世界情勢
白銀竜ルコア視点です
朝日たちが魔王城に来て2週間が過ぎました。
城へは人化しなければ入れず、竜の中で人化が出来る程の者はダハクしかいませんでした。その為本当に久しぶりに私たち以外の者が城に足を踏み入れたことになります。前勇者以来500年ぶりくらいでしょうか。
4人とも面白い人間で最近は楽しく過ごしています。
しかし、私を倒すために勇者が向かってきているため、あまり悠長には過ごしてはいられませんが。
勇者たちがどれくらい進んだかを葵にスキル【探知】で調べてもらったところ、森を半ばほどまで進んだところのようです。
葵の探知は一度目視したことがある相手ならどこにいるのか把握できるらしいですね。良いスキルをお持ちです。空間魔法の転移も使えるようですし、組み合わせるとかなり強力なヒット&アウェイが可能になるでしょう。
森にいるということはどんなに早くてもあと2週間は掛かるでしょうか。
その前に4人を強くしていかなくてはなりません。なぜなら4人には私の代わりに勇者と戦ってもらわなくてはなりませんから…
勇者のステータスを朝日から教えてもらいましたが、正直ステータスはあまり参考になりません。それ程私と勇者の相性は悪いからです。
戦いの経験がない彼女たちに任せることに思うところもありますが、彼女たちのステータスを鑑定で見たとき、強くなると確信できる何かがありました。そこに私は可能性を感じています。
ダハクとの訓練を拝見していますが、目を見張るほどの成長をしています。
これは4人全員が持っているスキル【経験値増加】の効果もあるのでしょうが、彼女たちの才能によるところも大きいでしょう。その中でも朝日の戦闘にはセンスを感じます。本番では勇者を朝日が抑える役になるでしょう。そろそろダハクの剣技だけでは朝日と夕陽のコンビには太刀打ちできなくなっています。
とは言ってもダハクは本来竜として生きていたので剣の技術はあまりなく、圧倒的なステータス任せな部分があったので、こうなることは予想できる範囲内でしたが…それでも強くなるのが早いですね。
本来は魔法やブレスを豪快に使っていくスタイルなので明日からは魔法も使っていくかもしれません。
さて、ダハクが魔法を使うようになると今まで以上にダメージが多くなるでしょう。
彼女たちの着ている防具…体操服でしたか。大変可愛らしいのですが防御力が1ですからね1。
本来なら防具を変えるべきなのですが、異世界の思い出の品と言うことと圧倒的に可愛いので出来ればこのままでいて欲しい。
というわけでこの2週間で彼女たちに魔具を作りました。
ダメージを半減する効果のある指輪型の魔具です。これで下手な防具をつけるよりかは戦闘が楽になるでしょう。
早速朝日たちを呼び渡します。
「これは指輪を身に着けているだけで発動するので、常に着けてください」
「ありがとうございます!こんなに良いものを」
「これで訓練での痛みが減りますわ!」
「わあ、素敵です!」
「うれしい」
「ふふっ。私の為に戦ってくれるようなものですからね。これくらいは」
その後も魔具についての質問や今日の晩御飯についてなど立ち話をする。
その途中で朝日が重要な質問をしてきた。
「そういえばルコアさんは女神様と知り合いなんですか?」
「気になりますか?」
「そりゃ気になりますよ!」
「そうですね。ユリレーズ様とは知り合いですね」
「どのような出会いで?」
「そうですね…これはこの世界全体に関わることなので、どうせなら全員に聞いてもらいましょうか」
全員がこちらを向く。本当は勇者との戦いの後にお話ししようと思っていたのですが、遅かれ早かれ話さなければいけませんでしたし、この際すべて話してしまいましょう。
「ではお話ししましょうか。ユリレーズ様との出会い、なぜ私が魔王になったのか。そして今この世界がどのような状況なのかを」
当時を思い出しながら話す。
私が人化を出来るようになってある程度の時が流れた頃、突然頭の中に女性の声が聞こえてきました。
「(白銀竜ルコア。魔王をやっていただけませんか?)」
「(いきなり話しかけてきて何ですか?先ず名乗ってください)」
「(これは失礼。私は女神ユリレーズ。この世界を創った者よ)」
この世界を創った者…とんでもない方が話しかけてきましたね。
「(魔王とは何ですか?)」
「(魔物を統べる王のことです。この世界の魔物は現在増えすぎています。誰かが統一しなければ他の種族が間もなく滅びちゃうので)」
「(あなたが創った世界でしょう?あなたが統治すればいいじゃないですか)」
「(確かに私が世界を創りましたが、魔物というイレギュラーを創ったのは別のアホなんですよ!)」
世界を創った神様が魔物を生み出したのではない?
別の神が魔物を創った?
