魔王城で結婚式!? 後編
「それでは、本日の主役に登場していただきます。どうぞ」
ルコアさんから入場のコールが入ったので扉を開ける。
隣で腕を組んでいる夕陽はまだ状況を理解できていない様子。
「え?え?」
混乱している夕陽の腕を引き、神父の前まで移動する。葵・芽衣ペアも私たちの横を歩いている。
4人がダハクさんの前で横一列になり、ルコアさんが進行する。
「それでは、誓いの言葉をどうぞ」
「ごほん。汝ら、幸せな時も、困難な時も、富める時も、貧しき時も、病める時も、健やかなる時も、死がふたりを分かつまで愛し、慈しみ、貞節を守ることをここに誓うか?」
「誓います」
「ち、誓います…」
「葵、芽衣はどうだ?」
「誓う」
「誓います!」
「では、この指輪をお互いの指に」
教壇の上にダハクさんが4つの指輪を置く。
私と葵が2個ずつ取り、お互いのパートナーに渡す。
「これ…指輪?綺麗ね…!」
「わぁ!嬉しい!」
「喜んでもらえてうれしいよ」
「ん」
お互いの左手の薬指に指輪を嵌める。
それを確認してダハクさんがお決まりのセリフを言う。
「ごほん。では、誓いのキスを」
「や、やっぱりするのね」
「恥ずかしいけど。嬉しいからやろう!」
正直ここで断られたらどうしようって内心ドキドキしていたけど…
夕陽も芽衣も大丈夫のようだ。
人に見られながらキスをするのは緊張するけど…ダハクさんが目の前でガン見してるし!
覚悟を決めて軽く口づけを交わそうとするけど…
緊張して鼻がぶつかった!恥ずかしいーーー!
2人で笑い合い、改めてキスをする。
短いキスが終わると、客席から歓声が上がったので、みんなに手を振る。
「「おめでとうじゃ」」
「「「おめでとう(なの・です)!」」」
「皆ありがとう!」
「朝日。こんなに嬉しいサプライズをありがとうね」
「喜んでもらえた?」
「ええ。もちろん」
「葵~!嬉しいよ~!ずっと一緒に居ようね~!!」
「泣かないで芽衣」
「キスってしたことないの。気になるの」
「私もしたことないです」
「…する?」
「え、私たちでです?いいですけど」
「主が結婚か。ワシらは剣じゃから無縁な話じゃの」
「剣同士で結婚しても子供とかできないしね」
「短刀とかが出来るのじゃったら面白いのじゃがの!」
盛り上がっている今こそブーケトスをやっちゃってもいいかな!?
タイミングとか知らないんだけど、投げてもいいよね?
「夕陽、芽衣!ブーケトスしてよ」
私の手に突然ウエディングブーケが出現する。
「…朝日。どこから出したの?」
「私の手品魔法はね、MPで花とかハトとか出し放題なんだよ!」
「便利なようなそうでもないような…」
「でも、その変な魔法のお陰でブーケトスできるんだよね!ありがとう朝日ちゃん!投げるの夢だったんだ~」
「あ、うん」
変な魔法じゃないよ!ちゃんと考えて覚えた大事な魔法だよ!
夕陽と芽衣にウエディングブーケを渡す。
2人が後ろ向きになり、みんなが座っている方向に投げる。
ブーケはゆっくり弧を描き、途中でジャンプしたサシャちゃんとミユちゃんに取られる。
「思わず取ったけど、貰っていいのです?」
「どういう意味があるの?」
「ブーケを受け取った人は、次に結婚ができると言われているよ!」
「結婚ですか。興味ねーです」
「そうなの?私としないの?」
「え!?お前とですか?」
「お前じゃないの。ミユはミユって名前があるの」
「ミユとは今日あったばかりです!結婚はそんな簡単に決めていいもんじゃねーです!」
「そうなの?」
「そうです!もっとお互いを知ってからゆっくりそういうことは考えるもんです」
「…サシャは物知り。もっと一緒に居たい」
「え?でも私にはしなきゃいけないことが…」
いつの間にあの2人はあんなに仲良くなったのやら…
「それで、この後は何をするのかしら」
「あとは、みんなでご飯食べたり…あ!ウエディングケーキ!」
「あら、そんなものまで用意したの?よく私と芽衣に内緒でそこまで準備出来たわね。ここまでくると感心するわ」
「そうだね~。何かしているのは知っていたけど、こんなに大掛かりなものだとは思わなかったよ!」
「スイナさんに協力してもらったりしてね。ここ数日はバレないかドキドキだったなあ」
「芽衣はともかく夕陽は鋭いから」
「私だって鋭いよ~!」
いや、芽衣はおっとりしすぎてるから心配なかったよ。
それはともかく、ケーキ入刀してない!
