5歳児の華麗な戦闘を眺めているだけでお給金が発生するなんて最高な職場すぎるんですけど!
ユイカ視点
私はユイカ。白百合騎士団3番隊隊長を務めている。
主な仕事は初等部Aクラスの担任だ。
だが今日は学校に行く前に会議に向かわなくてはいけない。午前中は私の隊の副隊長であるジェーンに任せている。まじめな奴だから問題ないだろう。
今日は月に一度の定例会議だ。
各隊の隊長が唯一集まる会議。
隊は全部で20隊ある。
各隊に約100人の隊員がいて、日々変わる仕事のローテーションを隊毎にこなしていく。
会議では主にそのローテーションを決めるのだが…我々白百合騎士団は現在結成以来初の未曽有の危機に陥っている。
団長が魔王城に囚われているのだ。
あれは約半年前の出来事。
私たちは規模が大きくなり、そろそろ魔王を倒せると踏んで魔王討伐に出たのだ。
これまで何度か魔王にはちょっかいをかけ相手の力量を測っていたのだが、ついに団長が重い腰を上げた。
これまでの遠征で魔王城には魔王ただ一人しかいないことが分かっていたので、1番隊から5番隊までの約500人で攻め立てた。私も参加した。
ちなみに隊の強さは1番隊が最強(隊長は団長)、それから2番隊、3番隊…となっているので(ダンジョン攻略専門の10番隊は例外)実質最強編成だったはずなのだ。
一時は魔王を追い込みはしたのだが…魔王が人型から炎の鳥に変身してからは打つ手がなくなり一方的に攻撃された。
そして消耗戦になり、このままでは犠牲が増えると悟った団長が自ら殿を務めて全部隊を離脱させたのだ。
最後まで副団長は反対していたが魔王の魔法で気絶してしまったため、団長を止める者がいなくなった。
正直私が殿を務めると進言したかったが…悔しいが恐ろしくて声が出なかった…
そのまま団長は帰ってくることはなく、半年の月日が流れてしまった。
副団長は目が覚めた後しばらく放心状態だったが、今は部隊を再編成し、あの頃よりも確実に強くなっている。
副団長は団長のことしか頭にないようで、魔王を倒すために常に強い人材を探している。
おそらく副団長は今すぐにでも再び魔王討伐に向かいたいのだろう。
それが今回になるか次回になるか…
「揃っているわね」
副団長が会議室に入ってきた。
各隊長が座っているのを確認して副団長が教壇に上がる。
「まずは先月の各隊の成果を。1番隊と2番隊は問題なし」
「3番隊も問題なし」
「4番隊も…」
「…」
「はい。みんなご苦労様。よくやってくれているわ。それで、今日の本題なのだけれど。もう私は待てないわ。今月中に魔王城に乗り込み団長を救出します」
ざわざわと各隊長が話し合っている。
「静まりなさい。この半年間。死に物狂いで戦力増強に努めたわ。それもこれも団長を救出するため。それも先月で終わりよ。もう今すぐにでも行きたいくらい」
「意見を述べてもよいですか?副団長殿」
「いいわよユースチュール」
「大変申しにくいのですが…団長が生きている保証がありません。むしろその可能性は低いと私は考えています。今再び魔王と戦い、白百合騎士団の数を減らすのは…」
「ぜっっっっったいに生きてます!」
「…ですが」
「生きているわ!団長が生きていないなら私は死にます!」
えええええええ。
「それに今回の遠征は団長の生死の確認も含んでいます。もし死んでいるのなら…私は魔王を刺し違えてでも殺す。ぜっっっったい殺す。これは決定事項」
やばいよこの人…団長好きすぎるよ。
「わ、わかりました…では、肝心の編成は?」
「今回は10番隊もダンジョンから戻らせて1~10番隊で行きます」
再び部屋がざわめく。
この部屋は学校の教室のようになっていて、一番左前から1番隊、その後ろが2番隊…というように座席が指定されているが、唯一10番目の席だけは常に空席になっている。今もダンジョン攻略の最中なのだろう。
私もダンジョン攻略完了後に戻ってくるわずかな時間にしか10番隊を見たことがないが、いずれも圧倒的強者だった。
10番隊はいわば魔物退治のスペシャリストだ。前回の討伐時は不参加だったのでこれは心強い。
「街の維持はどうするのですか」
「11番隊から20番隊で死に物狂いで守ってください。ユースチュール。あなたを臨時で街の最高責任者に置きます。頑張って」
「わ、わかりました」
「ユイカ。マナ」
「「はい」」
副団長に名指しで呼ばれる。
「学校と孤児院で今回の討伐任務に参加できそうな人材はいる?」
私は学校の優秀な人材をすべて把握している。だがその中に今回の遠征に連れていけそうな学生は正直いない。
孤児院の管理を任されているマナもつれていける子はいないようで首を振っている。
だが…いや、ありえないが、唯一試験で教員を破ったあの5歳児2人は…いやいや、荷が重すぎるし、第一私が自分の目で実力を確認したわけではない。やはりここはいないと答えるしか…
私はかなり長考してしまっていたようで、副団長から再度質問される。その質問に私の口はつい答えてしまった。
「ユイカ。少しでも団長を助け出す確率を上げたいの。たとえ0.01%でも。生徒には酷かもしれないけど、私は団長を助けるためだったらなんだってするわ。もしいい人材がいるなら紹介して頂戴」
「…2人、前回の試験で教員を模擬試験で倒した生徒がいる。だがその子たちはまだ初等部の子供。しかも私自身でその実力を確認できていない」
「そう…実力はいつわかるのかしら」
「今日の授業で確認するつもりだが…」
「じゃあ。もしその実力が本物なら、放課後私の執務室までその二人を呼んで頂戴。私が直接話すわ」
「…わかった」
私はアホか!あんな小さな子の情報を渡すなんて!
