VS勇者② 決着
勇者チームは何事か話し合っている。これで一息つける!
「ふぅ!引いてくれて助かったぁ」
「あの勇者、予想以上ね。宗近から見てどう?」
「流派は流石にわからないけど、かなり鍛えているね。なかなか綺麗な太刀筋だ。そして何より日ノ本で見たどの剣士よりも速い。正直ついていくのが精いっぱいかな」
「だって相手は重力三倍にして、こっちはモーニングスターの重さをゼロ、さらに両手両足をチーターに【変身】しても追いつかないからね!」
ダハクさんよりも動きが早い。
スキル韋駄天強いなー。取ろうかな?あ、葵が帰ってきた。
「おかえり。どうだった?」
「ロリと魔王がバトル中。避難してきた」
よし。あのちっさい子はこのままルコアさんに任せよう。
「どう?」
「かなり厳しいね。葵の四聖獣はまだ持つ?」
「芽衣からMPを【譲渡】で貰ってるから、まだ大丈夫。どれか使う?」
「…いや、私と夕陽で倒すよ」
「朝日。あとどれくらいで覚えられそうなの?」
「んー。あの戦闘スピードだと…3分あれば」
「わかった。その間は私が注意を引くわ。つなじい。私も二刀流で行くわよ。宗近は二刀流いける?」
「相分かった」
「問題ないよ」
「じゃあ私はライドと聖女を潰す」
「回復は任せて!」
「よし、行こうか!」
勇者に呼びかける。長期戦は考えていない。
まだ相手が私たちに慣れていないうちに一気に畳みかける!
勇者が突っ込んできて、再び戦闘が始まるが…私をターゲットにしてきたね!
そりゃ、さっきの戦闘は完全に私だけ出遅れてたから当然か!
でも夕陽も今度は二刀流で手が多い。しかも絶対に壊れない【三日月宗近】と切れ味抜群の【童子切安綱】の最強の二振りだ。無視は出来ない。
「私を相手したほうがいいのではなくて?」
「ぐっ、そのようだ…な!」
2人が激しく打ち合っている間に私は勇者をじっくり観察する。
経験のないことをする時は、まず先駆者をじっくり観察することが重要だ。どういう技術を用いて、どんな対応をしていくのか。コツは何か、やっちゃいけないことは何か。
技術を盗む。
勇者の癖を探す。勇者が苦手にしていること、得意なことを見つけていく。
そうして夕陽が時間を作ってくれた三分が経つ。
…よし。こっからは積極的に行く。
勇者が右上から左下に袈裟切りを行う。
この後はもう片方の剣で逆に左上から右下に逆袈裟をしてくる可能性が高い。
先ずはスキル【時間超越】で1秒を10秒の体感速度になるようにする。
勇者がスローモーションになる。
袈裟切りの振り終わりにもう片方の手をゆっくり左上に持っていく。よし。
勇者が逆袈裟をしてくる直前。左手小指の下部分に手品魔法の【見えざる壁】を設置し、剣を振れないようにする!
「!?」
「左脇下がら空きーー!!」
「ぐはぁっ!!」
モーニングスターを全力で振りぬく!!
勇者が真横に吹き飛ぶ。この鉄球は痛いよ~。
「レイン!【ハイヒール】!…!?魔法が発動しない!?」
「無駄」
回復魔法は葵の妨害魔法で使えないよー。
さて、勇者は何とかなったかな。ライドの方は…四聖獣に防戦一方でこちらを見る余裕すらない。もうすぐ終わるかな。
この時私はかなり油断していた。夕陽もだ。だから勇者の雷撃への対応が遅れてしまった。
「「ガッ!!」」
「はぁ…つぅ…魔法は魔王戦の為に使いたくなかったが…そう言ってはいられない程、お前たちは強かった。これで死んでくれ」
「「ガァッッ!!」」
さらに電撃を叩き込まれて体が痺れて動けないし痛い!
