避けようとしない。当たっちゃう?
そのまま身体に剣が吸い込まれ…何事もないように女の子が先生を手刀で気絶させる。
「ぐ…無念…」
「物理攻撃は効かないんだ。生まれつきね。ん?君たちは…」
ユイカ先生をそっと床に置いた魔王がこちらに気づく。
「そこにいるのは…葵だっけ?仲間は無事だったんだ」
「ん」
「あなたが南の魔王?」
「そうだよ。フェスだ」
ついに魔王に会った私たち。
これからどうなるのかな。