「葵、ケーキ出してよ」
「ん」
ルコアさんが用意してくれていた台にケーキを置く。
見るのは2回目だけどやっぱり凄い存在感!
女神様、素敵なケーキをありがとうございます。
「うわあ!大きい!しかも上に私たちの人形がいる!」
「あら、本当に素敵な出来ね。誰が作ったの?」
「ガチャで手に入れたんだよ。葵が体を張って」
「体を張って?どういうこと?葵ちゃん」
「企業秘密」
葵が面白い顔してゲットしたんだよね。
「うおおおお!何ですかあれは!食べ物なのですか!?」
「どうやって食べるのじゃ?あんなに巨大なものを」
「大きいの。立派なの」
みんなもケーキを目にして驚きを露にしている。
司会のルコアさんが進行する。
「それでは、4人には結婚して初の共同作業。ケーキ入刀をしてもらいます。では4人とも。準備が出来たら教えてください。ナイフはダハクが持っています」
「これを使ってくれ」
「「「「ありがとうございます」」」」
ダハクさんからカット用の長めのナイフを受け取り、夕陽とケーキの前に立つ。
反対側では葵と芽衣がナイフを構えている。
ルコアさんに手でサインする。
「はい。では準備が整ったようですので…ケーキ入刀」
葵と手を重ね、ケーキにナイフを入れる。すっと抵抗なく入っていく。ナイフがいいのか、スポンジが柔らかいのか…多分両方かな!
ナイフをケーキから取り出す。
「はい。ありがとうございました。それでは食べさせ合いっこしてください。その後、皆さんで頂きます」
食べさせ合いっこ!素晴らしいね!
ダハクさんからフォークを受け取り、食べさせ合いっこを敢行する。
ん~~~甘くておいしい!
ショートケーキはやっぱ最高!!
夕陽も蕩けた表情をしている。
私たちの美味しそうな顔を見てサシャちゃんとミユちゃんが今か今かと待機している。
「では、存分に楽しんだようですので皆さんいただきましょう」
「待っていたの!!」
「早く食わせるのです!!」
「ちょ、ちょっと待って2人とも!今切り分けるから~!」
直接食べようとしている2人を止めて、芽衣が切り分けてから渡す。
「「うま~~~~(なの・です)!!」
パクパク食べてあっという間に2人とも一カットを完食する。
「もっとおかわりを寄こすのです!!」
「おかわりなの」
「たくさんあるから慌てないで~!」
私ももっと食べたいんだけど、とりあえず2人が満足するまで待とうか…
みんな一口食べると目の色を変え、無我夢中でケーキを食べ続け、あの大きかったウエディングケーキがいつの間にか無くなっていた。
1回で食べきれるような量じゃなかったと思うんだけど…デザートはやっぱり別腹に収納されるようになっているのかな?
それからこの日の為にとっておいたAランクの牛さんを食べ、お開きになった。
サシャちゃんとミユちゃんはお腹いっぱいになったからか寝てしまったので、サシャちゃんはルコアさんに寝室に運ぶことになり、ミユちゃんは私がおんぶして温泉宿に帰ることになった。
ルコアさんたちに挨拶をする。
「今日はありがとうございました」
「いえ。こちらこそ楽しかったですよ。子供が出来たら是非見せてくださいね」
「あはは。わかりました」
「いつでも歓迎するぞ。用が無くても来い」
「ダハクさん。将棋頑張ってください」
「姫にはどうやっても勝てんからな。ちょうどいい相手がいないものか」
「サシャちゃんはどうですか?」
「ふむ。起きたらルールを教えてやるか」
「人に教えるのも上達の近道ですからね」
「そういうものか」
「はい。では、これで帰りますね」
「また来てください」
「じゃあな」
魔王城を後にする。
葵の転移で部屋まで戻り、ミユちゃんはスイナさんが部屋まで運んでくれると言ってくれたので、お言葉に甘える。
「スイナさん。今日までいろいろありがとうございました」
「いやなに。困ったときはお互い様じゃからの。あたしも宿を手伝ってもらったしの。ではの。今日はゆっくり休むんじゃぞ」
「はい」
スイナさんとくうくう寝ているミユちゃんが部屋を出る。
私たちも葵たちの部屋を出て、自分たちの部屋でまったり過ごすことにした。
はあ、楽しかったあ。
あ、今日の夜、結婚初夜だ!
芽衣「どうして指輪は薬指に嵌めるの?」
葵「左手の薬指は心臓に繋がる血管があると言われていた」
芽衣「それがどう関係しているの?」
葵「心臓と繋がっている左手に指輪を嵌めることで相手の心を掴み、結婚の誓いをより強いものにするという意味」
芽衣「ほえー」




