勇者サイド⑥ サシャのターンです!その2
「さて、山に入ったわけですが、山に入ったらしなきゃいけないことがあるです」
「何をすればいいんだ師匠」
「うむうむ。やっぱりいい響きです♪」
「さっさと言え」
「アホのライドは口がわりぃですよ。まぁいいです。そこに生えている青い草を体のどこかに持っておくです」
「この毒々しいのか?凄い匂いなんだが…」
「その匂いで、ドラゴンの鼻をゴマかすのです」
「なるほどな。少しでも察知されにくくするようにすると。流石師匠だ」
「あいつらは鼻がいいです。一度見つかったらどこまでも追ってくるです。ですからこれがあるのとないのでは大違いです」
「よし、じゃあ行くか」
それから慎重に進んでいきましたです。
しかし、今までよりは戦闘も多くなりましたがやっぱり少ないです。それに遠巻きにこちらを見ているのに攻撃してこないし、してきたと思ったらすぐに撤退しやがるです。
「やっぱりおかしいです」
「そうだな。これはもう誰かが魔物に指示を出しているとしか思えないな」
「そんな…魔物に指示を出せるものなんているのでしょうか?」
「いるじゃないか。そんなことが出来る奴が」
「それは?」
「俺たちの討伐目標でもある魔王さ」
「…なるほど」
「つまり、俺たちが魔王討伐に向かっていることはバレていたってことだな」
「いつからでしょう?」
「少なくともドラゴンの森に入ってからは戦闘が少なかったからな。最初からバレていたって考えたほうがいいだろう」
「しかし、戦闘を少なくする意図は何でしょうか?どんどん攻撃してくるならまだわかりますが…」
「うーん…なんだろうな?」
「まぁ、考えていても仕方がない。攻めてこないなら一息に向かってしまうのも手だな」
「そうですね。警戒させて動きを遅くする…と考えているかもしれませんし」
「ガンガン行こうぜ!です!」
ドラゴンが来ないなら一気に行くべきです。
それからはペースを上げてかなりいいペースで山を登ることが出来たです。
「そろそろ野営の準備をするです」
「だな。来る途中で結構洞窟を見つけたし、今日は洞窟に泊まるか?」
「レイドはやっぱりアホです。そんなことしたら死ぬですよ?」
「なんでだ?」
「この山の洞窟には必ず一頭はドラゴンが住み着いているです。餌が自分から入っていくようなものです」
「…そうだったのか」
「あと、火を焚くのもお勧めしないです。夜は黒竜が徘徊してるですから、近寄ってくるです」
「真っ暗で戦闘なんてことになったら確実に負けるな…気を付けよう」
「あとは何かあるか?師匠」
「そうですね…夜の見張りはファングだけで十分です。ファングはここで生まれて何年もここで生きてきた強者です。私たちはさっさと寝たほうがいいです」
「わかった。任せたぞ。ファング」
「よろしくお願いしますね。ファング」
「ワオン!」
「よし。んじゃ、飯食ってさっさと寝ようぜ」
それから数日、特に何事もなく進むことが出来たです。
そしてついに山頂に到着する直前まで着たです。
「みんなよく聞くです。ここから先は気を引き締めろ!です」
「もうすぐ山頂だが…何かいるのか?」
「この山の主でもある木竜がいるです」
「木竜か…強いのか?」
「強いですが、それ以上に倒してはいけないです」
「理由は?」
「そいつがこの山の自然を管理しているからです。もし木竜を倒してしまうとはげ山になっちまうです」
「なるほどな。戦わずに済めばいいが…」
「あまり戦いは好まないやつですが、魔王の手下です。どうなるかはわからないです」
「サシャ、ずいぶん木竜に詳しいな。もしかしてあったことがあるのか?」
「あるどころか、私は木竜と戦闘訓練して強くなったです」
「相変わらず破天荒な奴だぜ。なら、交渉は任せていいか?」
「任せろです」
ずいぶん久しぶりに会うです。
昔は竜に追われている私を匿ってくれた竜の中ではいい奴ですが…今は敵同士です。油断しないで行くです。
そして山頂。あいつは昔と変わらず堂々と山の頂で寝そべっていやがったです。
「久しいな。サシャよ。少し背が大きくなったか?」
「久しぶりです。ウラド。何も言わずここを通しやがれです」
「ばかっ!言い方もっとあるだろ!」
「はっはっは!相変わらずだな。話はルコア様から聞いている。通してやってもいいぞ」
「ルコアとは誰だ?」
「なんだ。自分たちが戦う相手の名前も知らないで来たのか?ルコア様は白銀竜にして竜の、いや魔物の頂点であるお方よ」
「魔王の名前か…」
魔王はルコアというのですか。魔王なのにかわいい名前です。
「ただし、条件がある」
「条件?」
「そうだ。お前たちがなぜルコア様を討伐したいのか。討伐した後どうするつもりなのかを我に聞かせろ。ついでにここで一泊していけ」
「ちなみに、断ったら?」
「その時は戦おう。なあに、殺しはしないさ」
「…どうする?」
「話を受けよう。ここで危険を冒すよりはいいだろ」
「そうですね。私も賛成です」
「サシャは?」
「戦ってもいいですよ?」
「ウラドさん!戦わずに話し合いたいです!」
「よかろう。では早速聞かせてもらおうか」
戦ってもよかったですが…まあいいです。話してやるです。私の魔王を倒さなければいけない理由を!
