何も考えずに話し出すととんでもないことを無意識に言っちゃう
現在私と葵は正座中。
夕陽が腕を組み笑顔で私と葵を問い詰める。
夕陽の横では芽衣が困り顔でこちらを見ている。
「それで?どうしてたった1日でレベルが5も上がったのかしら?勇者でも倒してきたのかしら?」
勇者クラスの幼女とバトってました!とは口が裂けても言えない…
いや、言えなくもないか?隠しているのは結婚式のことであってサシャちゃんと戦ったことはバレてもいい…よね。
ただ、そうすると仕事をサボっていたと言っているようなものだ。
人手が少ないのを理由に手伝っていたのに、そんなことをしていたことが分かれば夕陽はすっごく怒るだろう。
今日の夜に口をきいてくれなくなるくらいには…!
一体どうすればいいんだーーー!!!
「朝日?私はまだ怒ってはいないわよ?理由が知りたいだけで。悪いことをしていなければそれでいいわ」
「葵ちゃん?正直に言っちゃおう?今日耳かきしてあげないよ?」
耳かきしているんですか!?
今度夕陽に頼んでみよ…いや、私が夕陽にやってあげたいな。
おっと。今はそんな暢気なことを考えている場合じゃない!
何かいい言い訳。最高にいい言い訳よ!浮かんで!
「それで?」
「えーと…ね?いろいろあったよ、ねー?葵ー?」
やばっ!最悪のフリをしてしまった!
何も思いつかないのに話し出すから!
私のキラーパスに葵はどう返すのか…固唾を飲んで葵を見守る。
葵が…つぶっていた目を開眼させた!
「実は…」
「「実は?」」
「スイナさんから上質な石を探してきて欲しいと依頼を受けて、ダンジョンに行っていた」
「……」
「それでモンスターもいっぱい倒したからレベルが上がった」
「…そうなの?朝日」
「そうだよ?」
「…そんなちゃんとした理由があるならなんですぐに言わないのよ」
「いやー私たちだけでダンジョン行ったら2人が心配しちゃうんじゃないかと思ってさ。黙ってようねって2人で話したんだよ。ね、葵」
「そう」
「…そっかあ。もうびっくりしたよ~!でも、今度から危ないことするときはちゃんと4人で相談しようね?」
「そうよ。内緒にしても結局バレて心配することになるんだから。隠し事はナシよ」
今も隠し事してて心が痛い!
「でもね。私たちはほら、思春期の乙女だからさ、隠し事の一つや二つあるのはしょうがないことだと思うんだよね」
「うん」
「そうだね~。隠し事ない人のほうが珍しいよね~」
ナイスアシスト芽衣!
「まぁ、そうね。悪い隠し事じゃないならいいわ。でも、変な事したら怒るからね」
「はーい」
ふう。どうやら何とかなった…
葵の機転の良さでなんとか…
それから夕陽と部屋に戻って、耳かきをしてあげることにした。
「いいわよ。自分で出来るわ」
「まあまあ。モノは試しだよ。案外自分でやるよりもいいかもしれないよ?」
「だからいいってば。恥ずかしいわ」
その恥じらい目的だからこれ!!
「心配かけたお礼だから!私の為だと思って。ね?」
自分の膝をポンポンと叩く。
「ええ!?膝枕するつもり!?」
「そうだよ?ほら!かもんかもん」
「うう…仕方ないわね」
夕陽がドギマギしながら私の膝に頭を乗せる。
夕陽と目が合う。
「あのー顔を横にしてくれないと耳かき出来ないんだけど…」
「!!」
夕陽が慌てて顔を横に向けるが耳が赤くなっている。
コレ!!これが見たかったんです!!
耳の外側から内側へ丁寧に掃除していく。
ここでふざけるのは流石に良くないから慎重を心掛ける。
でも一通り終わった後に不意打ちで耳に息を吹きかけると「ひゃっ」と可愛らしい声を出してくれた。うん。かわいい。
その後倍返しされたのは言うまでもない。
そして翌日。明後日に指輪の完成品を見に行くのでそれまでは真面目に働こうと葵と話し合って決めた。
バスタオルなどの洗濯、部屋の掃除。そして浴場の掃除。
はい。男湯も当然のように掃除しましたよ!
何だか昨日よりも人が多かったような気がしたけど。きっと気のせいだよね。
そしてさらに翌日。男性のお客さんが明らかに増えていた。
朝にロビーで待機しているとスイナさんが走ってきた。
「た、大変じゃ!!」
「どうしたんですか?」
「昨日から客が増えて増えて人手が足りないのじゃ!4人とも本格的に手伝ってくれんか?募集で人が来るまでの間でいいから!!お願いじゃ!」
手伝うのは構わないんだけど、昨日男湯にいるお客さんが多いと思ったのは気のせいじゃなかったか。
でもどうしてだろう?
