サプライズ企画ってバレそうでバレない
部屋に食事を運んできてくれたのは獣人の女の子だった。
「お待たせしました!私はアイと言います!本日のお世話をさせていただきます!よろしくお願いします!」
ケモ耳!本物のケモ耳!!
「獣人キタ」
「かわい~!!」
「そのお耳は何のお耳かしら?」
「本物の耳は話している時にピコピコ動くのかー。変身するときの参考になるね。もっと近くに行ってもいい?」
「私は猫族ですけど…近い!近いです!あっ!耳に息を吹きかけないでください!やめて!離れて!」
ハッ!!つい本能で動いてしまった!
「ごめん!獣人さんを見るとつい…」
「「「ごめんなさい」」」
「何なのこの人たち…」
アイちゃんが困惑の表情で見てくる。
違うの!地球にはいなかったからついテンションが上がっちゃうの!!
だから変態を見るような目で見ないで!!
「こ、こほん。では、ご夕食の説明をさせていただいてもいいですか?」
「「「「お願いします」」」」
「本日は北の漁港で取れたお魚のお刺身です。【リテンション】(保存)の魔法をかけているので、とても新鮮です。食べ終わりましたらデザートも用意していますので、食べ終わりましたらお声がけしてください」
「お刺身!漁港が近くにあるんですか?」
「はい!ここスクーナの街と東にあるバンドの街の中間地点に港があります」
バンドの街は初めて聞いたね。けど、以前ダハクさんが東にはサキュバスとインキュバスの王がいるって言っていたね。
「いただきますか」
「そうだね」
「「「「いただきます」」」」
醤油とわさびを混ぜる。
あるだけのワサビをとりあえず全部入れる。
「うわ~それ全部入れるのね」
「夕陽は半分くらいだね」
「あとで調節できるようにしたほうがいいでしょ?それに辛すぎるのもどうかと思うし」
「刺身はワサビ多いほうが美味しいよ?ほら、試しに食べてみなよ!あ~ん」
「あ~ん。…美味しいわ」
「夕陽のも食べさせて」
「しょうがないわね。はい。あーん」
「あーん。…うん!すっごく美味しい!」
「本当?もっと食べる?」
「うん!」
「ちょ、ちょっと!!私!!アイもいるんですけど!!」
アイちゃんは私たちの食事の邪魔にならないように隅っこで待機しているのだけれど、どうやら私たちのラブラブぶりに当てられたようで顔が真っ赤だ。
「どうしたの?アイちゃん?発情しちゃった?」
「してないですよ!」
「急にどうしたのよ?嫉妬?」
「私たち初対面!」
「あ、混ざりたいんだ!」
「違います!」
「どうしたいの?」
「その、恥ずかしくないのですか?アイもいるのに」
自分のこと名前呼びしちゃうアイちゃん可愛い。
「普段なら恥ずかしいかもしれないけど。さっき夕陽にプロポーズしてオーケー貰ったの。だから今日だけはこのテンションでいかせて!」
「え!それはおめでとうございます!」
「「ありがとう!!」」
「だからね。今日は無礼講ってことで」
「はぁ。わかりました。あちらはあちらでイチャイチャしていますし…」
アイちゃんが私たちと反対に座っている葵と芽衣をジト目で眺める。
「今日こそワサビ食べて」
「ムリムリ!!」
「大丈夫。最初はみんな苦手だけど、どんどん癖になる」
「なんで辛い物を無理してまで食べないといけないのお」
「段々無いと物足りなくなるから」
「このままでも美味しいから大丈夫だよ~」
「芽衣わがまま」
「ええ!?」
葵が芽衣の前にすっぽり収まって、いちゃついている。
「私たちはいつもこんなもんだから、アイちゃん慣れてね」
「はあ、わかりました」
アイちゃんが疲れた表情を見せている。接客でその表情は良くないよ!
その後はしっかり海の幸を満喫してデザートも美味しく食べた。
デザートは温泉饅頭で、部屋のテーブルに置いてあった饅頭と同じだった。
これならアイちゃんわざわざ待機して出す必要ないよね?