勇者がゆっくりと起き上がり、こちらに向かって歩いてくる。左脇腹から出血はしているが徐々に血が止まっていく。自然回復LV5ってそんなに回復早いの…
「名前は…モーニンだったか。最後の手が動かなくなったのはなんでだ」
「う…あ…」
「痺れて喋れないか。今楽にしよう」
私の目の前まで来て勇者が剣を振り下ろす。体はまだ動かない。
…でも魔法は発動できる。
手品魔法【瞬間移動】で夕陽も一緒に芽衣の前まで転移する。
「何!?」
「朝日ちゃん!夕陽ちゃん!【リカバリー】!」
身体から痺れが無くなっていく。
た、助かったぁ…
「い、今のはヤバかった」
「油断しちゃったわね…」
「だ、大丈夫なの?」
「何とか…あの攻撃でピンピンしてるとか。勇者を舐めてたよ」
「電撃魔法はかなり厄介ね。防御もしづらいし、一度貰うと動けなくなるわ」
「死にかけて思いついたけど、体を絶縁体に変身させよう」
「…何でもありね」
「まぁまぁ」
夕陽に触れ身体を絶縁体に変身させる。
自分も変身して…と。
「今度は完膚なきまでに倒しちゃる」
「出来ればいいのだけれど」
勇者がこちらを睨んでいる。
もうそんなに隠し玉は無いから安心したまえ勇者くん。
ーーーーー
…何なんだこの人たちは。完全に倒したと思ったのに、いつの間にかヒーラーの前に移動して全回復しているとかどんな冗談だ。
剣を振ろうとしたら急に手が止まるし、こっちの回復魔法は封じられているようだし…倒せるのか?いや。倒すんだ。
方針は変わらない。剣戟に慣れていない星形を先に潰してから月形を倒す。月形も二刀流になったから手数は増えたけどまだ俺のほうが速い。大丈夫だ。
俺よりもライドが危険だ。四体の魔獣に囲まれてもはや負ける寸前だ。早く援護に向かわないと…
再び剣の間合いに二人組が入ってくる。
同時に体がより重くなる感覚。少しずつ慣れてきたが…
ここにきて、もはや魔力を温存するという選択肢はなかった。積極的に雷撃を撃ちつつ剣を振るう。
しかし…目の前の二人は雷撃などお構いなしに攻撃してくる。
なぜだ!?さっきまでは確かに効いていたのに!
「何なんだお前たちは!化物か!」
「こんなかわいいJKを化物呼ばわりとか!ばか!あほ!」
「失礼な人ね」
まるで人のような受け答えをしてくるし。調子が狂う。
しかしこんなにも早く対処されるとは思わなかった。本当に厄介な相手だ。
やはり一刻も早く倒さないと次に何をされるかわかったもんじゃない。
それから魔法は意味をなしていない為、再び剣による打ち合いの時間になる。
やっとこの重力にも慣れてきて、先程よりも自分の体は動いてはいる。いるのだが…
先程のように体が急に動かなくなってしまう現象が起き始めていた。
しかも時間が経つごとにその頻度が増えていく。そのせいで少しずつダメージが蓄積していく。回復が追い付いていない!星形の武器を持っていない手がせわしなく動いている。コイツの仕業か!だがわかっていても対処できない。
それにこの星型…どんどん上手くなっていく。同じフェイントには絶対に引っかからない。さっきまで有効だった攻撃を今はカウンターを打ってくる。
どんどん自分の攻撃が制限されていく…くそ!強すぎだろ!!
徐々に追い込まれていたが、ついに決定的な場面を迎えてしまう。
左手を掴まれた
「あはっ!やっっと捕まえた♡」
そのまま星形が腕を引いた。
引っ張られる!…と思ったがが違った。左の腕が何の抵抗もなく俺の体から離れた
「っ!?なっ!?」
俺の左腕が無くなっている!?
それなのに血は出ていないし痛みもない!?
意味が分からない状況に一瞬思考が停止してしまう。
「手品魔法の【人体バラバラマジック】。勝負あったかな?」
俺の左手をぶらぶら動かしながら星形が話しかけてくる。
片手でこいつらの相手は不可能だ…少しでも会話をしながら突破口を見つけないと…
「マジックマジック?それがお前の魔法か」
「そだよ」
「返してくれ」
「やです。それにあっちも決着ついたみたい」
俺の左手でライドが戦闘をしていたところを星形が指さす。
思わず確認すると、ライドは膝をついて動きが完全に止まっていた。
さらに、魔王城の方からぎゃああああっと声が鳴り響いた。
と同時に師匠が宙を舞いながらこっちに飛んできた!ドガーーんとマリィの近くにあった木にぶつかって師匠が目を回している。
「サシャちゃん!大丈夫!?」
「きゅうう」
師匠も誰かに負けたのか…これでこっちにまともに戦闘できる奴はいなくなってしまった。
つまり…
「負けたのか。俺たちは」
「私たちの勝ちだね」
「こんなことになるなんて…まだ魔王に会ってすらいないってのに」
「まぁ、人生って上手くいかない時もあるよね!」
「うるさいよ」
まさか魔王以外にもこんなに強い奴がいるなんて想定外だ。
魔王はもっと強いってのか?
「魔王は」
「ん?」
「魔王はお前たちよりも強いのか?」
「私たちが束になっても絶対勝てないだろうね!」
「そう…そうか…」
「このまま帰ってくれるなら、追わないけど」
「…………」
………………
ライドの近くまで行く。
「…ライド。撤退だ。俺たちでは、まだ魔王には勝てない」
「……悔しいが、しょうがねえ」
今回は完敗だ。今のままでは…
ライドが師匠をおんぶする。
……こいつらのことは絶対に忘れない。
次は絶対に勝つ。
月形のほうを見る。
「お前の名前は?」
「私?夕…イブニング…イブよ!!」
「イブとモーニンだな。次は俺が勝つ」
「もう来ないでねー」
帰ったらダンジョンにでも行こう。
いつか魔王を倒せるように。