「私はこの山で人生の半分を過ごしたです。その時はウラドにも世話になったです。一応感謝してやるです」
「(え…師匠が話すのか?)」
「(ここはレインが話す流れだろ…)」
「(普通ここは勇者が話すところでは…?)」
「そうだな。地竜に追われているところだったか」
「その通りです!毎日毎日、違う竜が寝ても覚めても襲ってくるです!しかもあいつらは私が一生懸命逃げるのをあえて捕まえないで遊んでいたに違いないです!ふざけたやつらです!」
「確かに、この山には娯楽がないからな。サシャは元気でかわいいから、つい竜たちもふざけてしまったんだろう。そのことに関しては済まない」
「いーや!許さないです!おしっこする時間もないぐらい追われ続けたせいでお腹が痛くなって大変でした!それからおしっこを我慢できない体になってしまったです!私の膀胱はゆるゆるです!」
「そ、そうなのか…」
「そうなのです!だから私は誓ったのです。強くなって竜を追いかける側になってやると!でも竜は数が多いので手っ取り早く親玉を倒すことにしたです。そうすれば私がどの竜よりも強いと証明できるからです!どうです?これ以上の理由はないでしょう?」
「いや、どうであろうな…もっとあるかもしれんが」
「いやねーですから」
「うむ…そうか」
完璧な理由すぎてぐうの音も出ない様子です。
「まぁ、筋は通っておるな…」
「微妙にかわいそうだからちょっと突っ込みづらいな」
「師匠…改めて聞くとかわいそうだ」
「サシャちゃんにはしっかりした理由があったのですね。それに比べて私は…ちょっと自己嫌悪です」
「サシャの理由は十分伝わった。だが、他の3人は違う理由だろう?聞かせてもらおうか」
「こいつらは私の付き添いです!だからもういいんじゃねーですか?ぶっちゃけ時間の無駄です」
「…いや、ちょっとサシャは静かにしていてくれないか?いま大事なところだから」
「いや、大事なところはもう終わったです。あとは蛇足以外の何物でもねーです。そもそも理由を聞いたところで無駄無駄です。どうせ勇者だからとか人々の為にとか、ありきたりなことを言うに決まっているので全く意味ないです」
「ちょっと誰かサシャをどっかにやってくれ!」
「サシャちゃん!そろそろおしっこの時間じゃないかしら?これからレインとウルドさんが大事な話をするから私と一緒に行きましょう?」
言われてみればおしっこしたくなってきたです。
「しょうがねーです。行くですよマリィ」
「うん。皆さん、ごゆっくりどうぞ~」
この辺り一帯は私の庭のようなものなのです。どこが見つかりにくい場所だとか、美味しい果物が生っている場所だってわかるです。
「マリィ。この先に川があるです。ついでだから水浴びするのはどうです?」
「本当!?旅でちゃんと水浴びできる機会が少なったから、すっごく嬉しい!まだあの3人は当分話し込むだろし、ゆっくりできそう!」
この先の川は木竜に近い為か、とても澄んでいてきれいな水です。魚とかもたくさんいます。私だけの内緒のスポットでしたが、まぁマリィだけならいいです。
「うわーすごくきれいな水だね!秘境って感じで素敵!」
「そうでしょう。そうでしょう。ここは私だけが知っている秘密の場所です。特にバカのライドには内緒です」
「あら、内緒の場所を教えてもらったんですね。ありがとう。サシャちゃん!」
服を脱いで川に飛び込むです。とっても気持ちいいです。
「ふぅ。ちょっと冷たいですけど、気持ちいい…久しぶりにリラックスできる…」
「男がいるだけでマリィは気にしすぎなのです。あいつらに覗くような度胸はないのです」
「サシャちゃんは気にしなさすぎだよ…最近レインが自嘲しないからサシャちゃんが全裸でウォーターを使って体を洗っているときに向ける目がマジだよ…」
「襲ってきたらぶっ飛ばせばいいだけです」
「サシャちゃん強いよね。どんな敵も魔法で一撃だし…ずっとこの山で過ごしていたの?」
「ずっとではないです。しばらくは街の孤児院で育ったです」
「えーそれならどうしてこの山まで行ったの?止められたりしなかったの?」
「孤児院では男でも大人でも私より強い奴がいなかったです。だからどんな奴にも勝てると思ってたです。それで、街の誰かがこの山に入った奴は誰も帰ってこないって話をしてだですから、行ってみることにしたです。誰にも言わないで出て行ったから止められたりはしてないです」
今思えば、私も若かったですね…私よりも強い奴は山ほどいたですから…山だけに。
「破天荒だね…よくそれで生きてこられたね…」
