「料理くらい作ろうと思えば作れる」って作ったことない人はなんであんなに自信満々なんだろう?
北の魔王城にお泊りした翌朝。
ドドドドド…という地響きで目が覚める。
「地震!?」
「朝日!あれ!」
夕陽が起きて窓の外を指さす。
ベッドから飛び起きて窓の外を確認すると、視界一杯の魔物が列をなして宮殿に殺到している。その数はとてもではないけど数えられない。
「うわ!あんな数と今日戦うの!?」
「多いわね。とにかくみんなのところに向かいましょう」
部屋を出て昨日夕食を食べた部屋に向かう。
芽衣と葵もこの終わらない地響きで目が覚めたようだ。
「これだけ多いと村とか街を襲っちゃうのもわかるね」
「私たちだけで何とかなるかしら」
「私たち4人と、魔王3姉妹。それにスイナさんか。一人一人は強いけど数が違いすぎるね」
「助っ人を呼ぶ」
「誰?」
「ちょっと行ってくる」
葵が転移で消える。
その間に他のメンバーもやってきた。
「おはようなの」
「あはよう。ミユちゃん。あんなに魔物呼んだの?」
「そうなの。思ったより多かったの」
「それだけミユが統制をサボっていたということじゃぞ」
「ごめんなさいなの!」
「それで、葵はどこじゃ?」
「葵は助っ人を連れてくると言ってどこかに行ってしまいました」
「あ、戻ってきたわ」
葵がルコアさんとダハクさん、そしてサシャを連れて戻ってきた。
凄い戦力を引っ張ってきたね…
「ミユ!」
「サシャ!」
ミユちゃんとサシャちゃんがお互いを見つけるなり走り寄って、手を繋いで喜んでいる。
2人は私たちの結婚式で仲良くなっていたからね。
思うに、体格が似ている友達が今までいなかったんじゃないかな。
ちなみにサシャちゃんはミユちゃんと反対側の目に眼帯を付けていた。
「おお!結婚式の時の神父様とシスターさんじゃ!」
「お久しぶりです。スイナさん。シスター改め、西で魔王をしています。白銀竜王ルコアです。以後良しなに。勇者スイナ」
「神父改め漆黒竜ダハクである。今日は魔物退治の助っ人として我が友、葵の要請を受けて参った」
「なんじゃと!?」
「魔王とか言っちゃっていいんですかルコアさん!」
結婚式では隠していたのに!
こんなにあっさり正体をバラしちゃったらマズいんじゃ?
「葵から理解ある勇者だと聞きました。勇者スイナ?魔王は魔物を制御しています。この意味が分かりますね?」
「魔王が居なければ魔物は今以上に人を襲うようになるじゃろう。頭ではわかっておる。…じゃが、心の奥底では魔王を倒さなければいけないと何かが訴えておる。なんとも不快な気持ちじゃ」
「魔王を倒すための勇者ですから。魂に敵だと刻まれているのでしょうね」
「厄介な役割を押し付けられたものじゃな」
「自分の意思をしっかり持ってください。勇者スイナ。…そして、あなたが北の魔王ですか」
「そうなの」
「どうして魔王城を離れていたのですか?」
「おうちにいるのが退屈だったの」
「退屈なら、退屈でなくなるように工夫なさい。趣味を見つけるなり、何かの研究をするなり」
「今スイナに露天風呂を作ってもらってるの!それが完成したら退屈じゃなくなるの!」
「そうですか。今後は気を付けるのですよ」
「はいなの」
ルコアさんは教師に向いているかもしれないね。ミユちゃんが生徒にしか見えない。
スイナさんが私に耳打ちしてくる。
「ずいぶんしっかりした魔王様じゃの」
「ドSですけどね」
一か月間、厳しく鍛えられましたからね。
日本なら体罰でニュース案件だよ!
おかげさまで強くはなりましたけども!
「何か言いましたか朝日?」
「いやー今日もルコアさんはお美しいなー」
「あらあら。ありがとう。それでこれからの予定を聞いていいですか?」
「そうですね!まずは朝ごはん食べましょう!」
腹が減っては戦は出来ぬ!
久々のルコアさんの手料理を食べて元気全快。
「西の魔王さんの料理は美味しいわねぇ。ミユも料理を覚えれば?」
「そうね。魔王対決はちょっとルコアさんに負けているわよミユ」
「私だって料理くらいできるの。やろうと思ったらいつでもできるの」
「ミユの料理食べたことないんだけどぉ…」
「じゃあ今日のお昼はミユの手料理ね。ちょっと食べてみたいし」
「わかったの。みんなが戦っている間に極上の料理を作っておくの」
不安しかない!
料理くらいできるって言うから作らせた料理がおいしかったことない。
ここは私たち一番の料理上手。夕陽に任せる!