「いいですよ。ね?みんな」
「やっと仕事の流れがわかってきましたから。むしろこちらからお願いしたいくらいですわ」
「楽しくなってきたところだよね~」
「楽しくはない」
「4人ともありがとうのう!助かるわい!早速じゃが、夕陽と芽衣は見習い卒業じゃ!今日から一人で接客をしてもらう。わからないことがあれば何でも近くのスタッフに聞くこと!わからないままお客様の質問に受け答えをするのだけは止めてくれの」
「わかりましたわ!」
「緊張する…私にできるかな?」
「朝日と芽衣は昨日と同じで掃除と洗濯じゃ。あとは人手が足りなそうなところに助っ人として入ってもらうかもしれんからそのつもりでの」
「わかりました」
「ん」
「今日はよろしく頼むの。詳しい話は夕陽と芽衣はアイに聞いてくれ。朝日と葵はあたしについてまいれ」
「では、夕陽さんと芽衣さんは私について来てください!」
夕陽と芽衣がアイちゃんといなくなる。
私と葵もスイナさんについていく。
「すまんの。本格的に手伝ってもらうことになってしまって」
「いえ。もともと私たちがお願いしたことですから。今日も頑張ります!」
「…頑張ります」
「そう言ってもらえると助かるの。先ずは女湯の掃除じゃ。その後に男湯に行くぞ」
いつもの流れですね。
昨日と同じように女湯を掃除し、男湯に向かう。
ここで昨日とは違うことが起こった。男湯の扉を開けると空気がざわっとした。
「(あれが噂の女の子か)」「(かわいい)」「(仕事休んで来た甲斐があったぜ)」「(やっぱり俺は葵ちゃんだわ)」「(いや、朝日ちゃんだろ普通。ロリコンかよ)」「(いやあの葵ちゃんのやる気ない感じが)」「(昨日葵ちゃんがこっちに虫を見るような視線を向けてくれたぞ)」「(マジかよ。葵ちゃん最高だな)」
なんか私より葵のほうが人気ある雰囲気なんですけど!別に良いけども!!
葵は視線に晒されることが気に食わないようでボソッと呟く。
「はあ…キモい」
「「「「「ありがとうございます!!」」」」」
こいつら変態かよ!
床に転がって葵のブラッシング待ちの強者もいるしー。
一応ステータス確認したらレベル高いし引くわー。
冷めた目で見ていると、見知った顔がいた。
男の子が好きな漢。アルさんだ。
「あ、アルさん」
「おお、昨日の同志よ。ネイト君はいつ掃除しに来るんだ?」
「ネイト君は午後出勤らしいですよ」
「おや、では後で入り直しだな」
「それにしても今日は人多いですね」
「君たちのせいだぞ」
やっぱり?
「街では君ともう一人の子の話題で持ちきりでな。一目見ようとする客が増えているようだぞ。接客にも可愛らしい新人が2人入ったらしい」
「葵が人気みたいですね」
「あの自然体な感じがな。普通従業員は笑顔が基本だろ?彼女みたいなタイプはこの街では珍しくてな。それでこの人気だ」
葵は労働とかやりたくないってのが基本スタンスだからね。
何だかんだ一緒にやってくれるけど。
「この街には変態が多いですね」
「変態でもいいじゃないか。心の赴くままに行動したほうが人生楽しい」
「楽しいことは重要ですね!」
「そうだ!人生楽しく!」
「変態万歳!」
「「「「変態万歳!!!!」」」」
「仕事せんか!!」
「ごめんなさい!」
その後は真面目に働きました。
楽しむことも大事だけど、最低限やらなきゃいけないことをきちんとやった上での話だからね。
ふう。この調子だと明日もかなり忙しそうだ。
ルコアさんと話したいことはたくさんあるけど、あまり長居は出来なさそうだね。
そうだ!芽衣にクリーンを頼んで掃除しちゃえばかなり楽になるんじゃないかな!
でもあのおっぱいを男湯で見せると暴動が起きるかもしれない。
そもそも芽衣は男嫌いだから男湯に入れないか。
うーん、やっぱり自分で頑張るしかないよね。
そして次の日。
今日はいよいよ指輪完成の日だ。
そわそわしながら仕事をして、休憩時間に葵と一緒に魔王城に転移する。
「ルコアさん!」
「朝日、葵、久しぶりです」
「「久しぶりです」」
「それで指輪は…」
「ふふふ。そんなに慌てなくても完成していますよ。ダハク」
「うむ。姫が作りし至高の一品だ」
ダハクさんの手には4つの指輪があった。リングに光り輝く宝石が付けられ、まさに私が想像していた理想の指輪が。
「うわー綺麗~」
「素敵」
「素材がいいですからね。私は適当な大きさにカットしただけです。ですが喜んでいただけて嬉しいです」
「とってもいいですよ!ありがとうございます!」
「うんうん」
「そうですか。ちなみにその指輪にはある能力も付加しています」
「能力まであるんですか!?」
「魔具ですからね。魔力を流すと念話をすることが出来ます。ふふっ。これで浮気が容易にできないでしょう」
「しませんよ!」
「それは冗談ですが、あると便利でしょう?」
「はい!ありがとうございます!」
色々使い道がありそう!ルコアさんには後でしっかりお礼をしなくちゃ。
これで結婚指輪を手に入れることが出来たし、あとは玉座の間を式場風にしたらいよいよ結婚式だ!!
夕陽「朝日たち変なことしてないかしら(そわそわ)」
芽衣「葵ちゃん、ちゃんと働けているかな?(そわそわ)」
アイ「(この二人同じこと何回も言ってる…)」