でも副団長のあの切羽詰まった様子を見るとつい何かしなければと思ってしまう…
会議が終わり、昼食を取り重い足取りで教室に向かう。
兎にも角にもユアとメアの戦闘能力を測らなくては。話はそれからだ。
気持ちを切り替えて扉を開ける。
「みんな揃っているな。早速だが今日は白百合騎士団の重要な仕事の1つ、魔物退治をしたいと思う」
教室から歓声が上がる。
なまじこの子たちは実力があるからな。自分の力を試せる場が欲しかったんだろう。その気持ちはわかる。それにまだ子供だ。どれくらい危険か、どれだけ難しいかの察知ができないのだろう。私たちでしっかりサポートして安全に授業を行わなければ。
魔物を倒すには街の外に出なければならない。
というわけで子供たち7人を連れて草原に出る。
念のため私の部下も各ペアにつける。これで一応の安全は確保されるだろうが、今回は初だからさらに万全を期そう。
「いいか。魔物は君たちが思っている以上に危険な存在だ。彼らは躊躇がない。子供だろうが老人だろうが容赦なく命を奪いに来る。十分注意するように」
「当然ですわ!」
「君たちは僕が守るよ」
「楽しみだね!メアちゃん!」
「ユアが楽しそうで何より」
みんな気分が舞い上がっているな…
「よく聞いてくれ!これから君たちにバリアの魔法を掛ける。このバリアはここにいる魔物の攻撃なら10発は軽く耐えてくれるだろう」
「「「おお!」」」
「ただし、5発!攻撃を受けたものは今日の授業は終了だ!君たちのそばで私の部下が見ているから、攻撃を受けた時点で教室に部下と帰ってもらう。わかったか?」
「わかりました!」
「よし。ここにいるのはジャックアントとレッサーゴブリンだ。万が一それ以外の魔物が出たら部下に処理させる。前回と同じペアで行動し、魔物を見つけ次第対応してくれ。制限時間は2時間だ。では開始」
前回と同じペアにしたのは私がスーとペアになるためだ。
今回の目的はユアとメアの実力を見ることなので、やる気のないスーの相手はむしろ歓迎だ。
ペアごとに違う方面に歩き出す子供たち。スーだけは動かずにこちらを見ている。
「スー。今日は特別に寝てていいぞ」
「本当!?ユイカおばさん大好き!!」
ふふ。都合のいい奴め。だがかわいいから許す。
スーを抱っこしてユアとメアが向かった方向に先回りする。
…いた。彼女たちの進行方向上にレッサーゴブリンが4匹。このまままっすぐ進めば戦闘になるだろう。
にしてもまたジェーンが彼女たちの担当か。
3人で手を繋いで仲いいな。
だがレッサーゴブリンの気配を察知すると2人の目つきが変わった。
ふむ。初等部の反応ではないな。素晴らしい。
すぐさま戦闘態勢に入る2人。
かなり遅れてレッサーゴブリンも3人に気づき手に持っていた武器(棒)を構える。
どうやらレッサーゴブリンは2対1ずつで仕留める気のようだな。
そちらのほうが2人の戦闘を見ることができるので私としてもありがたい。
資料によるとユアは体術で教師を圧倒したらしい。
メアは幻覚魔法をかなり高いレベルで使いこなすと資料に書かれている。
5歳児の体術で大の大人を圧倒できるものなのか。そして幻覚魔法といえば消費するスキルポイントが非常に高いことで有名だ。そもそも覚えられないものも多い。また実践で使えるレベルなのか、そもそも本当に使えるのか…確認するのはこんなところか。
まずはユアが動き出した。腰に差していた短刀を抜く。
え!?ユアの後ろに男の子が現れた?
2人の後ろで見ているジェーンも驚いているからやはり突然現れたのだろう。
その少年とユアが少し話した後にユアが走り出す。速い!
一瞬で二匹の中央を駆け抜け、いつの間にか納刀している。
私が目で追いきれないだと?
当然のようにレッサーゴブリンの首は落ちている。
これは…想像の遥か上だ。私より強いかも…
いやいやまさかな…
気を取り直してメアを見る。
あ。もう終わってるっぽい…
レッサーゴブリンが何もしていないのに突然苦しみだし、そのままぴくぴく痙攣して動かなくなってしまった。
そして驚いたことに、レッサーゴブリンが燃え焦げていた。
私の目が確かなら、燃えるという事象を飛ばして気づいたら焦げた状態になっていた。
聞いたことがあるが…脳が燃えていると認識してしまうと、それが例え幻覚であったとしても本当に焦げ跡がつくことがあるとか…それか?
う~む。思った以上に…優秀だ。
あの年齢でこの強さとは恐ろしい。いったいどんな教育をしているんだ親は。モンスターペアレントか。
これは副団長に報告しないわけにはいかなくなってしまった。
今隠し通したとしてもすぐにバレてしまうだろうし。
あるいはこの時期に彼女たち2人が転校してきたのは神様からの贈り物か…いや考えすぎだな。
それからも問題なく2人は魔物を狩り続けていく。
実力は本物だ。
当然成績はユア・メアがトップだったことは言うまでもない。
まあ、他の子も流石はAクラスといったところか。初の魔物退治を無事成功させたようだ。
そして時間は流れ放課後…
「では今日の授業はこれで終わりだ。それでユアとメア。ちょっと話があるんだが、これから時間貰ってもいいか?」
「はい?いいですよ!」
「私も大丈夫です」
「すまんな。ちょっと私についてきてくれ」
はぁ。この子たちを副団長に合わせるのは嫌だな…