それからその日の夜。朝まで夕陽とスキンシップ(性的な意味で)を取った。
夢中になっていたのでいつの間にか朝になっちゃった…
夕陽の恥じらう表情に興奮してしまい、時間を忘れるくらいテンション上がってしまったのが原因だ。
身体が汗でべとべとなのと、徹夜明け特有の体の重さを払拭するため、朝風呂に入りに行くことにした。
「階段はふらつくから葵を起こしに行きましょう」
「そうだね。夕陽の足がくがくだもんね」
「誰のせいよ誰の…葵たち起きているといいんだけれど」
ちなみに葵たちの部屋は隣だ。
…防音大丈夫だよね?向こうの音も聞こえないし大丈夫か。
葵と芽衣の部屋の扉をノックする。すると部屋から物音が聞こえてきた。
「は~い。ああ、朝日ちゃんと夕陽ちゃん。昨日ぶり。どうしたの?」
「朝風呂に行きたいんだけど、ちょっと葵様のお力を借りたくて来ました!」
「なるほどね。葵ちゃんまだ寝ているから、とりあえず上がっていく?」
「お邪魔するわね」
「お邪魔しまーす」
部屋の中に上がらせてもらう。間取りは同じだけど、葵と芽衣の甘いにおいがする。
葵はすぅすぅ寝ている。葵の寝顔はいつもより子供っぽく見えて可愛いのう。
「葵と芽衣の匂いがするわね」
「え?変かな?」
「いや、いい匂いだよー。それにしても寝てる葵はかわいいね」
「そうでしょ!?ずっと見てられるよね~。寝起きに葵ちゃんの寝顔を見るのが毎日の幸せだよ~」
ワイワイしていると五月蠅かったのか葵が若干不機嫌に目を覚ます。
「おはよ」
「おはよう葵」
「葵ちゃん五月蠅かった?ごめんね」
「…寝顔見た?」
「「「うん」」」
「…」
葵の顔が赤くなっている。かわいい。
「それで葵ちゃん。お風呂行きたいんだけど一緒に行かない?」
「行く」
「じゃあ準備してからレッツゴー!」
葵と芽衣の支度を待ってお風呂に向かう。
お風呂場には眼帯白髪のロリ少女、ミユちゃん(魔王)がいた。
「あ、ミユちゃんだ」
「アサヒとアオイ。あとは誰?」
「は、初めまして!芽衣と言います!よろしくお願いします」
「私は夕陽。よろしくお願いしますわ」
「メイとユウヒ。ミユはミユって言うの。よろしくなの」
「ミユちゃんも今来たところ?」
「もう上がるの。そろそろ帰らなきゃいけないから。最後のお風呂だったの」
「そうだったんだ」
「また来るの」
「次はもっとお話ししようね」
「わかったの。ばいばい」
「ばいばーい」
ミユちゃんがお風呂場から出ていく。
「…何だか、魔王とは思えない子ね」
「本当。鑑定で見ないと分からないよ」
「きっとあの眼帯を外したらオーラが迸る」
「魔眼の王かっこいいよね。どんな力なんだろ」
「魔の目よ?きっと恐ろしいに違いないわ」
ミユちゃんの話題で盛り上がりながら洗い場に向かう。
髪と身体を洗い、いざ温泉へ!
ちなみに、私と葵は体を洗うのが速い。
夕陽と芽衣は遅く、待つと結構時間が経ってしまうので葵と行動する。
やっぱ最初は露天風呂でしょ!葵と朝の肌寒さに耐えながら早歩きで湯船に向かう。
ふぅ。あったか気持ちいい。
さてさて、せっかく葵と2人きりなので、例の結婚式のサプライズ企画を相談するとしますか。
大体の構想は頭の中にあるのだけれど、実現するためには葵の協力が不可欠なのだ。
「ねえねえ葵」
「何?」
「ちょっとした計画があるんだけどさ、乗らない?」
「イタズラ?」
…葵は私のことを何だと思っているのだろう。
「違う違う。結婚式をあの2人に内緒で計画しようと思ってさ」
「…詳しく」
「この世界では結婚式をする風習はないって言ってたよね」
「ん」
「でも、やっちゃいけないわけじゃない」
「うん」
「だから、こっそり私と葵で計画練ってさ。盛大に結婚式やりたくない?」
「やりたい。でもどこで?」
ふっふっふ。よくぞ聞いてくれました!!