「ミユちゃん。夕陽をお手伝いさんとして使ってよ。いいよね、夕陽!」
「え?別に良いけど」
「ユウヒ!一緒に美味しい料理を作るの!」
「わかったわ。一生に頑張りましょう」
これでお昼は一安心!
「夕陽ちゃんとミユちゃんが料理担当で、他の皆は魔物と戦うの?」
「そうですね。私はそのつもりで来ました」
「我もだ。久しぶりに龍化して戦おう」
「大魔法をぶっ放せると聞いて来ましたです!」
「私たちも頑張るわぁ。ね、スノー」
「ちょっと頑張りどころね、エレーア」
「勇者としては魔物退治と聞いて黙ってはおれんのう」
と言うわけで夕陽と芽衣を除いた全員で門の前まで来ました。
目の前には今か今かと待機している魔物の大軍が。
「これ全部でどれくらいいるんだろう?」
「100万くらいですかね」
「最初は私が!私に撃たせてくださいです!」
「サシャちゃんの攻撃で開戦だぁ!」
意気揚々とサシャちゃんが魔力を練る。
「邪王滅殺獄炎破に風魔法を複合させた私の究極魔法!万物を無に還す至高の最奥!【邪皇滅殺獄炎暴風裂破】!」
恥ずかしい!技名恥ずかしい!!
獄炎の台風は魔物がひしめいている中央に向かって進む。
弱い個体はその存在を消滅させ、強い個体は台風に巻き込まれ炎の渦に飲まれる。
その獄炎の台風は進むにつれて小さくなるどころか魔物を巻き込みながら膨れ上がっていく!
初めは、おお!凄い!と素直にサシャちゃんを称賛していたけど、だんだん規模が大きくなる台風に次第に口数が減っていく。
……え?あれマズくない?消えないんですけど?
前方にいた魔物は台風が大きくなる前だったので生き残っているが、後方の魔物はほぼ大きくなった台風に飲み込まれている。
「凄い魔法だけど、あれサシャちゃん消せるんだよね?」
「……」
「あのままだったら大災害になるけど」
「ふゅるるるる~♪ふゅる~るる~」
「口笛うまっ!」
私は口笛に誤魔化されたけど、ルコアさんは騙されなかった。
「…サシャ?」
「ひゃい!…ずるっ子!得意の消す魔法で何とかしてくれです!」
何とか出来ないんかい!そして葵に頼むんかい!
「何とかしてください。だよね?」
「何とかしてください!です!」
「はぁ。芽衣、ついて来て」
「うん。みなさん!頑張ってください!」
葵がジト目でサシャを見ながら芽衣といなくなる。
あの2人なら大丈夫かな?
台風は縦横無尽に動き不規則に暴れまわっていたが、恐らく芽衣の魔法障壁であろう白の壁が台風のルートを固定するように道を作る。
台風は壁にぶつかりながらもまっすぐ進むようになり、その終着点の穴に落ちて行った。
これは葵の空間魔法だと思う。
無事台風は消えたが、ルコアさんはまだ怒っているようだ。顔は笑顔だけど。
「葵と芽衣のお陰で今回は何とかなりましたが、今後自分で制御できない魔法は使用を禁止します。わかりましたか?サシャ」
「何で魔王のお前に命令されないといけないのですか!」
「わ・か・り・ま・し・た・か・?」
「ひゃい!」
「よろしい。帰ったらまた戦ってあげますから今日はもうミユさんと遊んでなさい」
「ううう!覚えてやがれです~!!」
サシャちゃんが宮殿に戻っていく。
「…凄い人間だったわねぇ。半分以上の魔物が消滅したわよぉ」
「ちょっと怖いわね」
「あの子は常識が無いですからね…」
「サシャちゃんは魔王城で暮らしているんですか?」
「そうですね。四六時中私と戦いたいと駄々をこねていますね。その度にいじめてあげていますが。最近は私の城も賑やかです」
あ~それでサシャちゃんはルコアさんに若干怯えているんだね。
「それでは私たちも戦いましょうか」
「そうであるな」
ルコアさんとダハクさんが龍に変身する。
私も龍に変身して、戦闘に便乗しようと思います!
ルコアさんは白銀、ダハクさんが漆黒。
私何色にしよう?赤でいいかな?
『朝日も龍に変身ですか』
『我らは上から戦うとしよう』
『よろしくお願いします!中心行きましょう!』
上空に飛び立ち、魔物の大軍の中心地に向かう。
これで前方がエレーアさん、スノーさん、スイナさん。
真ん中に私たちドラゴンズ。
後方が葵・芽衣ペアとバランスが良くなった。
サシャちゃんのでたらめな魔法でかなり数が減ったけど、まだまだ数は多い。油断しないようにないと。
前方の3人だけ戦闘能力が未知数だけど…
前を確認すると、スノーさんが素手で魔物を吹き飛ばしている。
エレーアさんは応援しているだけ?
