混沌のプレリュード
朝日視点
どうやら白百合騎士団の団長さんは生きていたようだけど、騎士団の人たちがここに来たことを歓迎してはいない様子。
「どうしてそんなこと言うの?シロ。一緒に街に帰ろう?」
「…できないわ」
「なんで!?」
「お願い…言うことを聞いて。クロ」
「意味わかんないよ!」
うーん。よくわからないけど、団長さん的には今の状況がよくないみたいだなー。私たちはどう動いていくのが正解かな?
「理由を言って!じゃないと帰れないよ!騎士団の半分を動かしてるんだよ!?」
「…フェスのことが好きになったの」
「は?」
「魔王のフェスが!好きになったの!だから一緒にいたいの!」
「はあああああ!?」
おっと?
さっき登場したときに確認したけどもう一度団長のステータスを鑑定してみる。
シロ 勇者 LV118
HP25200
MP27000
攻撃力18580
防御力17200
魔法攻撃力20120
魔法防御力19500
敏捷9360
運10
称号 ダンジョン制覇者 双璧の勇者
スキル
光魔法LV5
火魔法LV5
剣術LV5
集団戦法LV5
統率LV5
自然回復LV5
生活魔法LV5
スキルポイント
3000
うん。やっぱり勇者だよね。
そんな人が魔王に恋するなんて禁断の恋!?
でも勇者を生み出したロキの話では…勇者は魔王を倒すために生まれた存在だから自然と魔王を倒さなければいけないと思ってしまうって言ってたけど、そこまで強いものでもないのかな?人の心は縛れない!的な。
お。副団長さんが聞きたいことを聞いてくれている。
「でも…だって…シロは勇者なんだよ!?魔王を好きになるなんて絶対おかしいよ!」
「私も最初から好きだったわけじゃないわ。倒さないといけない存在だって思ってた。でもあの日、私がフェスの注意を引いてみんなを撤退させたときに大怪我をして意識が無くなったの。ああ…これで死ぬんだって思ったわ。でも気づいたらベットの上で寝ていたの。フェスが助けてくれたのよ。何日間も眠っていたみたいだけど、ずっと看病してくれて…どうして魔王なのに私を助けたの?って聞いたら、まだ生きてたから。だって。ふふ。おかしいよね」
「そいつおかしいよ!わけわかんない!殺しあってたのに助けるとか、変だよ!」
「攻め込んだのは私たちのほうよ。クロ。フェスは城を守るために防衛しただけなの。私たちが勝手に魔王は悪い存在だって決めつけていたのよ」
おお。勇者と魔王が和解している。
これは私たちにとっても理想の展開だ。このままの流れでお家に帰りたいんだけど…そう上手くはいかなかった。
「助けてもらったから、魔王を好きになったの?」
「それだけじゃないけども、好きになったわ」
「だから、私たちを置いて、あの城で魔王と一緒に過ごしたいってこと?」
「…ごめんなさい」
「…ふふ」
「…クロ?」
「ふふふ。わかった!シロは操られてるんだ!じゃないとおかしい!勇者が魔王と一緒に暮らすなんて!妹を捨ててそんなことするなんてありえない!」
ん?妹?
あ、副団長さんの称号にも双璧の勇者って書かれていたから、もしかして双子と双璧をかけてたりするのかな?顔もそっくりで髪色だけが違うし。
「私だってシロお姉ちゃんが大好きなのに…私のほうが絶対ぜっっっったい愛してるのに!…魔王は絶対に殺す。それでシロお姉ちゃんの洗脳を解く」
「私は操られてなんかいないわ!」
あれあれー?ややこしくなってきたぞー?
「全部隊に告げる!団長は魔王に洗脳されている!団長を救い出すには魔王を倒さなければいけない!全員突撃!」
「クロ!」
どうやら妹の副団長さんのほうが勇者の呪いは強いみたいだ。個人差があるのだろうか?双子だけど。
でも各部隊の人たちはどちらを信じればいいか分からず動きかねている。
そんな空気の中でも構わず動きだす影が!
「よっしゃあああ!待ってたのです!10番隊いくですよー!一番槍はいただきです!魔王はこのサシャがぶっとばすです!」
「「「「おおおおおお!」」」」
うわ!サシャが飛び出してった!なんてこった!
