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文芸部の部長は変な人

文芸部の部長は変な人だった

作者: 海木海

あらすじにも書いてありますが、「文芸部の部長は変な人かも」の続編です。

この作品だけ見ても分からないかもしれません。

 僕の名前は明。

 文芸部所属の一年生だ。

 この文芸部の部長の名前は高山彩。長い黒髪で、いかにも清楚な外見とはうらはらに、どこか中二病をこじらせた人である。

 部長とかれこれ二か月は過ごしてきた。

 その中で新しく分かったことがある。

 部長は僕といるときは弱い姿を見せようとしない、こと。

 たまに、部長は僕といるときでも弱い姿を見せる、こと。

 その日は中間テストが返却される時期だった。

「うぅ~」

 部長が青ざめた表情でテスト用紙を眺めている。

「どうしたのですか?」

「聞いて。アクラ君」

「明です」

「そこはどうでも良いのよ」

「良くはないです。人の名前を間違えないでください」

 僕は続ける。

「それで。部長、どうしたのですか?」

「ああ、うん。これ」

 そう言って、部長は僕にテスト用紙を見せてくる。

 国語、70点。数学Ⅱ、36点。数学B、24点。世界史、32点。地理、29点。英語、21点。

「…………部長」

 なんてひどい結果なのだろう。赤点が三つもある。

「このテスト用紙をどの角度で見せたらお母さん、怒らないと思う?」

「多分、どの角度から見せても怒ると思います」

「やっぱそうかな」

「むしろ見せる角度で怒られない可能性があると思っていた部長に驚きです」

「でももしかしたら」

「万が一にもあり得ません」

 その日の部長は酷く弱弱しかった。


 でも部長はポジティブな人だ。

 弱い姿を見せるのは少しだけ。すぐに部長はいつもの部長に戻る。

 少なくとも、中間テスト返却時期明け。部長の機嫌は上機嫌だった。

「聞いて。アクラ君」

「だから明です」

「アカリ君?」

「さらに離れて、いえ微妙に惜しくなりました。漢字の読みを変えたらパーフェクトです」

「彩ちゃん?」

「それ部長の名前ですよね! どうしてそこにたどり着きますか!」

「そうだった」

 部長がてへへと照れた表情をする。

「それで、どうしたのですか?」

「昨日の日曜日、一日中暇だったから、出かけたの」

「部長。中間テストの結果酷かったですよね? 勉強しなくて大丈夫なのですか?」

「それはどうでも良いのよ」

「いや、良くないですよ。T大に行きたいんですよね? だったら勉強しないと」

「良いのよ。もう、どうでも良いのよ。私は悟ってしまったの。T大は無理だとね」

 えぇ。

 大丈夫だろうか。部長の将来がめちゃくちゃ心配だ。

「部長、悪い方向に成長しましたね」

「ええ。私は悪に走ると決めたのよ。不良になってみせるわ」

「ボスじゃなかったのですか?」

「そうよ。不良で、ボス。くっつけて不良ボスよ」

「残念ながら、不良とボスはくっつけることは出来ません」

「そんなバカな」

 余談だが、猫を見つけた、可愛いという話だったみたいだ。

 可愛い不良ボスだ。


 別のある日。

 その日も雨だった。

「明君。傘の用意を」

「はいはい」

 僕は鞄から折り畳み傘を取り出す。

「どうぞ」

「ありがとう。明君。右腕らしい、良い仕事よ」

「さいですか」

「お礼にこれをあげるわ」

 そう言って、部長は自分の鞄の中から折り畳み傘を取り出した。

「部長、今日は忘れなかったんですね」

「ええ。賢いボスだもの。何度も同じミスは繰り返さないわ」

「どこが賢いボスですか」

「むぅ、今私のことバカにしたでしょ?」

「いいえ。むしろ褒めています」

「えっ? そうなの? なら許すわ」

 部長の扱いが分かってきた気がする。

「今日は雨だから、憂鬱ね。だから文芸部は今日は休み。さあ。明君。帰りましょう。先に行くわね」

「はいはい」

 帰りの仕度が出来ていなかった僕と、すでに終わっていた部長。

 先に部長が出て行った。それを追いかけるようにして、僕は学校の外へ向かう。

 学校の外まで行くと、部長が僕の青い折り畳み傘をさしながら、僕に笑顔を向けて待っていた。

 可愛い笑顔だった。

「さあ、帰りましょう?」

「その前に。部長、僕の傘返してください。交換したままになっています」

「あら、どうして? 別にいいじゃない」

「ピンク色の傘を使うのは僕にはレベルが高いです」

「明君に似合うと思って、それを選んだのに」

「ボスが確信犯でした。失望しました。右腕辞めます」

「一体ボスである私のどこに失望する箇所があったのかしら。私には分からないわね」

「その自信、部長らしいです」

 そう言って、僕は笑った。部長も同様に笑った。

 部長の笑う姿を見るだけで、僕はうれしかった。

 もしかしたら。

 僕は部長のことが好きかもしれない。

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