「ルコアさんのいる魔王城でやりたいなって。あそこってモデルがノイシュバンシュタイン城でしょ?そんなメルヘンチックなところで結婚式するのって女の子の夢じゃない?」
「確かに。流石朝日」
「でしょ!?で、準備とか向こうでするのに、行ったり来たりしないといけないからさ。そこは葵の転移でね?」
「任せて。でも、あの2人に怪しまれそう」
そう。問題はそこなんだよね。
私たちっていつも一緒にいるからさ。急に2人でこそこそしだしたら、怪しいってもんじゃないんだよね。
さて、どうしたものか…
「話は聞かせてもらったぞ」
だ、誰だ!
「あなたは…スイナさん!」
「あの2人と別行動をとれればいいのじゃな?」
「そうですね」
「じゃったらこういうのはどうじゃ…ごにょごにょ」
「……ふんふん。なるほど。どうだろう葵」
「たぶん大丈夫?」
「よし。じゃったらお主らが温泉から出てきたら、何食わぬ顔であたしが近づいて提案してみるからの。2人はうまく乗ってくりゃれ」
「え、今日からですか?」
「こういうことは早め早めに行動しとったほうがいいんじゃ。わかったかの?」
「「はい」」
「よろしい。あたしは準備してくるからの。ゆっくり入っておき」
そう言ってスイナさんは露天風呂を出て行った。
ま、全く気配がしなかったよ。
「大丈夫だよね」
「ん」
がらがら。ドアを開けて夕陽と芽衣がこっちに来る。
「あ、2人いた!探したよ~」
「あなたたち露天風呂好きね」
「せっかくだから家では入れない露天風呂に入ったほうがお得じゃん?」
「そうかしら」
「そうだよ」
それからゆっくり4人で温泉を楽しみ、浴場を後にする。
「朝に入る温泉も良かったね~」
「ん」
「そうね。気持ちがさっぱりするわね」
「今日も一日頑張れそうだね」
今日は街を散策する予定だったので制服に着替える。さて、ここを出るとスイナさんが話しかけてくるってことだったけど…
更衣室から出ると、スイナさんが慌てた様子でこちらに向かってきた。
「た、た、大変じゃ~~」
演技ヘタクソか!!
「どうしたんですかスイナさん!」
「おお!朝日!それに皆も!ちょうどいいところに!!」
「どうしたの」
「実はの、従業員の間で風邪が流行ってしまっての。今日は4人も休んでしまったんじゃ!ちょうど4人!!」
驚きの白々しさ!!
「ええ?大丈夫なんですか?」
「何かお手伝いできることがあればしますわよ」
芽衣と夕陽はもっと人を疑ったほうがいいよ。
「本当かの!いやーすまんのう。ちゃんとお給金は出すし、宿泊代もタダにするからの。手伝ってもらえるかの」
「わかりました!任せてください!」
「ええ。…朝日、葵、勝手に決めてごめんなさい。今日の予定はキャンセルしてもいいかしら」
私と葵はスイナさんの演技の下手さに呆然としていたので、つい黙ってしまっていたのだ。
「あ、うん!もちろんいいよ!ね、葵」
「うん」
「ありがとうのう。人手が足りないのは接客と裏方の仕事なんじゃて。あたしが適性を考えて仕事を割り振っていいかえ?」
「ええ。いいですわ」
「はい」
「では、夕陽と芽衣は接客を。朝日と葵は裏方の仕事を頼んでもいいかのう」
「わかりましたわ」
とんとん拍子に話が進んでいく。
「では、早速お願いするかの。アイ!こっちに来なさい」
「は、はひ!!」
「接客は一先ずアイについて行っていろいろ学んでくりゃれ。今日は初めてなのでな。アイの仕事ぶりを後ろで観察するだけでええ」
「よ、よろしくお願いします!!アイです!!」
「後ろについているだけでよろしいんですの?人が少ないということでしたけれど」
「右も左もわからない2人をいきなりお客様の前に出して何か大きな失敗をしてしまうほうが問題じゃ。今日くらいは何とかするから、明日から精いっぱい頑張ってくりゃれ」
「わかりましたわ!」
「はい!」
そもそも誰も風邪引いてないからね。
人はいるからね。
「朝日と芽衣はあたしについて来てくりゃれ。じっくり教えるでな」
「「わかりました」」
こうして、見事に私と葵は別行動を取れるようになった。
ちょっと夕陽と芽衣には申し訳ないけど!