そういえば出会った時鑑定でステータスを見たけど、転移の魔眼と言う珍しい能力は持っていたが、あまり大軍相手に有利な魔法は無かった。
スノーさんはどうやら身体能力が凄く高いみたいだ。それに強化の魔眼と言うスキルもあった。武闘派なのかな?
スイナさんは土のアーマーを装着して戦っている。
変身ヒーローに出てくる合体ロボットみたいな。
どうやら任せても大丈夫そう。
後ろは葵がすぱすぱ空間魔法で倒してアイテムボックスに収納している。
それに召喚魔法で四聖獣(白虎とか玄武とか)も呼び出して戦わせているみたいだね。
芽衣は【譲渡】のスキルで葵のMP補給。あとは応援している。
そして肝心の私たちは、ルコアさんが無双しています。
手を動かすだけで風が吹き荒れ魔物たちは吹き飛び、しっぽを揺らすだけで数十体の魔物が戦闘不能に。ダハクさんもブレスで周辺の魔物を倒している。
…こりゃ、中央の応援係は私で決まりだね!
と言うわけで、エレーアさんや芽衣と同様に頑張れコールをする私。
そして応援することしばし、あれだけいた魔物はあっという間に減っていた。
お昼ご飯までには決着つきそう。
そんなことを考えているとルコアさんが話しかけてくる。
『せっかく3頭の龍がいるのですから、同時にブレスを合わせましょう』
『それはいい考えだな。姫』
『トリニティブレスですね!』
一旦宮殿の近くに戻る。
葵と芽衣も私たちの動きを見て戻って来てくれたようだ。
「どうしたのじゃ?まだ魔物はおるが」
『大技をここから撃とうと思いまして』
『ちょうどお昼ですし、これで終わらせます』
「お手並み拝見ねぇ」
「3頭の龍の大技。ちょっと期待するわね」
『危ないので私たちの後ろに居てくださいね』
全員が下がったのを確認し、私たちは横一列に並ぶ。なぜか私が真ん中だけど。
「朝日に合わせるので、いつでもどうぞ」
「全魔力を使う気でな」
よーし!いっちょやったりますか!
今回は赤龍に変身しているので、火のブレスだ。口の中で魔力を目一杯溜めて、放出する。
左右からほぼ同時に白と黒のブレスが発射され、3つが混ざり合い回転し、周囲を軒並み破壊する波動を生み出す!
直撃した魔物はもちろん、周囲にいた魔物も一緒くたにその生命を終わらせる。
後に残っているのは抉れた地面だけ。
「最後に凄いものを見ることが出来たのう」
「恐ろしいわねぇ」
「ちょっとどころの威力じゃなかったわね」
全員びっくりした様子で前を見ている。
私も予想以上の威力にびっくりだよ。変身を解除してみんなの方を振り向く。
「いやー無事終わったね」
「これで後は温泉が出来れば一段落じゃな」
「あ、夕陽とミユちゃんとサシャちゃんだ!」
ゲートを抜けてこちらに走ってくる3人。手には木で出来たバスケットを持っている。
「サンドイッチ作ってきたのー!」
「自信作です!」
「はぁはぁ…2人とも走るの速いわね」
お昼はサンドイッチみたいだね。
流石に失敗しないでしょ!
たくさん動いたからお腹減ったー。
その場でシートを敷いてサンドイッチを頬張る。美味しい!中身はお肉と野菜だった。
「美味しいよ!」
「本当?嬉しいの!」
「私が手伝ったんだから当然です!」
「サシャちゃんは味見しただけでしょう」
「それも立派な仕事です!」
たくさん作ってくれたみたいでおかわりがたくさんあった。
はぁ。外で食べる食事は美味しいなぁ。
「魔物の増加は一件落着かな?」
「そうじゃな。これで魔物の襲撃に困ることもなくなるじゃろうしの」
「温泉楽しみなの!」
「じゃあ北の街はこれでしばらく平和かー」
『平和じゃあ困るんだけどねえ』
…後ろから聞きなれない男の子の声が聞こえた。
後ろには何もいないはずなのに?
振り返ると一人の少年がいた。シルクハットを被った少年。
そしてその顔には見覚えがあった。
私そっくりの顔。
たぶん私が男の子に生まれていたらこんな顔立ちだっただろう顔。
夕陽が信じられないものを見るような顔で問いかける。
「あさ…ひ?誰?」
『僕かい?僕はロキ。楽しいことや面白いものが大好きな神さ』
ロキ。その少年は自分のことを神だという。
そして私に目を向けて改めて語り掛けてくる。
『初めまして。僕と同じ変身魔法を使うことが出来る少女。星宮朝日さん。そしてその愉快なお仲間たち。僕が魔物と勇者を創った神様だよ。今後ともよろしくね』