それに続く形で徐々に各部隊が城に向かって動き出してしまう。
「みんな待って!」
「待つのはシロだよっ!」
「っく!やめてクロ!」
「大丈夫。気絶させるだけだから。きっと街に戻ったら元のシロに戻るから」
騎士団を止めようとした団長さんに副団長さんが攻撃を仕掛ける。
姉妹対決になりそうだ。
ステータスはほぼ互角。スキル構成もほぼ同じ。
唯一違うところは火魔法と水魔法の違いくらいか。相性的に副団長さんが有利かな?
さてさて、私たちは魔王の助太刀に行きますか。サシャが怖いし。
「よし、私たちも魔王城に向かお…」
「やああっと見つけたぜぇ」
その声に反応したのか、人生で初めて向けられた殺気に反応してしまったのかは自分ではわからないけれど、咄嗟に後ろを振り向く。
私たちの背後にはいつの間にか4人の男女がいた。
男の子2人は見たことがある顔だった。
西の街の勇者とその相棒。レインとライドだ。
女の子2人は見たことのない顔だった。
外見は私たちと同じ女子高生くらい。
ぱっと見て奇妙な点が2つある。1つは服装が和服であること。この世界では和服を見たことがない。そしてもう1つ。何度試してもステータスが視えないこと。
あと剣を2つ差している女の子からずっと向けられている殺気。怖い。この人の前にいたくない。
「…先生。その殺気出すのやめましょうっていつも言ってるじゃないですか。あの子たち怖がってますよ」
「俺たちも初めて向けられたときは生きた心地がしなかったからな…気持ちはわかるぜ…」
「ああ。つい強いやつを見ると癖でな。悪い悪い」
「相変わらず阿呆だな。その殺気で気配がわかり易くなると何度も言っているだろうに」
「うるせえぞ」
息も出来ないような殺気が消えた。
ふぅ。やっと一息つける…
「朝日…大丈夫?」
「うん。なんとか。ちなみに夕陽は?」
「私は大丈夫よ。それで、朝日はあの2人のステータス視える?」
「…やっぱり夕陽も視えないかー」
「つまり」
「使徒だね」
ロキの使徒で確定だ。
ロキに『自分の使徒のステータスは視えないから』と忠告されたことを思い出す。
つまりこの2人が宮本武蔵と佐々木小次郎なんだ。
てっきり男の人だと思ってたけど…あんなかわいい女の子だったとは。
「確認するが…星宮朝日、小黒夕陽、楠葵、天木芽衣で間違いねえか?他にも知らない顔がちらほらいるが」
「そうだよ。ちなみに私たちからも質問。宮本武蔵さんと佐々木小次郎さん?」
「なんだ!知ってるのか!そうだぜ。こんななりになっちまったがな」
ああ…やっぱりかー。
「ここまで長かったぜ…」
「先生がダンジョンで修行するなんて言い出さなければもっと早く見つけられましたよ」
「そうだな。この阿呆のせいだ」
「うるせえな!せっかく若い身体が手に入ったんだから身体動かしたくなるだろ普通!」
えーと、生前より若い身体で転生したからダンジョンで身体をほぐしていたと…考え方が攻撃的だなー。
「まあ知ってるのかもしれねえが、ロキって神にこの世界で転生させられてな。そん時にお前たちが強いって聞いたもんで顔を見に来たってわけだ」
「ほうほう」
「んで、実際見て思ったのが…つええな!一戦交えねえか?」
再び殺気が迸る。
しかし今度は私たちに向けられたものではなく、夕陽1人に狙いを絞っている。
「あんたが二刀流って聞いたもんでな。どうだ?」
「…」
隣の夕陽の顔は険しい。
もう1人の女の子は私を見ている。
「俺の秘剣を返せる可能性があると聞いてな。ぜひ手合わせを願いたい」
「いやあ、無理そうですけどー?」
城に向かいたいのに!こんな恐ろしい人たちの相手しなきゃいけないの!?
でも逃がしてくれそうもない…
あまり戦力を分散させたくはないんだけど…この状況の最善手は…!
「私と夕陽で使徒を相手する!葵は城に向かって魔王のサポートをお願い!残りの全員で勇者レインとライドの相手!ユアとメアちゃんは芽衣のそばを離れないように!それでいいかな!?」
「仕方ないわね」
「ん」
「わかったよ~」
「あの兄ちゃんたちと戦えばいいんだな!」
「強そうだけど頑張ろうフェルにい!」
「あの怖い女の人とママたち戦うんだ…」
「朝日さんと夕陽さんなら大丈夫…なはず」
葵が転移で消える。
私の相手は長い剣を持った女の子。さっき秘剣がどうとか言ってたけど…怖すぎるよ…
さあ!ここが正念場だ。




