あの街の温泉はあたしが全部掘ったのじゃ
温泉が無いなら掘ればいいじゃない!
ミユちゃんの為に温泉を掘ると宣言したスイナさん。
でも温泉ってそんなに簡単に掘れるものなのかな?
「安心せい。こう見えても若いころは掘って掘って掘りまくる日々だったのじゃ!温泉の一つや二つ余裕で湧き出させてみせるのじゃ」
スイナさんは見た目10代の女の子だからね。
口調のせいでそうは思えないかもしれないけど。
スイナさんは腕をぐるぐる回してやる気満々。道具は何を使うんだろう?掘削機なんてこの世界にないよね?
「どうやって掘るんですか?スコップなら用意できますけど」
夕陽のスキル・武器生成で作れると思う。
「スコップでちまちまやっとったらいつまで経っても温泉は見つけられんぞ。どれくらい掘れば温泉が湧き出るか知っておるか?」
「えーと、100メートルくらい?」
「そんな浅かったら誰でも温泉当てられるじゃろ!大体1キロメートルじゃな」
「1キロメートル!?」
それはスコップで掘ってられない!
「じゃから、こうするのじゃ。【クリエイトゴーレム】!」
スイナさんが地面に手をかざし魔法を唱えると、土から3メートルくらいのゴーレムが10体と、それらとは別次元クオリティの、スイナさんと同じビジュアルの土ゴーレムが1体生み出された。
それぞれの手には土のスコップが装備されている。
一度にこれだけのゴーレムを作り出すとは。流石勇者様。
「こやつらにひたすら穴を掘ってもらうぞ」
「どれくらい掛かるの?」
「そうさな。1週間もあれば源泉までたどり着くと思うぞ」
「そんなにすぐ見つけられるんですか!」
「そうじゃな。大体ここ!と思ったところを掘れば見つけられるからのう」
直感LV5すげえ!
「温泉を作ってもらえれば、ミユもちょっとはここに居たくなるかもね!エレーア!」
「そうねぇ。私たちも温泉に入れるのでしょう?いいわねぇ」
「温泉がおうちに出来るの!とっても楽しみなの!」
3姉妹にとっても嬉しい申し出だったみたい。
家が超ゴージャスなエカテリーナ宮殿で敷地内に温泉があるとか。
とんだブルジョワだよ!
「ちょっと宮殿の周りを確認して、温泉が眠っていそうな地面を探してくるとしよう」
「私も行くの」
「せっかくだからみんなで行こうか」
スイナさんを筆頭に3姉妹、私たち4人、ゴーレム部隊とぞろぞろ歩き出す。
宮殿の周りは雑草一つなく、とてもきれいに整備されている。
「手入れがしっかりしてますね」
「そうでしょう。私たち二人で頑張ったのよぉ」
「ちょっと大変だけどね。時間はたくさんあるから」
「周辺と宮殿の掃除とかもありますよね?大変じゃないですか?」
「それがそうでもないのよぉ。私たち姉妹は魔力だけは馬鹿みたいにあるからねぇ。生活魔法のクリーンを魔力多めで使えばあまり手間をかけずにピカピカになるわぁ」
「特にミユの魔力量は凄まじいから、どんなに汚くても新品同様になるわね」
魔力を流す量をコントロールすることでスキルの威力を上げ下げできるのか。これはいいこと聞いた。今度試してみよう。
それからしばらく歩いていると、スイナさんがピタッと立ち止まる。
「…ここら辺が怪しいのう。岩ちゃん!」
「ハイ、わが主」
「ここを中心にして掘り進めてくれるかのう」
「かしこまりマシタ。早速はじめマス」
喋った!?
