とんでもない4人組が街に来たようです
宿の女将と街の大臣視点の話です。
―銀波亭女将 サーシャ視点―
私はキールの街随一の宿屋、銀波亭の女将をやっている。こう言っては何だが、順風満帆な人生を送り、若くして店を構えることができた。
そんな私の勘はよく当たるのだが、その勘が告げていた。この4人には最大限の敬意を払うべきだと。
チェックインの忙しい時間帯が終わり、ぼちぼち人が引き始めた頃にその4人は現れた。まず目を引いたのが服装だ。今までで見たこともないほど精緻な作りで、何の素材を使っているのか検討もつかない。その上4人とも同じような服を着ていることから、4人全員が同じくらいの立場なのだろう。
そもそも、この宿はかなりランクが高く、当然値段も他の宿よりも高い設定だ。見た限り15,6歳の少女が気軽に泊まれるような場所ではない。
というか、近くで見ると全員が美少女だ。こちらへにこやかに話しかけてきた子は中性的で、声を掛けられた時に思わずドキッとした程だ。その女の子を何やら熱心に見ている女の子は背が高くスラッとしていて、長い黒髪がサラサラで美人だ。
その横で心配そうにしている女の子はかなりの巨乳。私も大きさには自信があるが、あの子のほうが確実に大きいだろう。顔もかわいらしい。
そして最後の女の子はちっちゃい。座敷童みたいだ。じぃーと私のほうを見つめてきているのだが。抱きしめたい。
とまぁ4人とも個性的で全員存在感がある。
そんな4人に見とれているときに、またしても私を驚愕させるものが。宿泊代を払うときに中性的な女の子が出した財布だ。何このかわいらしい財布は?私のものもそうだが普通の財布は白か黒か茶色の四角い無骨のものが一般的だ。というかそれしか見たことがない。なのにこの子の財布はピンク色!しかもお馬さんとか羊さんとかかわいらしい絵が一杯表面に描かれているわ!30代の女がお馬さんとか言うなと言われるかもしれないが、「馬」ではなく「お馬さん」という感じの絵なのだ。わかっていただきたい。あぁ、どこで買ったのかしら。私も欲しい。
しかし今は従業員とお客様の関係だ。無用な会話は極力するべきではない。あぁでもやっぱり欲しいぃぃぃ。
そんな葛藤の中、何とか表面上はできる女を維持しつつ最大限の礼儀を持って接した。その甲斐あってか4人とも笑顔でお部屋に向かわれた。そして4人が部屋に入っていく音を聞き届けた後、ふうと一息つく。
「店長。今のお客様は…」
他の従業員もこちらを見ている。どうやら皆もあの4人が只物ではないと感じたようだ。
「皆が考えている通り、あの4人はおそらく私たちが考えている以上の大物だと思うわ。失礼のないように、最上級の敬意を払って接客しなさい!」
「「「「「「「はい!」」」」」」」
「料理長にも、今日の料理はいつも以上に気合入れて頂戴と言ってきて!初日が肝心よ!」
「わかりました」
「よし、業務に戻りなさい」
あの4人にこの宿を気に入ってもらえるように。
精一杯頑張ろうとサーシャは誓った。
―ジェファール視点―
今日も今日とて確認しなければいけない書類が数多くあるので必死に処理していく。自分で言うのもなんだが大臣という立場なだけあって仕事が多い。
そうした国にとって必要な仕事を着実にこなしつつ、そろそろ休憩しようかというときにその報告はもたらされた。見たこともないような強力な剣を売ろうとしている者が西門にいるとのこと。
曰く、城にある宝物庫のどの剣よりも優れているのではないかとのこと。気になった私は一旦作業を止めて見に行くことにした。
「それが例の剣かね。衛兵長」
「は。これは大臣殿。その通りです。ご確認ください」
剣を受け取る。ふむ、軽いな。そして持った瞬間に理解した。剣の価値など正確にはわからない私でも、この剣の格は今まで見たどの剣にも勝っていると。
「確かに、素晴らしい剣のようだ」
「大臣殿、その剣の価値は振ることによってよりわかるかと」
「ふむ、どれ……何?!」
信じられないことに剣から炎が迸る。私は火魔法を取得していないしそもそも魔法を発動させてすらいない。つまりこの剣の力ということだ。
「凄まじいな。この剣の所有者は西門にいるのだったな」
「はい、今から私が値段交渉に行くところです」
「ふむ、その値段交渉、私が行ってもいいか?」
「はい、もちろんでございます。こちらが交渉に使おうと思っていた光金貨です」
光金貨を渡される。ふむ、10枚か。確かに庶民にとっては大金だな。
しかしこの剣はそれ以上の価値があるだろう。この剣があればあの計画も前倒しで進めることが出来そうだ。
「一応光金貨50枚用意しておけ。それと金貨も500枚ほど用意してくれ」
「は。かしこまりました」
「準備ができ次第向かう」
そして西門にたどり着き、件の4人を確認する。4人ともかなり幼い。まだ15前後のように見える。本当にこの剣を持ってきたのが彼女らなのか疑問を覚える。
……いや、見た目で判断していけない。この世界は高レベルの低年齢層も決して少なくはない。見た目とステータスが合っていないことなど日常茶飯事だ。油断せずに交渉する。
結果的に剣はかなり安く交渉できた。通行証が欲しいからこの剣を売るというなんだか拍子抜けする理由だったため、試しに10枚から交渉してみたところあまり抵抗されずに了承してくれた。
宿のおすすめを聞かれたため私が目を掛けている宿を紹介する。そして4人を笑顔で見送った後駆け足で城に戻り衛兵長に連絡を取る。
「大臣殿、無事交渉が終わったようで何よりです」
「うむ、衛兵長、例の4人組だが、しばらく監視をつけてくれ。あれほどの剣の所有者だった者たちだ。一応用心しておこう。何かあれば報告してくれ。今は銀波亭にいるはずだ」
「は、かしこまりました」
さて、この町にとって有益なのか有害か。前者であることを祈ろう。