「運がよかったのは否定しねーですが、それでも私はそこら辺のやつとは成長具合が段違いでしたです。少ない量のスキルポイントで覚えられる魔法も多かったですし、これでも頑張って生きてきたつもりです」
「そっかぁ。凄いねサシャちゃんは。自分をしっかり持ってるって感じがするね」
「私は私が大好きですよ。マリィは違うのです?」
「私は…言われたことしかやってこなかったよ。サシャちゃんがレインに勇者の肩書に縛られているって言ったときに、私も自分のことを言われているようで心臓を鷲掴みされた気分だったよ…聖女らしく振舞うことが当たり前だったからね」
私の言葉は意図しないところでも影響を与えてしまうようです。
でも私はレインよりはマリィの方がマシだと思うです。
「マリィはレインよりかは自由に生きているようでしたけど。好きなことをあまり隠してないようですし」
「ああ、男の子同士の絡みに興奮すること?それは自分じゃどうしようもないんだよね…妄想することをやめられないんだよ」
「普通の聖女は男同士の絡みに興奮しないのでマリィは聖女らしくねーです」
「!?」
「だから、私はマリィが聖女の役割に振り回されているようには見えねーですよ」
「確かに…そうかもしれないね。教会でもその趣味は聖女らしくないからやめたほうがいいんじゃないかって、布教しようとした女の子に諭されたことがあったし…普通ではないのかも?」
「自分のことを普通って言っているやつは信用ならねーです」
「うん。確かに。私が聖女らしく振舞っているって言ってもたかが知れているよね」
「そーですよ」
「…今まで誰かに相談とかしたことなかったから。サシャちゃん、聞いてくれてありがとうね」
「これぐらいどってことねーです」
「うふふ。そろそろ上がろっか。向こうの話も終わった頃だと思うし」
「はいです」
レインが木竜を納得させることができるとは思えねーですけど。とりあえず戻るですか。
服を着て、マリィと山頂に戻ると、レインとライドは何か考え込んでいる様子です。やっぱりうまくはいかなかったよーですね。
「あ、師匠…それにマリィもおかえり」
「その様子だと、何か言われたです?」
「あぁ。もし魔王を倒してしまった場合魔物はどうなると思う?って言われてね。うまく答えられなかったよ」
「そうだ。俺たちは魔王を倒したら平和になる。それしか考えてなかったんだよな。魔王を倒したからって魔物がおとなしくなるって保証もないし、ましてや魔物がいなくなるなんて都合のいい話もないはずだ。どうして今まで深く考えていなかったのか不思議なくらいだぜ」
「言われてみればそうですね。私も漠然と平和になるとしか思っていなかったです」
「でも、魔王は倒さなきゃいけない存在だって思う気持ちは本物なんだ。勇者としても、世界の為にも」
「でも、根拠はねーですよね?お前が何で魔王を倒すことが世界の為になるって考えているのか意味不明です」
「うまくは説明できないんだよ…でも魔王とは戦わなきゃいけない気がするんだ」
「ふんっ、まあお前はそれでいいです。私はあくまで自分の為に魔王を越えるです。世界とかはどーでもいいです」
そうです。私は私の為に行動するんです。そこに変な理由をつける必要はないのです。
「なんにせよ、お前たちはルコア様に挑戦する。ということでいいのだな?」
「モチのロンです」
「そう…ですね」
「ああ」
「はい」
「よかろう。ルコア様は寛大なお方だ。遠慮せずにぶつかってくればいい」
「…いいのですか?」
「ルコア様がお前たちに負ける姿なぞ想像できんからな」
「ふんっ。あとで後悔しても知らねーですよ」
「はっはっは!せいぜい足搔けよ。そして世界の真実を掴んで来い」
「…はい。先ずは魔王に会います。それから自分の子の気持ちは本物なのか、改めて確認します」
「はっはっは!それもよかろう。だが、魔王様の下までたどり着ければの話だがな」
「必ずたどり着きます」
「せいぜい足搔けばいい。まだお前たちは若いのだからな」
「ふん。爺のお前から見れば私たちが若いのは当然です」
「サシャ。すべてが終わった後、私のところに戻ってこい。お前は見ていると面白いからな」
「私は見世物じゃねーです。だから竜は嫌いなんです!お断りです」
「はっはっは!気が変わったらでよい。では、そろそろ我は寝るとしよう」
「俺たちも飯食って寝るか」
「そうだな。考えたいこともあるし」
「ここはウルドの縄張りですから、夜襲を警戒する必要はねーですよ」
「いよいよ魔王城に近いんですね…」
「ああ、旅ももうすぐ終点だ」
そうです。もうすぐ私が最強だと証明できるのです。
あともう少しで…