スイナさんそっくりの土人形(岩ちゃん?)がゴーレムたちに口頭で指示を出している。
「話すことが出来るんですね」
「岩ちゃんだけ特別製じゃの。あの子に任せておけばいいから楽じゃわい。あとはのんびり待っておればええ」
ゴーレム部隊が早速スコップで掘り始めようとするが、芽衣が何か思いついたように手を挙げる。
「あ、私お手伝いできるかもしれないです!」
「ん?芽衣がかの?」
「はい。ノームさん!出てきて!」
芽衣が精霊魔法で土精霊のノームを呼び出す。
ノームはドロドロだけど一応人型で、膝くらいの大きさだ。
「ムウ?」
「ノームさん。あそこの地面を柔らかくすること出来るかな?」
「ムウ!」
ノームさんがとことこゴーレムのいる場所に歩いていき、中心で体育座りをする。
傍から見るとゴーレムに囲まれ、絶体絶命過ぎて達観している子みたい。
「ええと、もう掘ってみていいかの?」
「大丈夫だと思います」
「岩ちゃん!よろしく頼むぞ!」
「ハイ。…!!確かに土が柔らかくなっていマス。これなら大幅に時間短縮できるカト」
「おお!」
「よかったぁ」
「ですが…邪魔デスネ」
「ムウ!?」
あれだとノームさんが邪魔で中心掘れないね…
でもそれ以上にメリットがありそうだからと結局ノームさんには居てもらうことになった。
「さて、あとは任せて大丈夫じゃろう」
「1週間何していようか?」
「でしたら、あなたたちをわが家へ招待するわぁ」
「ミユがちょっとお世話になったみたいだしね」
「本当ですか!ありがとうございます」
「歓迎するの」
エカテリーナ宮殿に入れるなんて嬉しい!
これで魔王城訪問は2か所目だね。
改めて入り口に戻り、ゲートから入る。
門は金で作られていて、某テーマパークみたいだ。
宮殿の中に入ると、壁一面が金で作られた部屋に始まり、食事をする部屋も浴室も廊下だってとにかくどこ見ても金!
どれだけお金掛けているんだろう…地球にある宮殿も同じなのかな?
「ほわあ。凄いねえ」
「どこを見ても金色ね。どんなお金持ちが建てたのかしら」
「第2代ロシア皇帝エカテリーナが建てた」
「エカテリーナ宮殿だからエカテリーナさんが建てたってのはわかっていたけど、皇帝だったんだ。そりゃ、こんなに豪華にもなるね」
「お風呂も滅茶苦茶広かったよ~!金ぴかで!ミユちゃん何が不満なの?」
「お外で空を見ながら入りたいの」
「なるほどね。それじゃあもう少ししたら露天風呂できるし最高だね!」
「そうなの!楽しみなの~」
これでミユちゃんも魔物の制御を少しはしてくれるようになるかな?
あ、魔物集めるのってどうなったんだっけ?
「ミユちゃん。魔物を集めて数を減らす作戦はどうなったの?」
「あ!温泉のことで頭がいっぱいで忘れてたの!」
「そこは忘れちゃダメじゃろ…」
「今日はもう夜になるし、明日でもいいんじゃないかしら」
「それだったら泊まっていきなさぁい。部屋はたくさんあるからぁ」
「55部屋もあるのよ!ちょっと私たちだけだと持て余し気味なのよね」
この宮殿に泊まれるなんて!日本だったら1泊100万円くらいしそう!
「是非お願いします!」
「まだまだ見ていないところがたくさんあるし、お言葉に甘えさせていただくわ」
「あたしもいいのかのう?一応勇者なのじゃが…」
「ミユはスイナのこと好きなの。魔王も勇者も関係ないの」
「…ありがとうのミユ。あたしもミユのことは好きじゃぞ。今日は泊まらせてもらうとするかの」
「じゃあ一緒に寝るの!」
「はっはっは。わかったわかった!くっつくでない」
この二人が戦うことにならなくてよかった。
これからも仲良くしていってほしい。
部屋もベッドもたくさんあるから好きなところで寝ていいとエレーアさんが仰ってくれたので、いつも通り私と夕陽、芽衣と葵のペアに分かれて寝ることになった。
どうしてベッドがたくさんあるんだろう?と葵に聞くと、どうやら皇帝はここで愛人たちと避暑地として暮らしていたからだと言っていた。羨ま…けしからんね。
さて、明日は魔物の数を減らすためにミユちゃんがこの宮殿に大量の魔物を終結させて、私たちが戦うことになるみたい。
私たちって大量の敵と戦ったことが無いんだよね。ワイバーンの群れくらいかな?
でも絶対あれ以上の規模だよね。
私のスキルの中で多数の敵に有効なスキルは変身魔法と重力魔法。
何に変身するか寝る前に考えとかないと!