「(ユリレーズ様以外の神もこの世界に関与していると?)」
「(そうそう。そいつが要らんもんを創ったおかげでせっかく作ったこの世界がヤバい!だから君に世界を救ってほしい)」
詳しい話を聞きました。話を纏めると…
この世界を見に来たある神が面白半分でこの世界に魔物を創り、魔物から出る魔素を吸収することで自分がこの世界で住む城を維持し始めたらしい。
現在、そいつのせいで魔物が増えすぎた為、他の種族は世界の中心で防波堤を築き、何とか生き永らえているがそれも時間の問題。
しかし女神は魔物全体を何とかすることはできない…が魔物の中の数体には干渉できる。
そこで、知性があり、且つ争いを好まないような性格のレア魔物にこうしてコンタクトを取り、魔王になり魔物たちを抑える役目をこなしてもらえないかスカウト活動をしているらしい。
ざっくりこういう状況なわけですね。
「(話は分かりました)」
「(お、やってくれる!?)」
「(私にメリットがありません)」
「(城をプレゼントしよう!異世界でも有名なとっておきの城をさ!それを魔王城として優雅に過ごすといい!)」
「(うーん)」
「(よし!出血大サービスでキミのライバルの漆黒竜の知性を高め、人化できるようにしよう!)」
漆黒竜のダハクは事あるごとに私に突っかかってくる困った竜です。
ただ、私と同じだけの時を生きているのに頭が悪いのか未だに人化が出来ないでいました。
私は数少ない話し相手としてダハクとは仲良くしたいと思っていたところです。これをきっかけに仲良くできたらいいですね。
「(わかりました。お受けしましょう)」
「(やった!幸先イイ!とりあえずここは西のドラゴンの森か…最西端に城建てとく!)」
それから私は西の魔王を担当することになりました。
しばらくしてから残りの東南北を担当する魔王も見つかったようで魔物もおとなしくなっていきました。
それから数百年が経ち、人間を中心とした種族は徐々にその数を再び増やし、規模も大きくなっていきました。
そんな時、再び女神様が脳内に話しかけてきました。
「(ルコアちゃん、久しぶり)」
「(ユリレーズ様ですか。魔王になったら西から動けなくなるなんて聞いていませんでしたよ)」
「(ごめん!数日ならいいんだけどさ、それ以上だと魔物が暴走しちゃうんよ)」
「(全く…それで、今度はどんな頼み事ですか)」
「(いやーそれがね。またあのアホがやってくれたわけさ。せっかく平和だったのにね)」
「(どういうことでしょう?)」
「(以前他の神がこの世界にちょっかい掛けてるって話はしたよね。その神が私の真似をしてきたのさ)」
「(もう少し具体的に話してください)」
「(つまり、私が敵である魔物の中に魔王を創ったように、あっちも人間の中に勇者を創ってきたのさ。魔王殺しの勇者をね)」
はぁ…要するにこの神たちはこの世界を盤面に見立ててゲームをしているのでしょう。腹立たしいことに。
女神ユリレーズの駒…魔物以外の種族と魔王
敵の神の駒…魔物と勇者
こんなところでしょうか。今は勇者で魔王を取れば魔物が再び暴走し敵の神の勝ちと。
全く……
「命を何だと思っているのですか」
「(いや、本当にごめん…私はただこの世界を見守っていたいだけなんだけど)」
「(はぁ。つまり、近々勇者が私を討ちに来ると)」
「(そうなんです…)」
「(話は分かりました。勇者は私が何とかします)」
「(すんません。よろしくお願いしますm(__)m)」
「それからは皆さんにお話しした通りですね。神たちの争いにムカついていた私は勇者にこの世界について話し、説得することで神の目論見を外してやろうとしましたが、結局その時の勇者は処刑され、今また勇者が私を討とうとしている状況ですね」
「…なんだか話が大きすぎてビックリです」
「本当ですわね…」
「(葵ちゃん、部屋でもう一回説明して?)」
「わかった」
この世界に来てまだ1月も経っていない彼女たちに話すのもどうかと思いますが、彼女たちもまたこの世界のイレギュラー。
魔王や勇者と同等の存在だと私は見ています。役割がはっきりしていないので違うかもしれませんが。
「でもそっか。このお城は女神様が創ったんだね」
「ということはやはりノイシュバンシュタイン城をモチーフにしているのね」
「私一回行ってみてかったんだー。まさかの夢が叶ったよ」
「良かったね芽衣」
「葵ちゃんと来たかったんだよ?」
「私も嬉しい」
どうやら女神様が言っていた異世界の城とは彼女たちのいた地球の城のことだったようですね。とても神秘的な城なのでこれを造った地球人は感性が豊かですね。
「ルコアさん!」
「何ですか朝日」
「私もっとルコアさんと仲良くなりたくなりました!何百年もこの世界の為にずっとここで魔王をしているルコアさんを尊敬します!」
「私もですわ!」
「「私たちも」」
「ふふっ。ありがとうございます。まぁ他にすることもなかっただけですがね」
それから数日、どこか距離を置かれていたのがウソのように4人が私に話しかけてくれるようになりました。ふふ。嬉しいですね。




